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2012年を振り返る(3) [随筆・詩] [年頭回顧]

2012年を振り返る(3) [随筆・詩]

 2012年に読んだ随筆と詩集のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2012年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まず随筆ですが、2012年は歌人である穂村弘さんの随筆をまとめて読んでみました。『整形前夜』、『にょっ記』、『にょにょっ記』ですが、いずれも思わずくくっと笑ってしまう面白さ。同じく歌人の山田航さんによる評論『世界中が夕焼け 穂村弘の短歌の秘密』や、角田光代さんとの対談、というか交換随筆『異性』も楽しめました。

 とてつもなくヘンな妄想について考えているうちに何だか世界の方が裏返ってしまうのが、翻訳家の岸本佐知子さんによる『なんらかの事情』。これまでに出版されている『ねにもつタイプ』、『気になる部分』と合わせて、いわば岸本妄想三部作。もうとにかくお気に入りです。ラブです。

 本谷有希子さんのエッセイと榎本俊二さんのイラストとのコラボレーション作品『かみにえともじ』も、その多大なるインパクトでたいそう印象に残りました。単行本に収録しなかった回も含めた「完全版」を出してほしい。

 森絵都さんの『おいで、一緒に行こう  福島原発20キロ圏内のペットレスキュー』は、避難地域に取り残された犬猫の保護活動をしているボランティアグループに取材した渾身の作品。フェンスを破り警察の目をかいくぐって放射能汚染地域に侵入し、野生化しつつある動物や悲惨な死骸と対峙する。彼らをつき動かしているものは何なのか。多くの人に読んでほしい迫力あふれるドキュメンタリーです。

 翻訳家である鴻巣友季子さんが真摯に言葉と向き合う『孕むことば』、詩人の伊藤比呂美さんが古典に切り込んでゆく『たどたどしく声に出して読む歎異抄』、詩人であり学者でもある中村和恵さんが「食」を切り口にして世界と異文化理解について語る『地上の飯 皿めぐり航海記』、いずれも素晴らしい。

 その他の随筆作品としては、反社会学のパオロ・マッツァリーノ氏が正しく「怒る」方法について語る『怒る! 日本文化論  よその子供とよその大人の叱りかた』、棋士の加藤一二三さんがライバルたちの思い出を語る『将棋名人血風録 奇人・変人・超人』、内田樹さんが「呪い」をキーワードに現代の世相を分析する『呪いの時代』、などが印象に残りました。

 異色作品は、東雅夫さんが編集した『私は幽霊を見た 現代怪談実話傑作選』です。昭和時代に書かれた実話怪談を集めた一冊ですが、怪談としてよりもむしろ随筆集として楽しめました。

 次に詩集。河野聡子さんの『WWW/パンダ・チャント』はその言葉のリズムと大真面目な顔で馬鹿なことを書く作風にノックアウト。最果タヒさんの『空が分裂する』や、中村梨々さんの『たくさんの窓から手を振る』は、その青春まっしぐらというか少女漫画を思わせる世界に魅了されました。

 川口晴美さんの『やわらかい檻』の地味に迫り来る迫力、水無田気流さんの『音速平和』のクールな造語の連打にも忘れがたいものがあります。

 金子鉄夫さんの『ちちこわし』、パワーがすさまじくて撃沈。四元康祐さんの『日本語の虜囚』では日本語探求の過程をそのまま詩作にするという大技に驚き、松岡政則さんの『口福台灣食堂紀行』では何よりまずそのあまりにも美味しそうな描写にやられました。

 その他、『YES(or YES)』(橘上)、『三月兎の耳をつけてほんとの話を書くわたし』(川上亜紀)、『山が見える日に、』(田中庸介)、『ホッチキス』(細見和之)など。

 最後に、2012年には私の配偶者でもある島野律子さんが初の詩集『むらさきのかわ』を出版。はたから見ていて、贈与経済、献本流通など、詩人コミュニティを動かしているシステムについて学ぶことが出来ました。


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