SSブログ

『オタク的翻訳論 日本漫画の中国語訳に見る翻訳の面白さ 巻十一「機動戦士ガンダム」』(明木茂夫) [読書(教養)]

 日本の漫画やアニメなどを中国語に翻訳するとき、頻出する文化依存の文脈(ネタ)を翻訳家はどのような創意と工夫で乗り越えたのか。中京大学教授である明木茂夫先生の好評シリーズ『オタク的翻訳論』、その十一巻が出ました。出版(東方書店)は、2013年06月です。

 今巻の研究対象はガンダム、それも基本的にファーストガンダムの中国語翻訳を、同じく英語翻訳(吹き替え版、字幕版)との比較により分析してゆきます。

 もともと七井コム斎先生による「ガンダム講談」の幕間トークコーナー「外国語版ガンダム翻訳研究」において明木先生が披露したネタの一部を掲載したものだそうで、そういう経緯のせいか、この巻は特にアカデミック色が薄くなっています。

 まずは軽く『逆襲のシァア』漫画版に触れた後、本命であるファーストガンダム(劇場版三部作)の中国語字幕を紹介。なお、英語版と並記されますが、以降では中国語版のみ書き写します。まずはタイトル。

  「鋼弾屹立大地」(ガンダム大地に立つ!!)

  「攻撃敵軍補給艦」(敵の補給艦を叩け!)

  「核心戦闘機、脱離吧」(コアファイター脱出せよ)

  「復活的夏亜」(復活のシャア)

 どうですかこの直訳っぷり、そしてその違和感の無さときたら。セリフの翻訳を見ると、ますますそう感じられます。

  「連邦軍的MS是怪物嗎?」(連邦のモビルスーツは化け物か!)

  「真是不想承認・・・ 因為自己年軽而犯下的錯誤・・・」
  (認めたくないものだな、自分自身の、若さゆえの過ちというものを)

 そのまま直訳するだけで、原文の風味まで忠実に再現されています。ガンダムのかっこ良さの多くが、その大時代的ハッタリめいた物言いにあるわけですが、これはつまり漢文(書き下し文)のそれなんですね。漢文書き下しの響きが軍記物に活かされ、軍記物のノリがガンダムへと受け継がれていった。だからガンダムを漢文に直訳しても違和感がない。なるほど。

 「やはりガンダムというのは大ネタで、詳しいファンが多いだけに、私などが論ずるのはあまりに僣越である。ぬるい冊子となったこと、平にお許し願いたい」

 とのことですが、ネタやツッコミがぬるいというより、このシリーズの魅力は「言葉遊びや時事ネタなど、とうてい翻訳不能と想われる日本語をどうやって無理やり中国語に翻訳したのか(時にとんでもない勘違いもあったり)」という面白さにあるにも関わらず、今巻にはそれがほとんどない、自然な直訳で何の問題もなかった、というあたりに、他の巻と比べて「ぬるさ」が感じされる原因がありそうです。

 なお、次巻では、まるで今巻の「ぬるさ」を挽回するかのように「全編これガンダムネタ、そして全編これ日本語の言葉遊び、という作品」の中国語翻訳版を取り上げて分析するそうなので、期待したいと想います。


タグ:台湾
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: