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2012年を振り返る(5) [サイエンス・テクノロジー] [年頭回顧]

2012年を振り返る(5) [サイエンス・テクノロジー]

 2012年に読んだポピュラーサイエンス本のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2012年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まず生物学、生命科学まわりですが、何といってもインパクトが大きかったのが『バイオパンク DIY科学者たちのDNAハック!』(マーカス・ウォールセン)です。オープンソースを駆使しキッチンや私設ラボでDNAを操作して世界を変えようとしている若者たち。その姿は、かつてガレージでパソコンを組み立てていた若者たちに重なってゆく。バイオテクノロジー革命の最前線について、生き生きとしたイメージを得ることが出来ました。

 『見せびらかすイルカ、おいしそうなアリ 動物たちの生殖行為と奇妙な生態についての69話』(パット・センソン)は、とにかく面白いエピソード満載の読み物。進化によって生み出された数々の奇天烈な生殖戦略が、私たちの常識をあっさりと覆してゆく様にはもう大興奮。

 『捕食者なき世界』(ウィリアム・ソウルゼンバーグ)は、ごく少数の捕食者が滅びたことで生態系全体が崩落していった事例の数々を紹介してくれる衝撃的な一冊。生態系や生物多様性についていかに自分が理解してないか痛感させられます。

 『進化の運命 孤独な宇宙の必然としての人間』(サイモン・コンウェイ=モリス)は、「進化史のテープを巻き戻して再生したとしても、人類が再び登場する可能性はないだろう」という、『ワンダフルライフ』でグールドが展開した主張に真っ向から反論する一冊。論拠として持ち出される並行進化(進化の収斂現象)の豊富な事例が素晴らしい。あまりにもキリスト教よりの著者の主張には賛否あるとは思いますが、それは置いておいて、広く読まれるべき魅力的な生物学本です。

 その他、大津波で海水につかり昆虫や淡水性生物が一掃された土地で今、生態系がどうなっているのかを追った『巨大津波は生態系をどう変えたか 生きものたちの東日本大震災』(永幡嘉之)、多摩川の事例を中心に身近なところから外来種問題を考える『タマゾン川 多摩川でいのちを考える』(山崎充哲)、様々な分野の専門家が「地球外生命」をキーワードにして語る『地球外生命9の論点 存在可能性を最新研究から考える』(自然科学研究機構:編、立花隆/佐藤勝彦ほか)が印象に残りました。

 特定の生物種についての本としては、『ペンギンのしらべかた』(上田一生)と『旅するウナギ 1億年の時空をこえて』(黒木真理、塚本勝巳)が面白かった。

 医学まわりでは、最も身近な疾病である風邪について最新の知見を教えてくれる『かぜの科学 もっとも身近な病の生態』(ジェニファー・アッカーマン)が印象的でした。私たちが思っているよりずっと分かってないことが多いこと、そして私たちが分かっていると思っていることの多くが間違っていること、などがよく分かりました。

 『空耳の科学 だまされる耳、聞き分ける脳』(柏野牧夫)と『ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム』(古屋晋一)の二冊には、人間の聴覚について驚くべき知見が次々と登場します。読んでいて夢中になりました。

 『寿命1000年 長命科学の最先端』(ジョナサン・ワイナー)は、私たちが生きているうちに人間の寿命は1000年、いや100万年を突破する、と主張する異端科学者に焦点を当てた一冊。怪しげな話が大好きな読者は、『博士たちの奇妙な研究 素晴らしき異端科学の世界』(久我羅内)と共に、気に入ることと思います。

 怪しげといえば、『超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか』(リチャード・ワイズマン)。認知科学から、私たちが超常現象を「体験してしまう」理由を明らかにしてくれます。

 物理・地学・天文学まわりでは、まずは『気象を操作したいと願った人間の歴史』(ジェイムズ・ロジャー・フレミング)が印象に残りました。雨乞い師から気象兵器まで気象制御の失敗史を振り返り、地球温暖化対策の切り札として期待されている地球工学の有効性に対して強い懐疑を表明します。説得力を感じます。

 『とてつもない宇宙 宇宙で最も大きい・熱い・重い天体とは何か?』(ブライアン・ゲンスラー)は、天文学者が発見した様々な記録保持天体について紹介してくれます。記録それ自体も興味深いのですが、それを天文学者はどうやって正確に測定したのか、という点にこそ本当の感動があります。

 『決着! 恐竜絶滅論争』(後藤和久)は、恐竜絶滅の原因として小惑星衝突説がいかに決定的であるかを解説し、様々な反論(巨大噴火説など)が消えない事情を教えてくれます。本題よりむしろ、科学者たちが見せる人間臭い一面がとても興味深い。

 その他、プレートテクトニクスや地球深部探査についての最新知見を教えてくれる『ダイヤモンドは超音速で地底を移動する』(入舩徹男)、物理の基礎について分かりやすく解説してくれる『知っておきたい物理の疑問55』(日本物理学会)と『流れのふしぎ 遊んでわかる流体力学のABC』(石綿良三、根本光正、日本機械学会編)、そしてロボット工学の基本的な考え方を分かりやすく解説する『ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか』(鈴森康一)などが印象的。

 数学や統計学まわりでは、まずはパズルやギャンブルなど身近な話題から数学に切り込んでゆく『素晴らしき数学世界』(アレックス・ベロス)が素晴らしい。数学には縁がないと思っている方にこそ読んでほしい好著だと思います。

 『科学は大災害を予測できるか』(フロリン・ディアク)は、現在の科学で地震予知などの災害予測が正直なところどこまで可能なのかをまとめた一冊。『バースト! 人間行動を支配するパターン』(アルバート=ラズロ・バラバシ)は、人間の行動の背後にある数学的法則について教えてくれます。

 その他、『宇宙就職案内』(林公代)は、今や成長市場となった宇宙関連の職業を紹介。宇宙に関わりたいのであれば、宇宙飛行士だけでなく、実に幅広い職が選択できるということが分かります。

 最後に、『ドーキンス博士が教える「世界の秘密」』(リチャード・ドーキンス)を紹介しておきたいと思います。生物学から天文学まで、様々な科学の知見を美しいイラストと共に表現したフルカラーの教科書で、中学生から読むことが出来ます。もちろんそこはドーキンスなので迷信やオカルトやニューエイジちゃんへの批判は忘れませんが、声高に非難するのではなく、科学的世界観の方がずっと魅力的なんだよと強調する方向なのが嬉しい。