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『リメディア いま、ここで』(構成・演出:カミーユ・ボワテル) [ダンス]

 2014年5月4日は、夫婦で東京芸術劇場プレイハウスに行って、フランスの国際マイムフェスティバルで最優秀賞を受賞したという『リメディア』を鑑賞しました。演劇ともサーカス(ヌーヴォーシルク)ともパフォーミングアートともつかない、奇妙なドタバタとコントが続く70分の舞台です。

 舞台上には、ガラクタを積み上げて作った塔を始めとして、私たちの身の回りにある様々な家具や備品がいっけん乱雑に配置されています。やがて、いかにも「貧しい労働者」風の出演者が登場し、帰宅して狭い部屋に入って、さて一息ついて着替えようと……するのですが、何しろ壁は倒れ、テーブルは傾き、照明は落下し、身動きする度に周囲のあらゆるものが崩れてゆきます。

 あまりのドタバタに大笑いですが、さらに崩壊はスケールアップ。今や舞台上のあらゆるものが次々と壊れ、崩壊し、崩落し、頭上からはいきなりペットボトルの山が振ってくる、積み上げてある段ボールの山は崩れてくる。その中を逃げまどう何人かの出演者たち。

 踏めば壊れる、寄れば倒れる、触れば弾け飛ぶ、じっとしていると上から振ってくる、というシチュエーションが続き、息をつく間もありません。

 この次から次へと予想外のハプニングが起こり続ける冒頭20分間ほどのシーケンスが素晴らしく、どういうタイミングで何が起きるか知ってからもう一回観たい、と思わせる綿密さ。

 一段落した後はゆっくりとしたペースとなり、黒幕が舞台上を滑るように移動するたびに出演者が出現したり消滅したり入れ替わったり、細かい繰り返しギャグ(家具の扉を開けると中にいつも同じ人が入っていて、叫びながら逃げてゆく等)、コメディカルなマイム(重力に逆らって昇ってゆこうとする両足を必死でおさえる等)、スラップスティックギャグ(金たらいでばんばん殴る)など、ネタを小出しにしながら、笑いと、そして微妙な不安感を盛り上げてゆきます。

 後半の見どころは、舞台上の様々なものが重力を無視して「右傾化」する場面。周囲の何もかもが傾いているため、出演者も身体を大きく傾けたまま舞台上あちこち歩き回るのですが、それを支える他の出演者(黒子という設定)の涙ぐましい努力が笑いを誘います。

 ぴったり息のあった引き継ぎ(それまで背後から腰を支えていた担当者から、前からロープで引っ張って支える担当者にバトンタッチする等)のタイミングが次々と連続してゆく様を観ていると、妙な感動が込み上げてきます。

 考えようによっては、「連鎖的に破綻してゆく貧しい労働者の生活」「地に足つかない知識人階級」「さらに右傾化してゆく世相」といった新聞の見出しみたいな内容をフィジカルに皮肉ってみせた作品かも知れません。

 でも、観ている間はそんな小賢しいことは思い浮かばず、次々と起きるハプニング演出、厳格に進行するマイムの妙、視覚的な不思議さ(例えば、舞台上のあらゆるものが傾いている光景を観ていると観客の平衡感覚もおかしくなってきます)などが印象的な、可笑しくて、楽しくて、でもちょっと不安で不気味なところもあり、結局のところ、その昔「ドリフのコント」に馴染んだことがあるか否かが問われる、そういう公演でした。

[キャスト]

カミーユ・ボワテル、 アルド・トマ、 パスカル・ル・コー、トマ・ド・ブロワシア、マリオン・ルフェーヴル、ミッシェル・フィリス


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