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『私と遊んで』(大崎清夏) [読書(小説・詩)]

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 詩に毎週しめきりがあるなんて、私にとって初めてのことでした。嬉しいと思い、恐ろしいと思いました。連載中に中原中也賞の受賞が決まり、いっしゅん来週のことなんかなにも考えられなくなって、動揺したことを覚えています。
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「あとがき」より


 季節をとらえ、風景をうつす。親しみやすい言葉が心に響いてゆく。まるで友達と話すように。ブログに連載された作品をまとめた電子詩集です。Kindle版(マイナビ)配信は2014年9月。

 2014年1月14日から4月29日まで週連載した作品を集めたとのことで、冬から春にいたる季節感があふれています。目に見えるものだけでなく、聞こえるもの、触れるもの、五感をフルに使って書かれたこれらの作品を読むと、まるで自分もその場にいるような気分に。


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天地創造の日は秋だった
山の緑が肌寒くて誰かが震えた
果たして、秋の色があった
ぴりっと空が高かった
落ち葉の上に椅子を一脚
眺める頬に風は当たった
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『天地創造の日は雨だった』より


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きれいに降って喜ばれ
きれいに積もって踏み荒らされ
夢みたいに降り続けて人の苛立ちを買って
(全くバカの一ッ覚えみたいに降りやがる)
速く走る電車は速度を落とす
ほかのどんな天候より
目処のたたない雪のなかで
人は人をこんなに好きだ
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『雪の映画祭』より


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イネ科の雑草が弱気に生えて
黄色い家がぴかぴか建ち
晴れた庭にはガンタッカーの木霊
アブクのなかにはカマキリの種
すーんすーんと切なくなり
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『春の師匠』より


 社会的・時事的なことを題材にした作品でも、どこか自然の風景の中にいるような感じがして、自分も当事者としてそこにいる、という感覚が生じます。


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きょう、それは
パイオニア一〇号が最後の外部太陽系データを送信した日。
風の谷のナウシカが金色の草原を歩いた日。
独歩が武蔵野の林をさまよった日。
大勢の大勢の人がいちどに死んで
大勢の大勢の人を私たちが悼んだ日。
ほかのいつかどこかと同じ日。
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『特別な日』より


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いいラッパーが大勢の人を連れていく
叫びながら歩く大勢の人を連れていく
さいかどー、はんたい
くらしをー、まもれ
私も叫びながら付いて歩いていった
いいラッパーの言葉を繰り返して歩いていった
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『たのしいデモ行進』より


 まるで友達と話しているような、親しみやすい言葉で語りかけてくる作品を読むのは嬉しくて、心が浮き立ってきます。


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たくさんお酒を飲んだので
昨夜のことはよく憶えていません
だけど何を隠そう終電間際の高円寺の改札口で
叫んだのは私の女友達でした
 おしゃれ
  なんて
   ばっきゃろー。
驚いた、私たち涙目でした
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『我ら装う』より


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むれのなかからうしがいっとうこっちへきて
わたしのすぐそばまできてとまって
じっとわたしをみてなくの
ああなんておおきなめだろう
なんですべて こんなにおだやかなんだろう

わたしはなまえをつけてあげるのそのうしに
わたしのなまえをつけてあげるの
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『アルプ』より


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