SSブログ

『光化学の驚異 日本がリードする「次世代技術」の最前線』(光化学協会:編) [読書(サイエンス)]


--------
光のエネルギーによって発生した電圧や、光のエネルギーによって引き起こされた化学反応を通して、私たちは「光」を確認しています。ですから、光と物質の相互作用をきちんと扱う学問が、自然の理解に必要不可欠であり、新しい科学の展開と技術開発にきわめて重要と考えられています。これが「光化学」です。
(中略)
 光と生命の関わり、光による分子の機能制御、光触媒、光加工、ナノ次元の分析、ナノ物質の操作から、情報処理、液晶の制御まで、最先端のサイエンス、テクノロジーを21世紀の光化学は生み出しています。この分野で世界をリードしている光化学協会の研究者が、その最前線をわかりやすくまとめたものが本書です。
--------
Kindle版No.25、34

 光触媒から光ピンセットまで。光を使って物質を操る21世紀のテクノロジー、光化学の基礎と応用について一般向けに紹介する一冊。ブルーバックス新書版(講談社)出版は2006年8月、Kindle版配信は2015年11月です。


--------
現在の科学技術では、一個の蛍光分子から出てくる光子を、一つずつカウントすることができます。つまり、分子や、もう少し大きなナノメートルサイズの粒子(ナノ粒子)を、一個ずつ観測することができるのです。この分子をも見ることのできる最新の光計測技術と、光の力を利用して小さな物体を操る光ピンセットを組み合わせることで、溶液中の分子を操ったり、集めたり、ナノ粒子を一粒ずつ加工したりすることができます。
--------
Kindle版No.1865


 光による物質の制御というテクノロジーの最先端研究を紹介してくれるサイエンス本です。タイトル通り、その成果は驚異としか言いようがありません。21世紀、意外にSF。

 というわけで、光化学が関わっている幅広い技術研究分野の成果と将来の見通しをまとめた一冊。最初から最後までびっくり、わくわくです。全体は8つの章から構成されています。


第1章 環境を調和する光化学
--------
酸化チタン光触媒のさまざまな応用例をみてきました。水や大気の浄化、病院内の殺菌・抗菌、建築物外壁のセルフクリーニングなどへの応用がはじまっています。
 光触媒を働かせるための、たった一つの条件は、紫外光をあてることです。光触媒はガソリンも、電気も、ガスも必要ありません。
(中略)
光触媒でのいま一番の話題は、可視光応答型光触媒です。酸化チタンに窒素や硫黄などの元素を少しだけ加えることで、可視光にも応答する酸化チタンができつつあります。
--------
Kindle版No.304、313

 第1章では、酸化チタンなどの光触媒について、その発見から応用、将来の可能性まで詳しく紹介されます。


第2章 生命活動を支える光化学
--------
 光合成をおこなうのは、おもに植物なのですが、進化の初期段階に発生した細菌のなかにも光合成をおこなうものがあります。シス‐トランス異性化反応を利用した細菌も、そのうちの一つとしてあげることができます。ほかにも、植物がおこなうのとほぼ同じしくみで光合成をおこなう細菌が現存しています。彼らは、進化の観点からみると、植物にいたる前のより単純なシステムをもっています。ですから、光合成の格好の研究対象として、多くの研究がおこなわれ、構造や機能が植物よりもより詳しく調べられています。
--------
Kindle版No.522

 第2章では、光合成から視覚細胞まで、生物が行っている光化学反応について解説されます。また、光によるガン治療(光化学療法)についても紹介されます。


第3章 超分子のナノ光化学
--------
 ジアリールエテン分子は光異性化反応により分子の大きさが変わることもわかっています。紫外光照射前には平らだった結晶の表面に、光照射によって分子の構造変化に基づく溝が生成します。可視光照射により分子構造がもとに戻ると、結晶表面の溝も消失します。このような現象は光エネルギーをダイレクトに機械エネルギーに変換できることから、まったく新しい光素子への応用が期待されています。
--------
Kindle版No.841

 第3章では、光で動く分子モーター、光による分子の着脱色(フォトクロミック分子)、など、分子の動きや構造を光によって制御する技術が紹介されます。


第4章 情報を処理する光化学
--------
メモリのさらなる高性能化のために、熱反応ではなく光化学反応を使い、レーザー光の集光性の高さに加えて、偏光、位相などの光の性質も有効に使った方法が考案されています。このような記録方法をフォトン(光)モード光記録とよびます。
--------
Kindle版No.1013

 第4章では、コピー機の仕組みから始まって、光相関を使った画像認識技術、ホログラフィー技術、フォトンモード光記録など、情報処理分野に応用される光化学技術が紹介されます。


第5章 液晶を操る光化学
--------
アゾベンゼン液晶の動きを光で操ると、自在に曲げ伸ばしできる液晶フィルムをつくることができるのです。
 光で動く液晶フィルムは、モーターや電源を必要としません。しかも光によって曲がるのは液晶分子ですから、かぎりなく小型化することも可能です。たとえば将来、電源がなくても使用できる人工筋肉や、超微小領域で作業できるナノロボットなどが実現するかもしれません。
--------
Kindle版No.1310

 第5章では、液晶の発見から、液晶ディスプレイの原理、光で動く液晶(アゾベンゼン液晶)、光で曲がる液晶フィルムまで、光化学を応用した液晶技術が紹介されます。


第6章 材料を加工する光化学
--------
 固体の内部に折れ曲がった空洞を作製するというのは、ドリルを使う機械加工などのほかの方法では無理で、透明な材料の内部に進入し性質を変えることができる光技術でのみ可能な加工です。
(中略)
反対に、光をあてた部分だけを固体として取り出すような加工法もあります。これには、「光硬化性樹脂」という、もともとはネバネバとした液体で、光をあてると硬化してプラスチックになる材料を使います。この加工の場合にも、フェムト秒レーザーを用いると、光をあてたときにその焦点部分だけが硬化するので、非常に微細で複雑な構造物をつくることができます。
--------
Kindle版No.1462

 第6章では、レーザーアブレーション、フォトリソグラフィーなど、光による物質の微細加工技術が紹介されます。


第7章 微小空間を分析する光化学
第8章 分子、ナノ粒子を操る光化学
--------
光のソフトな性質を使うことにより、油滴や、そのほかの微粒子一粒を思いどおりに操り、これを光で分析できるようになりました。分析したい微粒子の溶液中の熱運動を止め、それを自由自在に操るために「レーザー捕捉」、または「光ピンセット」とよばれている方法が用いられています。
(中略)
光ピンセットにより試料中の望みの大きさの微粒子を一粒ずつ選び出し、熱運動を止め、一粒の吸光分析と蛍光分析をおこなうことができます。(中略)近い将来、溶液中で分子一個ずつを光でつかまえ、自由に操り、光ではかることができるようになるのではないかと期待されています。
--------
Kindle版No.1586、1666、1941

 第7章と第8章では、光の力学的作用(光圧)を用いたナノ粒子の制御(分子操作)技術と、それを使った微粒子ひとつひとつの分析、さらにナノ粒子の分析という、新しい研究分野が紹介されます。



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: