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『時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選』(中村融:編) [読書(SF)]

 「これらの作品が忘却の淵にあったのは、中短編が軽視されるわが国の翻訳SF出版事情の弊害。作品の出来が悪かったからではないのだ」(文庫版p.359)

 1970年代から1980年代にかけてSFマガジンに掲載されたきりだった時間SFの古典的傑作を書籍初収録したアンソロジー。文庫版(東京創元社)出版は、2013年07月です。

 『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』に続く時間SF傑作選です。ヤングのロマンチック冒険SFから、タイムカメラが巻き起こす騒動を描くシャーレッドの傑作まで、全七篇を収録しています。


『真鍮の都』(ロバート・F・ヤング)

 「むかし、ビリングズという男がおりました。この男はまだ妻がなく、自動マネキン会社の時間旅行員をなりわいとしておりました。(中略)ある日のこと、このVIPP誘拐員は、麝香と沈香とジャスミン水、大魔神とジンとジニー、スルタンと彼の後宮と宰相の娘たちのいる時代に行き、そして・・・恋に落ちたのです・・・」(文庫版p.14、15)

 千一夜物語の語り手として名高いシェヘラザードを誘拐するため、過去にタイムトラベルした主人公。首尾よく彼女を後宮から連れ出したはいいが、タイムマシンが故障して帰還不能に。しかも、二人は魔神たちが支配する「真鍮の都」に迷い込んでしまう・・・。

 SF的に味付けしたアラビアン・ナイト風の恋と冒険の物語。波瀾万丈で大雑把でロマンスがあってハッピーエンド、つまりヤングらしい作品。


『時を生きる種族』(マイケル・ムアコック)

 「時間に関して奇怪な概念をいだいている彼らが、空間のある一点に存在できるのとまったく同じように、時間のある一点に思いどおり存在できると示してくれたのだから。そういうことは可能だと知ればいいだけの話だ」(文庫版p.118)

 神話的世界を旅する若者が、時間は流れるものではなく、あらゆる瞬間は独立して存在しており、意識を正しく使用するだけで時間の中に自由に存在できるということに気付く。

 『10月1日では遅すぎる』(フレッド・ホイル)にも似た思弁的時間SFですが、その神話世界の雰囲気はさすがムアコックです。


『恐竜狩り』(L・スプレイグ・ディ・キャンプ)

 「像の体重は----そうですね----四トンから六トン。旦那が撃ちたいとおっしゃる爬虫類は、体重が像の二倍か三倍で、はるかにしぶといんですよ。だから、シンジケートの決まりで、600をあつかえない人間は、もう恐竜狩りへはお連れしないんです。旦那方アメリカ人流にいえば、つらい目にあって学んだんです。不幸な事故がありましてね・・・」(文庫版p.129)

 タイムトラベルにより白亜紀での恐竜ハンティング旅行に出かけた一行。だが、傲慢でわがままなハンターの軽はずみな行動が原因で、彼らは絶体絶命の危機に陥ってしまう。

 ほとんど何のひねりもないタイトル通りの作品ですが、巧みな話術により最後まで楽しめます。


『マグワンプ4』(ロバート・シルヴァーバーグ)

 「ぼくは無関係な第三者だ。電話をかけようとダイヤルを回しはじめたとたんに、いきなりだれかが電話に出て、ぼくにオペレータ9号かと聞いた。それだけのことなんだ」(文庫版p.183)

 突然の電話機異常。現れた三人の「黒服の男たち」。彼らは「人類打倒をめざすミュータント秘密組織」だったのだ。スパイ容疑をかけられた語り手は、タイムマシンで数百年後の未来へと追放される。そこで捕まった語り手は、「さてはきさま、ミュータントのスパイだな」との嫌疑をかけられて・・・。

 人類とミュータントの戦いに巻き込まれ、時空をあっちこっちピンボールのように飛ばされる哀れな男を主人公とするドタバタコメディSF。お馬鹿な会話と展開が軽快に続いて、ラストでちょっとぞっとさせる。個人的には本書収録作で最も気に入った作品。


『地獄堕ちの朝』(フリッツ・ライバー)

 「わたしは時空連続体から死体を掘りだし、四次元の自由をあたえる。あなたを蘇生させたとき、あなたが<いま>だと考える時点のそばで、あなたをあなたの生命線から切り離したのよ」(文庫版p.224、225)

 アルコール依存症に苦しむ語り手の前に突然現れた謎の女性。それは時空を超越した謎の組織「スパイダー(蜘蛛)」のスカウトだった。「チェンジウォー(改変戦争)」シリーズの一篇。全体に漂う陰鬱な雰囲気は、解説によると著者自身の体験を反映しているためらしい。


『緑のベルベットの外套を買った日』(ミルドレッド・クリンガーマン)

 「もし時間旅行者がいて、自分の妹の親友がつけていた日記を未来で発見したいとします。自分もその日記に登場するのはまちがいないとします。先に読む機会をどこまで他人に譲ればいいんでしょう?」(文庫版p.244)

 高価な緑のベルベットの外套を思い切って買った女性。帰宅途中でふと立ち寄った古書店で出会った謎めいた青年に、その外套を渡すのだが・・・。『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』に収録されていてもおかしくないような「時に隔てられた恋愛」もの。


『努力』(T.L.シャーレッド)

 「きみたちはどんな世界に住みたいんだ? いや、住みたくないんだ?」(文庫版p.330)

 過去の任意の場所を撮影できるカメラを発明した男たちが、歴史大作映画を作って大儲け。資金と名声を手にした彼らが挑む真の目標とは。『過ぎ去りし日々の光』(クラーク/バクスター)と『テクニカラー・タイムマシン』(ハリイ・ハリスン)を合わせたような話で、能天気でノリのいい前半の展開に浮かれていると、やがて物語は理想と現実の衝突を描くシリアスな方向へと突き進んでゆきます。

 ゆうに長篇に匹敵する内容を詰め込んだ傑作で、1947年に発表されたとは思えないその現代的な内容に驚かされます。むしろ、ウィキリークス、スノーデン、アノニマス、といった言葉がニュースに頻出するハクティビズムの時代にこそふさわしい物語。もっとも、インターネットがあれば、全く違った展開になるでしょうけど。


[収録作品]

『真鍮の都』(ロバート・F・ヤング)
『時を生きる種族』(マイケル・ムアコック)
『恐竜狩り』(L・スプレイグ・ディ・キャンプ)
『マグワンプ4』(ロバート・シルヴァーバーグ)
『地獄堕ちの朝』(フリッツ・ライバー)
『緑のベルベットの外套を買った日』(ミルドレッド・クリンガーマン)
『努力』(T.L.シャーレッド)


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