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『「最悪」の法律の歴史』(ネイサン・ベロフスキー:著、廣田明子:翻訳) [読書(教養)]

 「すべてが実在する法律や事件であり、偽物も誇張もない。実際の法律は作り話よりも断然面白いというのが私の信念だ。(中略)どの物語も読むぶんには楽しいが、すべて事実だということを忘れてはならない。当事者にとっては笑いごとではなかったはずだ」(単行本p.5)

 理不尽だったり、意図不明だったり、やりすぎだったり。世界各国にある奇妙な法律や法的トラブルを集めた一冊。単行本(原書房)出版は、2014年1月です。

 「家事をおろそかにした妻は、川に投げ込まれる。夫を見捨てた妻は、川に投げ込まれる。浮気をした妻は、愛人とともに、川に投げ込まれる。浮気の疑いをかけられたものの目撃者がいない妻は、自ら川に飛び込むこと」(バビロニア、紀元前1750年頃)

 「すべての聖職者は、教会の司祭であれ教区付き神父であれ、あらゆる種類の強姦行為から無罪放免される」(英国、1449年)

 ハンムラビ法典からマイクロブラックホール製造禁止法案まで、世界の(といっても欧米中心ですが)様々な珍法律を調べ上げた一冊です。

 まずは米国から。

 「ヨーヨーで魚を釣ってはならない」(サウスカロライナ州)

 「爆発するゴルフボールを製造、販売、または所持してはならない」(マサチューセッツ州)

 「市内での核実験を禁止する」(カリフォルニア州チノ市)

 「おっぱい枕を郡道の1000フィート以内で販売してはならない」(カリフォルニア州)

 「国歌は全曲通して演奏しなければならない」(ミシガン州)

 「ビーバーは許可なしにダムを建設してはならない」(ミシガン州)

 しかし、英国にはさらに伝統と格式を感じさせる法律の数々が。

 「国会議事堂内で死亡してはならない」

 「国王や女王の肖像切手を逆さまに貼ると反逆罪」

 「女性のトップレスは違法。ただし熱帯魚販売店の店員を除く」

 「クリスマスにミンスパイを食べてはならない」

 その他の国々も頑張っています。

 「空飛ぶ円盤と呼ばれる飛行物体は、その国籍を問わず、上空通過、着陸、離陸することを禁止する」(フランス、シャトーヌフ・デュ・パープ村)

 「「社会的」な鳥はつがいで飼わなければならない」(イタリア)

 「食事を分けあうペットたちには同じ量の食べ物を与えなければならない」(イタリア)

 「自分を殺すことに同意してはならない」(カナダ)

 「男性の性的能力を回復させる方法に関する情報を正統な理由なく宣伝または公表してはならない」(カナダ)

 「税務長官は次の権限を有する。1.実際に起こった事象を起こらなかったものとして扱うこと。2.実際に起こらなかった事象を起こったものとして扱うこと。3.実際に起こった事象を実際に起こった時と異なる時に起こったものとして扱うこと」(オーストラリア)

 アジアからは、輪廻転生の事前申請義務(中国)、非伝統的な「スシ」を取り締まる視察隊の海外派遣(日本)、といったネタが挙げられていますが、欧米の事例に比べると圧倒的に少ないのが残念です。著者が米国の弁護士であるためでしょう。

 しかし、珍法律の何と多いことか。眺めていると、法の権威というものがぐらぐらと揺らいでいくような気がします。

 もちろん、それぞれに事情や経緯があって成立した法律なのでしょうが、ついつい「ソーセージと法律がどのようにして作られるかは知らないほうが幸せだ」という箴言が脳裏をよぎります。

 法や裁判の権威というものについて考えさせられる事例が、本書に登場する「親指ルール」。

 親指ルールとは、「夫が妻をしつけるとき、自分の親指より細い棒でなら叩いていい」という法律のことで、ノースカロライナ州の裁判では妻を殴った棒が親指より細いことを根拠に無罪の評決が出され、上訴審でも覆らなかった、という事例があるそうです。

 「他にも似たような事例でこの親指ルールが引用されている(中略)比較的最近の書籍、論文、記事にも親指ルールの事例が報告されている」(単行本p.232)とのことですが、この法律は具体的にどこに記されているのでしょうか。

 「法律家、司書、男女同権主義者らが大規模な調査を行っているが、いまだ確かな手掛かりは見つからない」(単行本p.233)


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