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『歯車vs丙午』(疋田龍乃介) [読書(小説・詩)]

 「丙午が食べる!/ 歯車が消化される!/年越したら丙午消える!/ でも歯車まわると!/  一瞬で60年経って!/丙午また襲い掛かる!/   歯車と丙午!/  同時に赤ちゃんちゃんこ着用!/いつも遠方には唐繰だけが曖昧だ!」
 (『歯車vs丙午』より)

 狂騒感に包まれた弾けまくる詩集。単行本(思潮社)出版は、2012年10月です。

 言葉の洪水、強烈なタイポグラフィ、記号の乱打まで、あらゆる技法を駆使して表現される狂騒感が凄まじい詩集です。どんな感じかというと。

 「ぶんぶんぶんぶんぶーんぶんぶぶーぶーんぶーぶー風風ふわふわふわふわっふーわっふーーわっふーーーーーーーんわっふーーーふわっふーんぶんぶぶぶーーん部分べちゃ部分べちゃべちゃお尻に付着させながらハチミツつけつけさせちゃいながらぶんぶんぶぶん歩こうぷーんぶんぶん歩歩歩ミツバチのすきっぷーーんぷんぷーんすきっぷーんぶーんすきっぷーーーーーんぷん粉ぷんぶぶぶんぷーんぶん文武ぶんぶんぶんぶんぶんぶぶ舞舞舞ぶいんぶいんぶいんぶんぶんおいしいミツバチぶん分ぶん分ぶぶぶぶ相応ミツバチ相応ぶんぶんミツバチぶぶぶぶぶぶミツバチぶぶぶついでにおならもぶーんぷーんぷんするミツバチ撫撫撫ミツバチ撫撫ミツバチ撫ミツバチなでミツバチなでなでなでかわいいミツバチのかわいいなでなでしたいミツバチのかわいいミツバチのだいじに思ってるミツバチのかわいがるだいじなミツバチのだいじなだいじなハチミツを。。。。。。。
 
 
  いきなり強奪!」

 (『ハニーシロップ・オン・ザ・ロード』より)

 間違えないよう慎重に書き写している最中で後悔してきましたが、やめときゃよかった、とにかく、こうした頭がくらくらしてくるような言葉の奔流がすごいのです。いきなり強奪!

 ミツバチだけではありません。例えばムカデについての描写はこうです。

 「美味しい卵の透けて見える脚のすらすらする脚の眼のする一脚につき十二本の指のゆったり上下するする付け根の脚の奥を凝視すればまたまたどう見ても全く違う種類の脚がもはや集まりすぎてもう脚だかなんいだかわからない感じの脚が、とにかく脚が、脚が、脚よ、脚よ、脚なのよ!」
 (『百脚御殿』より)

 すべり台はこう。

 「すべり台生誕時の肉声、
  「ぱぱやぱやぱぱぱ」
  すべり台を造った人の辞世の言、
  「立派なすべり台を造れたと思います」」
 (『犬でもできる。』より)

 蕎麦なんかこうですよ。

 「嵐の後の連れてこられた極秘の空間/アレルギー性蕎麦粉飛び散る巨大工場/また理不尽な往復蕎麦ビンタが炸裂する/蕎麦でできた猿轡が味覚以外全て圧迫/しなやかな蕎麦の鞭はO脚に敏感だ/眼球を粉のみで覆う力技に続いて/舞踊する鋭い蕎麦の針・・・/膨れ上がる蕎麦の焔・・・/執拗な蕎麦の鉤爪・・・/こうやって何度繰り返したか/改めて蕎麦道拷問が再開される/同胞たちはすでに絶滅させられた/痛烈に美味しいことは認めるが/答えるべき情報はなにもない/本当になにが望みなんだ/もう蕎麦はやめてくれ・・・・・・/頼むからこのくらいにしてくれ、」

 (『蕎麦道拷問』より)

 虫や料理ならまだイメージもわきますが、そうかしら、歯車と丙午の死闘、たぶん、となるともう想像のしようもなくて、考えるな、感じるんだ、の世界に。

 「よく見ると桜吹雪すりつぶす歯車/桜の森の満開の下A左右L上下丙午/まわる歯車の荒い吐息の60年/標本鮫から丙午と見せかけて歯車女/お義母さんが巻いた歯車すら輪姦の丙午/湯豆腐の襞からはぐはぐする歯車」
 (『歯車vs丙午』より)

 というわけで、こういう感じで延々と続く言葉の爆弾低気圧、読んでる途中で思考力を喪失して、ぱぱやぱやぱぱぱ、ぶんぶんぶん、となる法悦の書。痛烈に美味しいことは認めるが、本当になにが望みなんだ。

 「いいのかしらいいのかしら/こんなにはしゃいじゃって/ときにはすごく意地悪いこと考えたりして/いいのかしら/こんなことやあんなことしながら街に入ってしまっても」

 「音符と味覚が跳びはねている/ああっ あんあっ/あんこよりやわらか蜂の蜜/こんな疑いようのない楽しい喜悦/感じちゃってもいいのかしら」

 (『ハニーシロップ・オン・ザ・ロード』より)

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