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『アン・ピスト(En Piste)』(ドミニク・ボワヴァン、パスカル・ウバン、ダニエル・ラリュー) [ダンス]

 2015年11月7日は、夫婦で彩の国さいたま芸術劇場に行って、フランスのヌーヴェル・ダンスを牽引した三人のコレオグラファ、ドミニク・ボワヴァン、パスカル・ウバン、ダニエル・ラリューによるダンス公演を鑑賞しました。

 70年代から80年代にかけてフランスで流行したシャンソンを16曲も使用した1時間の公演です。最初から最後までシャンソンが流れ続けるなか、今や初老になった名ダンサー三人が交替で、ときに二人で組んで、またあるときは三人で、踊るというシンプルな作品です。

 三人は、それぞれ簡素な黒い衣装に身を包み、首には大仰な襞襟をつけるという、よく言えば17世紀欧州貴族風、ありていに言うなら、どこの南蛮渡来人か、治療中の犬猫か、という格好で登場。流れるシャンソンに合わせて踊ります。

 身振り、手振り、手話なども駆使して、歌の内容をそのまま説明するようなダンスです。ときには歌われている状況を三人で寸劇かコントみたいに再現してみせたり。ひねりのない、ストレートな、マイムが中心。ときどき全身全力出してしまうドミニク・ボワヴァンのダンスが個人的に気に入りました。

 派手な動きはありませんが、さすが、身のこなしには堂々たる説得力があります。この上ない確信が込められているような手話の動き。優雅で気品ある所作。ここ面白いところだから笑ってね、というクラウンのようなかけあい。

 使われているシャンソンは、まあ、60年代から70年代の流行曲ですね、確かにそうですね、という感じなんですが、クライマックスとなるLeo Ferre(レオ・フェレ)の"Il n'y a plus rien"(There Is Nothing Anymore、もう何もない)は凄かった。怒りや嘆きや憤りが奔出するような歌をバックに、三人が「あの時代」をそこに凝縮させてゆくように、静かに、したたかに、踊ります。

 というわけで、いつだって歳相応の表現というものがある、生涯舞踊革命家、みたいな気合を滲ませつつ、あくまでコミカルに悠々と踊ってみせる舞台。お年寄りをナメてはいけないと思いました。


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