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『Down Beat 7号』(柴田千晶:発行者代表) [読書(小説・詩)]

近況報告(柴田千晶)より
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 近所に不思議な人がいる。中年女性なのだが、ミリタリーファッションで身を固め、背中に特殊警棒を挿している。黒いワークキャップにサングラス、腕には防刃プロテクターをしている。たまに路上で警棒を抜いて形稽古みたいなことをしていることがある。趣味なのか? 私はこの人によく出会ってしまう。(中略)会いすぎるような気がする。先日はスーパーの洗面所で二人きりになってしまった。ドアを開けたらその人がいて、どきりとした。正直怖い。別に何かされたわけではないけれど。
 この話を友だちにしたら、その人、あなたにしか見えない人なんじゃないの?と言われた。
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 詩誌『Down Beat』の7号を紹介いたします。お問い合わせは、次のフェイスブックページまで。

  詩誌Down Beat
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Down Beat 7号
[目次]

『尾久八幡』『明神下』(廿楽順治)
『ピーマン』(徳広康代)
『公道』『猿罪』(中島悦子)
『さっちゃん(さちこ)』(今鹿仙)
『秋夜』(小川三郎)
『身代わり scene8』(柴田千晶)
『啓示』『空地』(金井雄二)


『明神下』(廿楽順治)より
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    洒落のわからないやつらだな
            さびしさと
       生き死にに関係はない
明神下はそこからやっとはじまるのだ
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『猿罪』(中島悦子)より
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肖像とは
刺繍の表にすぎず
錦糸を留めた裏は
ただのササクレ
人間の背景は何か
夕日の裏は何色か
ぐるりと回ってみなくては

猿を見ている
人間を罰しながら
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『秋夜』(小川三郎)より
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私とあなたはふたりして
どんどん小魚を口にして
どんどん変な鳴き声になった。
どこかの家の窓が開いて
うるさいと叫ぶ声がしたが
私とあなたは聞き耳をもたず
盛り合うようにして罵り合った。
(中略)
新月の光を浴びながら
人間的な感情など
どこかに行ってしまった様子のあなたは
自分の小魚を食べ尽くし
私の指にまで
手を出そうとするので
あまいキスをし
また海へ行こうというと
しょんぼりとうなずいたのだ。
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『身代わり scene8』(柴田千晶)より
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更地にしてしまえば俺の夢に映子が出てくることもない。あの部屋の遺体はミヤコではなく映子かもしれないと俺は始めに思ったのだ。俺の両手にまだ映子の細い首の感触が残っている。俺は映子を殺したのだろうか。だとしたら映子の死体はどこにあるのだろう。いいや俺は映子を殺していない。映子は消えたのだ。ミヤコというまるで操り人形のような女をここに残して。どうでもいいことだが、ミヤコの死因は餓死だった。映子がいなければ何もできない哀れな女だ。
(中略)
映子はまた俺の夢に現れるだろう。俺が預かっている真っ赤なボーリングボールバッグを取り戻すために。映子は必ずここに戻ってくる。ジジッと短く蝉が鳴いた。空っぽの押入れの上段に、どこからか迷い込んだ蝉が二匹、仰向けになって転がっていた。映子の真っ赤なボーリングボールバッグの中で、黒いビニール袋に包まれていた、干からびた二体の嬰児のように。
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