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『クラウドからAIへ』(小林雅一) [読書(サイエンス)]

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かつてのAIが各種ルールでガチガチに固められ、柔軟な適応力が欠けていたのに対し、復活したAIは統計・確率的な手法や脳科学の最新成果を導入することによって、非常に融通の利く現実的な技術へと生まれ変わりました。(中略)
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 この新しいAIは、21世紀に入ると冒頭で紹介したビッグデータ・ブームに乗って、飛躍的な成長を遂げました。現在のAIはビッグデータから有益な知見を引き出してくれると同時に、そうしたビッグデータを消化吸収して、さらに高度なものへ進化するという便利な性格を備えています。そこから大量のデータが拡大再生産され、それがまたAIの進化を促すという、無限に続くプラスの循環が生まれるのです。
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Kindle版p.4、5

 何度も期待されては裏切られてきたAI(人工知能)技術。それが今、ついに現実のビジネスとなり、社会を大きく変えようとしている。かつてのAIと現代のAIでは何が違うのか。AI技術が引き起こす社会問題とは何か。AI技術をとりまく現状を分かりやすく解説する一冊。新書版(朝日新聞出版)出版は2013年7月、Kindle版配信は2014年7月です。


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クラウド・コンピューティングの次に来るキー・テクノロジーは、実はビッグデータというより(それを処理するための)AI技術なのです。(中略)
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初期のAIが科学者達の知的好奇心に支えられていたのに対し、現在のAIは厳しい競争を勝ち抜いてきた強豪企業が、あくまでも自らの事業に役立てる目的で研究開発しています。(中略)つまり単なる好奇心や理想ではなく、地に足ついたニーズ主導のAI開発なのです。これが今度こそ、AIがテイクオフ(本格的なビジネスに脱皮)すると見られる最大の理由です。
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Kindle版p.5、19


 今や様々な分野で中核技術となっているAI。その歴史を振り返りながら、現代のビジネスにおける位置づけ、今後の見通しと課題など、広い視野でAIを解説してくれる好著です。

 全体は四つの章から構成されています。

 「第1章 なぜ今、AIなのか? ----米IT列強の思惑」では、アップル、グーグル、フェイスブックの三社を取り上げてその戦略を分析し、いずれも顧客の活動記録などのビッグデータを独占し、各種ネットワークサービスへの入口をおさえる、という目標のためにAI技術の開発に邁進しているということが明らかにされます。


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アップル、グーグル、フェイスブックの長期ビジョンは一致しています。アップルは「Siri」、グーグルは「セマンティック検索」、そしてフェイスブックは「グラフ検索」によって、(中略)「モバイル・インターネットへのゲートウェイ(入口)を押えたい」という点で一致しているのです。(中略)
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 なぜ彼らがゲートウェイにこだわるかというと、そこからユーザーの様々な嗜好や活動に伴う膨大なデータ、つまりビッグデータが入ってくるからです。(中略)つまり3強は、モバイルを巡るビッグデータの争奪戦に突入しつつあり、その勝敗のカギを握るのが、自然言語処理や画像認識などに代表されるAI技術なのです。
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Kindle版p.49、50


 「第2章 “知性”の正体 ----AIの歴史から見る、進化の方向性と実力」では、何度となく挫折を繰り返してきたAI開発の歴史を振り返りながら、現代のAI技術の大きな潮流である「統計・確率的アプローチ」と「ニューラルネットワーク」について基礎を解説します。


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AI研究の開始から半世紀以上を経て、彼らはルール・ベースにせよ統計・確率的アプローチにせよ、そういった理詰めの手法では人間の知性を再現することが不可能であると悟ったのではないでしょうか。言い換えれば、「人知に頼るだけでは、人間並みの知能を生み出すことはできない」と、ある意味で諦めたのです。
 それで彼らは、本物の知性の創造を「ブラック・ボックス(無数の形式ニューロンの自己組織化)」に委ねたのです。
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Kindle版p.190


 「第3章 “知性”の値打ち ----AIが生み出す巨大なビジネス・チャンス」では、音声認識、自動運転、自律型ロボットなど具体的な産業分野の現状を示しつつ、現代のAI技術が社会に与えるインパクトについて解説します。


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現代のAIは人間が生み出す大量のデータ(ビッグデータ)を吸収し、(第2章でご理解頂いたように)自律的な機械学習によってそれを消化(分析)し、より高性能なものへと成長を遂げます。これがさらなるデータ量の増加を促し、それがまたAIの進化を促す。つまり無限に続く、プラスの循環をもたらします。これが20世紀終盤のインターネット革命、いや18~19世紀の産業革命にも匹敵するかもしれない、現代AI革命の巨大なポテンシャルを示しているのです。
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Kindle版p.109


 「第4章 “知性”の陥穽 ----AIにまつわる諸問題」では、AI技術の発展によって引き起こされるであろう社会問題について解説します。

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 今後、AIの導入によって、“知性”を備えた機械やシステム(ソフトウェア)が私達の社会に浸透したとき、そこにはどんな問題が生じるでしょうか。それは次の2種類に大別されます。

(1) 人間が機械(システム)に依存し過ぎることで生じる危険性
(2) 人間が機械(システム)に雇用や存在価値を奪われることへの不安
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Kindle版p.174


 自動運転のエラーによる事故の責任問題、自律型ロボット兵器による戦争、金融の自動超高速取引により引き起こされる恐慌、高度なソフトウェアやロボットにより失われる雇用と失業問題、さらには人間の存在価値が脅かされる不安、AIが人間を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)といった話題まで、少なくとも法的規制について今すぐ議論しなければならない差し迫った問題が挙げられます。


 AI技術の急激な発展はどのようなブレークスルーにより引き起こされたのか、なぜ巨大企業は莫大な開発費をつぎ込んでAI開発に邁進しているのか、そしてそれがビジネスひいては社会にどのような影響を与えるのか。現代のAI技術をめぐる話題の多くを広くカバーしてくれる一冊です。AI技術に興味がある方にお勧めなのはもちろんのこと、今後の社会トレンドを考える上でも要注目だと思います。


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