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『パオアルのキツネたいじ』(原作:蒲松齢、絵:蔡皋、翻訳:中由美子) [読書(小説・詩)]

 「へやのなかには かみを ふりみだした おかあさんが いました。ふとんのなかで ないたり、わらったりしています。なんだか 気が へんになったようでした」

 『聊斎志異』の一話を原作とした絵本。単行本(徳間書店)出版は、2012年10月です。

 『聊斎志異』といえば清代の中国で書かれた怪異譚集。幽霊や妖怪が登場する不思議な物語が500篇ほど収録されています。個人的な印象だけでいうと、割と色っぽい話が多いです。妖艶な美女に誘惑されて夜な夜ながんばっていた若者がどんどん衰弱してゆき、ある日たまたま通りかかった道士にこのままでは命はないと警告されて、とかそんな感じ。

 本書は、その『聊斎志異』のなかから『賈児』という短編を取り上げて、子供向きに脚色して絵本にしたもの。商人が留守の間に、その夫人の様子がおかしくなる。キツネの仕業だと見抜いた子供は一計を案じ、母親をたぶらかしていたキツネを見事に退治してしまいました、というのがあらすじ。

 こう、夫がいない間にこっそり忍んで来る者の正体は必ずしもキツネではないんじゃないかとか、母が寝室で嬌声を上げているのは別に気がふれたせいではないんじゃないかとか、大人が読むと色々と考えてしまいます。問答無用で殺されてしまうキツネたちもちょっと気の毒。

 絵はいかにも昔ばなし風で、さっと見は滑稽、じっくり見ると何だか不安を感じさせるという、いい按配になっています。解説にも書いてありますが、黒が多用されているのが特徴的で、闇夜はもとより、部屋の四方も闇に沈んでいる感じが、ちょっと怖いのです。

 饒舌に語りながら肝心の点が書かれてなかったり、緻密に展開してきた物語が唐突に断ち切られたりと、原作の『聊斎志異』が醸しだす不安感や怖さがうまく表現されていると思います。『聊斎志異』は何種類か翻訳が出ているので、この絵本を気に入ったら、そちらも読んでみることをお勧めします。


タグ:絵本
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