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『SFマガジン2014年6月号 ジュヴナイルSF再評価』 [読書(SF)]

 SFマガジン2014年6月号は、ジュヴナイルSF再評価ということで、短篇二本が掲載されました。また、メアリ・ロビネット・コワルと草上仁の短篇も掲載されました。

『タンポポの宇宙船』(藤崎慎吾)

 「ボクは遥馬が想像しているような円盤に乗ってないし、葉巻型の母船もない。シャーレの中に入っている、タンポポの綿毛みたいなやつがボクの船だ。これには自力で地球を脱出できる能力がないんだよ」(SFマガジン2014年6月号p.18)

 超小型宇宙船を拾った少年と少女が、それを宇宙に帰してやるために奮闘するというジュヴナイルSFの王道的作品です。制約が大きい(特に財力)中学生だけで、宇宙船を大気圏上層部まで打ち上げることは可能か、というのがキモ。同じアイデアが登場する野尻抱介さんの短篇作品が連想されます。

『たとえ世界が変わっても』(片理誠)

「ラグナは少しでも指示が足りなかったり、間違っていたりすると、容赦なくトラブルを引き起こす。 けれど不思議なことに、そういったトラブルの一つ一つが僕らの心を結びつけていったような気がする」(SFマガジン2014年6月号p.49)

 誕生日のプレゼントとして、祖父の形見だという旧式ロボットを貰った少年。我慢して使おうとするものの、トラブル続出。学校でも馬鹿にされ、悔しい思いをする。だが、何人かの友達と一緒に辛抱強く頑固なロボットの相手をしているうちに、彼らの間には不思議な絆が生まれてくるのだった。

『釘がないので』(メアリ・ロビネット・コワル、訳:原島文世)

 「わたくしはダウンなどしていません。ただ孤立しているだけです」(SFマガジン2014年6月号p.143)

 世代宇宙船に乗り込んでいる一族は、すべての記録をコーデリアという名の人工知能に記録させていた。ところがハードが故障し、外部との接続が断たれてしまう。コーデリアにアクセスできなくなった一族は大いにうろたえるが、そのためにコーデリアがずっと隠してきた秘密が暴かれることに……。テクノロジーへの依存を皮肉った短篇ですが、ヴィクトリア朝時代の女性を模したコーデリアをはじめとする登場人物たちの古めかしさが妙に印象的です。

『彼方へ』(草上仁)

 「雷樹は飛ぶのだ。しょっちゅう見られるものではないが、ときおり、下のほうから火を噴き、雷のようなものすごい音を立てて飛ぶ」(SFマガジン2014年6月号p.248)

 村のごくつぶしとして白眼視されている若者に、密かに想いを寄せる娘。あるとき若者は娘に、いつか雷樹の打ち上げを一緒に見に行こうと誘う。幾年もの歳月が流れた後、再会した二人は約束を果たすことに。

 冒頭からいわゆるロケットツリーが登場し、またタイトルがタイトルなので、ラストがどうなるかは明らか。それでも悠々と筆を進め、昔話のような古めかしい恋物語をじっくり展開させてゆきます。特集とは関係なく掲載された作品のようですが、ジュヴナイルSFの雰囲気が濃厚です。

[掲載作品]

『タンポポの宇宙船』(藤崎慎吾)
『たとえ世界が変わっても』(片理誠)
『釘がないので』(メアリ・ロビネット・コワル、訳:原島文世)
『彼方へ』(草上仁)


タグ:SFマガジン
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