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『さよならバグ・チルドレン』(山田航) [読書(小説・詩)]

 「「いい意味で愚かですね」とコンビニの店員に言はれ頷いてゐる」

 「打ち切りの漫画のやうに前向きな言葉を交はし終電に乗る」

 「ひなげしといふ形容詞あつたならこんな日はきつとひなげき気分」

 未来への希望と幻滅、持て余してお持ち帰りするしかない自意識。山田航さんの、若さ染み出す第一歌集を読みました。単行本(ふらんす堂)出版は、2012年8月です。

 山田航さんといえば、穂村弘さんの短歌を解説した『世界中が夕焼け 穂村弘の短歌の秘密』を読んだことがありますが、ご自身の歌集を読むのは初めてです。ちなみに『世界中が夕焼け』単行本読了時の紹介はこちら。

  2012年07月17日の日記:
  『世界中が夕焼け 穂村弘の短歌の秘密』(穂村弘、山田航)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2012-07-17

 さて、本書ですが、随所から若さが感じられる歌集です。特に学校が舞台となる作品は、もう青春まみれ。

 「カントリーマアムが入室料になる美術部室のぬるめのひざし」

 「水飲み場の蛇口をすべて上向きにしたまま空が濡れるのを待つ」

 「酔つ払へるカフェオレ「カルアミルク」なるものの噂で街はもちきり」

 「僕のほかに誰が歌へるといふのだらう超新星へのレクィエムなど」

 超新星へのレクィエムを歌ったりする一味違うオレも、バイトをしたり、就活をはじめたりするだけで、いきなりぺっしゃんこ。

 「僕が僕にしかなれないといふ悪夢 バスの天井吹き晒す風」

 「たぶん親の収入超せない僕たちがペットボトルを補充してゆく」

 「「いい意味で愚かですね」とコンビニの店員に言はれ頷いてゐる」

 自分は役立たずの負け組、といった苦々しい幻滅を感じるようになります。自嘲や僻みが口癖になったり。若いなあ。

 「モノクロに還るゆふやみ残業のデバッグルームに灯る自販機」

 「打ち切りの漫画のやうに前向きな言葉を交はし終電に乗る」

 「ざわめきとして届けわがひとりごと無数の声の渦に紛れよ」

 「いつの日か誰かわかつてくれるだらう 夕焼けもまた自閉してゆく」

 ふと死を考えたりしますが、まあ逃避です。

 「いつも遺書みたいな喋り方をする友人が遺書を残さず死んだ」

 「鉄道で自殺するにも改札を通る切符の代金は要る」

 「交差点を行く傘の群れなぜ皆さんさう簡単に生きられますか」

 「正月しか見たことのない漫才師みたいに生きてゆけたらと思ふ」

 個人的には、自分でしかない自分を受け入れるしかないまま受け入れ生きるしかないから生きるようになるまでの、肩から力が抜けるまでのあの長い苦しみを、しみじみと思い出しました。若かった。

 「ひなげしといふ形容詞あつたならこんな日はきつとひなげき気分」