SSブログ

『世界が驚いた科学捜査事件簿』(ナイジェル・マクレリー、沼尻由起子:翻訳) [読書(教養)]

--------
これまでにいろいろな場所でさまざまな人々がびっくりするほど多様な画期的新技術を開発し、科学捜査史におもしろみを加えてきた。銃弾分析から昔ながらの指紋法まで、科学捜査技術の裏には事件がある。実際に起きた事件を振り返ると、技術進歩の実用的価値が際立ってくる。
--------
単行本p.20


 銃弾、指紋、微細小片、毒物、血液、そしてDNA。犯行現場に残されたものから被害者の身元や犯人を特定する技術の発展を促し、その有用性を厳しく試してきたのは常に、実際に起きた犯罪だった。事件を中心に見た科学捜査技術の歴史を紹介する一冊。単行本(河出書房新社)出版は2014年8月です。


--------
 フランスの優れた法科学者エドモン・ロカールが端的に述べたように、「あらゆる接触には痕跡が残る」(「ロカールの交換原理」)。事実、どれほど頭が切れる犯罪者であろうと、自分が存在していたことを示すわずかな痕跡を現場に残したり、痕跡の一部を現場から持ち去ったりするものだ。ロカールの交換原理は現代でも科学捜査の要となっていて、ちょっとした痕跡から犯人を絞り込むことができる。
--------
単行本p.118


 科学捜査を支える基本技術がどのようにして発展してきたのか、その歴史を実際に起きた事件をベースに紹介してくれる本です。全体は7つの章から構成されています。


「第1章 身元」

--------
第一歩を踏み出したのが、フランスの警察官・犯罪研究者アルフォンス・ベルティヨンである。(中略)ベルティヨンは身元確認システムに取り組み始め、今でいう「モンタージュ写真」を作成した。
--------
単行本p.30、31

--------
ラヴァコルの一連の事件で果たしたベルティヨンの身元確認システムの役割はとてつもなく大きい。ベルティヨンの知名度はいやが上にも高まり、今やパリの「シャーロック・ホームズ」となった。(中略)
アーサー・コナン・ドイルの長篇小説『バスカヴィル家の犬』の中で捜査の依頼人はホームズのことをベルティヨンに次ぐ「ヨーロッパ第二の探偵」と呼んでいる。
--------
単行本p.38

 第1章では、身元確認システムから指紋法まで、犯罪捜査に導入された初期の技術と、それらが事件解決にどのように役立ったのかを詳しく紹介してくれます。


「第2章 弾道学」

--------
銃規制の甘い国では、他のどの凶器より拳銃で殺される人が増えている。だからこそ、弾丸と武器の分析は不可欠であり、きわめて重要な科学捜査技術となっている。
--------
単行本p.84

 この章では、弾丸に刻まれた施錠痕からそれを発射した銃を特定する技術など、銃に関する科学捜査技術の歴史が扱われます。


「第3章 血液」

--------
熟練者であれば、血痕の飛び散り方などから殺害や暴行の様子が目に浮かび、被害者は反撃したのか、逃げ出そうとしたのか細部までわかるものだ
--------
単行本p.108

 この章のテーマは血液。血液型の判別から、血痕の分布パターンに至るまで、現場に(しばしば大量に)残された血液からどのような情報が得られるかを解説してくれます。


「第4章 微細証拠物件」

--------
顕微鏡が登場して以来、犯行現場に残る血痕のような微量の物質を検出・分析することも可能になった。実際、一本の髪の毛や鉱物の小片といった最小の微細証拠物件を調べることで、世間を騒がせた大事件が解決している。
--------
単行本p.141

 この章では、靴についた土、現場に残された毛髪や繊維など、顕微鏡で見なければ分からないほど微細ながら、極めて重大な情報を含んでいる証拠物件を検出し分析する技術について書かれています。


「第5章 死体」

--------
人体は思いの外処理しにくい。死体を焼いても骨や歯は残る。重りをつけても死体はやがて水に浮かぶ。死体を隠せば、早晩腐敗臭が漂い、昆虫などの生き物が群がり始め、犬が嗅ぎつける。死体の腐敗が進んで白骨化しても、現代の高度な科学捜査技術をもってすれば身元の手がかりを得ることができる。
--------
単行本p.143

 この章では、被害者の死体(しばしばその断片)から、死因、犯人の特徴、犯行時刻を割り出し、さらには白骨から容貌を復元するなど、様々な検死技術が紹介されます。


「第6章 毒物」

--------
毒を盛れば、被害者の体に暴力の痕跡を残すことなくこっそり殺せるし、病死と間違われることもあるだろう。同じ脈絡で、その昔、毒殺は社会の主流から外されて毒物の外に頼るものがない社会的弱者と関連づけられていた。
--------
単行本p.175

 この章では、毒殺の歴史、毒殺魔と呼ばれた犯罪者たち、そしてヒ素やタリウム、ニコチンから、放射性物質に至るまで、犯罪に用いられた様々な毒物について語られます。


「第7章 DNA」

--------
DNA指紋法の威力にはただ驚く他ない。ベルティヨン式人体測定法のような初期の身元確認法と比べると、個人を絞り込む際の精度などの点で雲泥の差がある。(中略)
DNA技術を利用すれば、帝政ロシア最後の皇帝一家やリチャード三世の場合のように過去にさかのぼって個人を識別し、歴史の謎に終止符を打つことができる。これもDNA技術の途方もない能力の一端を表しているにすぎないのかもしれない。
--------
単行本p.236

 最終章では、現場にのこされたわずかな体液から身元を特定するDNA分析の技術と、それが過去にさかのぼって真相を明らかにした事例(冤罪を証明したケースや、歴史上の謎を解決したケースなど)が紹介されます。


 というわけで、科学捜査技術の歴史を紹介する本ではありますが、技術の詳細について長々と説明するようなことはせず、その技術が解決に劇的な役割を果たした事件の紹介に力を入れて書かれています。まるでミステリー/犯罪小説の短篇集を読んだような印象。

 なお、紹介されているケースは凶悪犯罪が多く、ぞっとするような内容が頻出します。

--------
犯人は被害者の身元がわからないよう顔面の筋肉・脂肪組織を抜き取っていた。同じく手指はすべて指先の第一関節を切り落とすことで、警察が史を採取できないようにしていた。歯も残らず抜き取ってあるので、歯科カルテは使い物にならない。また、犯人は被害者の目印となる生まれつきの痣やほくろ、手術痕、傷跡も取り去っていた。(中略)
何はともあれグレイスター教授チームはバラバラに切り落とされた70もの部位から二名の被害者を復元して身元をはっきりさせなければならない。全く恐ろしいジグソーパズルだ。(中略)作業の途中で巨大な眼球が出てきたが、グレイスター教授によれば動物の眼であり、たまたま小包の中に紛れ込んだようだ。
--------
単行本p.169

 あまり具体的に想像しない方がいいでしょう。記述が淡々としているのでそれほど問題はないでしょうが、苦手な方は気をつけて下さい。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: