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2012年を振り返る(2) [小説] [年頭回顧]

2012年を振り返る(2) [小説]

 2012年に読んだ小説(SF、ミステリなどのジャンル小説を除く)のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2012年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まず笙野頼子さんですが、小説神変理層夢経の最初の単行本『猫ダンジョン荒神』が出版されました。老猫介護の労苦と、一瞬にして永遠の幸福を、限りなく切実に書いた力作です。

 「すばる」には続編『猫キャンパス荒神』が、また「文藝」には代表作の一つ『母の発達』の続々編『母のぴぴぷぺぽぽ』、そして新作短篇『ひょうすべの嫁』が、それぞれ掲載されました。それぞれ単行本化が楽しみです。なお、フェミニズム方面から笙野文学を(『水晶内制度』を中心に)評論した『なぜ男は笙野頼子を畏れるのか』(海老原暁子)も印象的でした。

 『増殖商店街』および『猫ダンジョン荒神』が電子書籍化されたことも話題になりました。年末にAmazon Kindle Paperwhite 3Gという読書端末を購入して、今ゆっくり読んでいるところです。これで、いつもポケットの中にキャトとドーラ。

 都合の悪いことは何もかも「なかったこと」にしてしまう世の中に対する、他人と共有しにくい怒りに震えている方は、ぜひ笙野頼子さんの作品を読んでみて下さい。

 さて、町田康さんは、『バイ貝』、『餓鬼道巡行』、『この世のメドレー』、『スピンク合財帖』と新作小説を四冊も出してくれました。嬉しい。個人的には、飼い犬のスピンクが作者の所業について大いに上から目線で語る『スピンク合財帖』がとても好きです。スピンクにはもっともっと語って頂きたい。

 2012年には、森絵都さんの最近の作品をまとめて読んでみました。『気分上々』、『異国のおじさんを伴う』、『この女』、『ラン』、『架空の球を追う』、『風に舞いあがるビニールシート』です。どれも面白いのですが、個人的なお気に入りは、短編集なら『異国のおじさんを伴う』、長編なら『この女』です。

  矢崎存美さんは、ぬいぐるみの姿をした中年男性を主人公とする連作シリーズ原点である『ぶたぶた』、そしてシリーズ新作『ぶたぶたカフェ』と『ぶたぶた図書館』を出してくれました。ハートウォーミングでいい話ばかりですが、何といっても食事が美味しそうなのが印象的でした。

 三崎亜記さんは、架空の競技「掃除」に打ち込む少年を主人公とした熱血スポーツ長編『コロヨシ!!』の続編『決起!』と、デビュー作『となり町戦争』の前日譚を含む『逆回りのお散歩』を出してくれました。ネットによる市民運動の虚実を扱った長編『逆回りのお散歩』が印象的。

 千早茜さんは、ばらばらな男女が「家族」になってゆく過程をじっくりと書いた『森の家』を出してくれました。ヒロインの人物造形が素敵だと思います。

 金井美恵子さんの『ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ』は記憶と想起の神秘を驚くべき超絶技巧で表現してみせた作品で、小説という形式で書ける範囲をあっさり跳び越えるような文章に震えました。

 松浦理英子さんの『奇貨』は、性愛がからまない男女関係を鮮烈に表現していて、大いに感心しました。

 本谷有希子さんの『嵐のピクニック』は、海外の現代小説のような奇想で押し切ってくるパワーあふれる短編集。自分には向かない作風の作家だと思って敬遠していたのですが、これからはちゃんと読んでみようと思います。

 その他、西崎憲さんの『蕃東国年代記』は和風ファンタジーとして安定した面白さ。橋本長道さんの『サラの柔らかな香車』は将棋小説ですが、激闘する棋士たちが全員女性なので、すさんだ雰囲気に流れないところが気に入りました。

 海外小説はほとんど読めなかったのですが(すいません)、岸本佐知子さんが選んで翻訳した「嫌な味わい」の短編を集めた『居心地の悪い部屋』は素晴らしかった。小説としての面白さ、じわじわくる嫌な感じ、続編に期待大です。

 その他、オラシオ・キローガの『野生の蜜』、レーモン・クノーの『文体練習』などが多大なインパクトで印象に残っています。

 絵本では、本に物理的な仕掛けがある『もっかい!』(エミリー・グラヴェット)、暗黒卿の子煩悩ぶりが微笑ましい『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』(ジェフリー・ブラウン)、滲んだような色合いが幻想的な『うきわねこ』(文:蜂飼耳、画:牧野千穂)、異国の食べ物に憧れる『きつねのホイティ』(シビル・ウェッタシンハ)、そして正統派ファンタジー『赤い目のドラゴン』(著:アストリッド・リンドグレーン、絵:イロン・ヴィークランド)が印象的でした。『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』は自分のためにとっておきましたが、他はすべて幼い甥と姪へプレゼント。読んでくれるといいな。


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