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『ヴィジュアル版 人類が解けない科学の謎』(ヘイリー・バーチ、マン・キート・ルーイ、コリン・ステュアート、柴田譲治:翻訳) [読書(サイエンス)]

 宇宙の秘密、生命の不思議、意識の謎。科学における主要な未解決問題を20問取り上げ、概要から最先端の研究まで多数の写真とイラストを用いて解説してくれる全ページフルカラーの豪華なサイエンス本。単行本(原書房)出版は、2014年3月です。

 「問うことが素晴らしく、そして同時に腹立たしくも思えるのは、問うことに終わりがないことだ。ひとつの問いに答えが出ても、そこから必ず新たな問いが生まれる。だからこそ科学者は答えを求め続け、人間の好奇心はつきることがない」(単行本p.9)

 物理学、天文学、生物学、医学、数学、そして社会とテクノロジーに関する20個の未解決問題を紹介する本です。「ヴィジュアル版」と銘打つだけあって、ほとんど全てのページにカラー写真やイラストが掲載されており、眺めているだけでも楽しめます。

 もちろんページ順に読んでもいいのですが、興味がある分野ごとにまとめて読むのもお勧めです。

 まず天文学。「第1章 宇宙は何からできているのか?」では、正体が分かっていない暗黒エネルギーと暗黒物質、「第3章 人類は宇宙の孤独な存在か?」では地球外生命探査、「第8章 宇宙はほかにも存在するのか?」ではインフレーション理論および量子論における多世界解釈について、それぞれ紹介されています。

 「暗黒物質やその兄弟分である謎の暗黒エネルギーの正体がなんであれ、宇宙の大半はそれらによって占められている。私たちが生きているこの宇宙は、私たちを構成しているような原子でできているわけではないのだ」(単行本p.24)

 次に物理学。「第7章 なぜ物質が存在するのか?」では、この宇宙に物質がある、というか消滅せずに一部が残っている理由から、「対称性の破れ」へと進んでゆきます。「第17章 ブラックホールの底に何があるのか?」では、一般相対性理論から超ひも理論を経て、M理論へと至る道筋を示します。「第20章 時間旅行は可能か?」では、ワームホールを利用したタイムトラベルの可能性について教えてくれます。

 「M理論により量子力学と一般相対性理論というまったく異なるように思えるふたつの理論が真に統一できた日には、ブラックホールの「特異点」も歴史書の範疇ということになるだろう」(単行本p.232)

 生物学。「第2章 生命はどのように誕生したのか?」では、生命誕生の秘密をめぐる最新の議論を紹介。「第4章 人間はほかの生物とどこが違うのか?」では、他の動物と比較した人間の遺伝子の特徴を探ります。「第16章 深海に何があるのか?」では、深海探査によって発見された海底の生態系が紹介されます。

 「ヒトゲノムはチンパンジーのゲノムと99パーセントまで一致し、さらに言うならバナナのゲノムとも50パーセントも一致するのである。機能のあるタンパク質を暗号化している遺伝子だけを見ると、イースト菌と69パーセントまで一致し、ショウジョウバエとは94パーセントも一致する」(単行本p.55)

 一般読者の興味を惹くためか、医学・生理学には最も多くのページが割かれています。「第5章 意識とは何か?」では、私たちの意識や主観体験が「いかにして」「なぜ」生ずるのか、というハードプロブレムが扱われます。「第6章 なぜ夢を見るのか?」では、睡眠と夢が果たしている生理学的な役割についての研究が紹介されます。

 「第14章 病原菌を駆逐できるのか?」では主に抗生物質をめぐる課題が、「第15章 癌は克服できるか?」では癌研究最前線、そして「第18章 永遠の命を手に入れることができるだろうか?」では抗老化研究の状況が解説されています。

 「毎年新たに約44万件もの多剤耐性肺結核の発症事例があり、世界中で少なくとも15万人が死亡している。さらに悪いことに、広範囲薬剤耐性結核菌(XDR-TB)が64か国で報告され、完全薬剤耐性肺結核菌が出現する兆しもある。さらに懸念されているのは、肺結核であれそのほかの細菌であれ、既存のどんな抗生物質を使っても治療できない新しい菌がすでに現れている可能性があることだ」(単行本p.181)

 「癌はまだわからないことだらけだが、それでもよいニュースもあって「わからない点があるということがわかってきた」のである」(単行本p.201)

 テクノロジーまわりでは、「第10章 太陽からもっとエネルギーを得るにはどうしたらいいか?」は人工光合成などの自然エネルギー、「第12章 コンピューターはどこまで高速化できるのか?」は量子コンピューターやDNAコンピューター、「第13章 ロボットの執事が登場するのはいつ?」ではロボット工学の発展について解説します。

 「今から考えてみれば1969年にニール・アームストロングとバズ・オルドリンを月へと運んだ誘導システムが、現在のトースターより非力な計算能力しかなかったことなど想像もできない感じだ」(単行本p.155)

 一般読者は興味を持たないだろうと考えたのか、数学については「第11章 素数のどこがそれほど不思議なのか?」で、素数(の分布)に関するリーマン予想が取り上げられているだけです。

 社会問題としては、「第9章 炭素はどこに貯めておけばいいのか?」では地球温暖化への対策、「第19章 人口問題を解決するにはどうしたらいいか?」では社会の持続性と食料供給問題が扱われます。

 「私たちが1年間で消費している資源を再生するには約18か月かかってしまう。私たちはクレジットカード払いで生態系を消費しているようなもので、その請求書が届かないことを願っているのである」(単行本p.249)

 というわけで、幅広い分野について「今まさに科学者や技術者が取り組んでいる最前線の研究」を紹介してくれる一冊です。問題のポイントや研究の方向性について短いページ数で要領よくまとめられており、また美しいカラー写真満載で視覚的魅力にあふれているので、若者向けのポピュラーサイエンス入門書としても適しているでしょう。

 本書にざっと目を通し、気になる項目があればそのテーマに関するサイエンス本(どの項目についても一般向けの解説書が出ています)を読み、さらに深く知りたければ専門書に手を出す、というのが良いと思います。


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