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『用意された食卓』(カニエ・ナハ) [読書(小説・詩)]

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人を切断された、
谷をつくるために、
また清めるために
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 大きな悲劇によって断ち切られてしまったものをつなぎ合わせようとする詩集。単行本出版は2015年10月です。

 怪談めいた雰囲気がすごかった前作『MU』がとても印象的で、最新詩集にも似たような気配を期待して読みました。ちなみに前作の単行本読了時の紹介はこちら。

  2014年11月12日の日記
  『MU』(カニエ・ナハ)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-11-12

 ところが今作はがらりと変わって、戦争、それもおそらくは非対称性の戦争、その犠牲者の視点から出てくる作品が大半を占めています。


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非常におもむろに、あまりにもおもむろに
大きな悪に呑まれる5月、
私たちは私たちの人生を台無しにしようとしていた。
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『名声』より

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そこに外観はなく
誤った情報を信じて
路上では人々の戦争が続いていた。
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『世帯』より

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にんげんの)鎖につながれて
犬のからだが波うつ
人間の地下室に
たった一枚の肉が
怒りのように押し寄せる
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『毬』より


 とにかく「切断」あるいはそれに類する言葉が頻出し、さまざまなものがさまざまに断ち切られてゆきます。容赦なく。


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それは静かに、
水平線を切断する
黒と黄色の、
暗い壁、
夕方6時、
彼は漁師ではなく、戦闘機として、
釣り糸を垂らし、魚を待っている。
世界に報復する
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『名声』より

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切断された
体は、汚染されていることがわかったので
攻撃されない
という考えに
起因する罪悪の
味を占め
悲劇の直前まで
むさぼる
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『野道』より

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ここにまだ、
夜しかなかった昔へと、
霧から霧へと、
百年も流れ、
故郷に戻り
死後に写真は切断された。
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『島』より

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裁断された尻尾を探す犬の
心は何度でも出ていき
地図は数分毎に外観を変更する
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『土』より

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〈夜明け〉の大きな音の対立、〈たましい〉と呼ばれるものは、
からだの小さな網目をくぐりぬけて、意志によって途絶え、
出血しながら、目の前で衝突し、
私は底に沈んだ。
解剖のために、手の中におかれ、
頭蓋骨を分割された。
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『合羽』より


 あらゆるものを切り離し、散り散りにしてしまうものの前で、小さいものをつなぎ合わせようとするかのような詩集です。そこには怒りと祈りの両方が込められていて、読者を強くたじろがせるのです。怪談よりもこわい。


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草花はぬかれつづけ そこから
滂沱 滂沱と
あふれるものに溺れる 小さい
隣人よ
すべて 祈りはつたない
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『居留守』より



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