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『小説神変理層夢経2 猫文学機械品 猫キャンパス荒神』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

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 心は一枚の紙のようになった。それでも私の言葉は動き続けていた。今も私の書く「機械」は止まろうとしない。「こんな時代」でさえ。さらに今こそ、「託宣」が正しかった事を私は思い知る。
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単行本p.14

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人間と話して、人間の暮らしをする。人間と過ごす。猫の時間を抜け、人間の時間に混じっていく。
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単行本p.167

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 大きいうすら馬鹿な糞権力の下、最低の世界を人は生きている。幸福になる事は復讐である、怒りを忘れぬことは未来への道である、こっのやろう死ね死ね死ね悪税製造機ども。でもまず自分が生きなきゃ仕方ないのだ。ええとなんだっけ。
 生は死を裏返すでんぐりこ、生きよ死は生を裏打ちする、生きよ生きよ生きよ。すととすととすとと。
 荒神様! 荒神様!
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単行本p.222

 シリーズ“笙野頼子を読む!”第99回。

 伴侶猫ドーラとの別れ。心が一枚の紙となり、書く「機械」と化した作家に、おりてくる様々な「声」。アレンジメントされた多彩な声が配置のなかで響きあい、これまでの作品が再構築されてゆく、驚天動地の猫文学機械品。単行本(河出書房新社)出版は2014年12月です。

[あらすじ]

 大震災が露にしたこの国の権力の様態。それは作家がこれまで書いてきた託宣や地獄そのままの悪夢だった。ドーラ亡き後、心が止まったまま、それでも作家のなかの「機械」は書き続ける。

 荒神である若宮にに様は自らの来歴を語り、金毘羅と入れ替わって死んだイザ・ナビ童女は罵倒観音、ベテランヒロインである沢野千本は身辺を丁寧に語る。降ってくる様々な「声」をアレンジメントすることで、小説が出来上がってゆく。

 作家は、大学からの依頼で小説の書き方を教える仕事を受ける。だが、相変わらず不可解な身体の不調は頻発し続けるのだった。やがて文芸誌に掲載された『猫キャンパス荒神』だったが……。


『母の発達、永遠に/猫トイレット荒神』より
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猫キャンパス荒神という長篇に地震の事も近隣の汚染物質の事も書いた後である。「売れない」以外の理由で、この長篇が、文芸誌を有している出版社から出しにくいという、愚劣すぎる事情を抱えたまま、毎日を生きていた。
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単行本p.82


 というわけで、「愚劣すぎる事情」で出せなかったという『猫キャンパス荒神』が、こうして、ついに、ついに単行本化されました。それは最近『未闘病記----膠原病、「混合性結合組織病」の』が大きな話題となり、よく売れて、さらには野間文芸賞を受賞した、ということと関係あるのかも知れません。もしかしたら、論敵ざまあ、なのかも知れません。そうでないのかも知れません。

 ともあれ、『未闘病記』から入ってきた読者もすんなり読めるように、これまでのあらすじ(?)と謹告(「これはその病名を知らぬ頃のがんばり作品です」)が前書きとして置かれているなど配慮も行き届き、また笙野文学に含まれる様々な文体というか、声色と、そのポリフォニー具合を存分に楽しめるということで、新しい読者にもお勧めしたい一冊です。


「心は一枚の紙」(笙野頼子)
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 心は一枚の紙のようになった。それでも私の言葉は動き続けていた。今も私の書く「機械」は止まろうとしない。「こんな時代」でさえ。さらに今こそ、「託宣」が正しかった事を私は思い知る。
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単行本p.14


 伴侶猫ドーラを失い、心が白紙となった著者は、自動運動する「機械」のような状態で様々な「声」をおろし(というより身体を乗っ取られて)書き続けます。それらの語りを整理して作品として仕上げる様子が書かれてゆきます。


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ワープロの箱の中に勝手に現れる複数の声、それらを小説に仕上げる時、この「機械」でそのアレンジメントをやっているのではないかと私は思うのだ。
  (中略)
 アレンジメントは書きながらそのまますることもある。ワープロの中に湧き上がる文の固まりを左右に振り分けていく。自分では踊る活け花のような感じと思っている。活け花には活けた人間の気分が盛大に残っている。
  (中略)
 うんと若い頃モノローグの小説を私は書いていた。ところが今は作中にふいに「他者」の声が現れる。(中略)今や私の小説においてその声の主は人ではなく神や霊なのだ。こうして、「自分」と神とを並べ、振り分ける行為が私の活け花になった。
 作品の厚みや読者に与える衝撃をアレンジメントで作る。そこから生まれる錯綜は手段に過ぎない。
 ただその錯綜を使って、読者が「名文」の中にない、自分の中の「混沌」により近付けるように、それで彼らが気強くなり、詐欺だらけの世の中の、ボロに気付くように、書きたいのだ。しかも読者が自分自身で読み取るように。
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単行本p.20、21、22


「荒神の誕生 小説神変理層夢経、小説内小説猫大神流離品猫ストリート荒神」(若宮にに様談)(自分の名前に様をつけて敬うのは、荒神様の義務)
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 ママは世界一美しい女神でした。
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単行本p.30


 若宮にに様、自らの誕生につき、大いに語る。

 小説神変理層夢経シリーズ開幕当初、予定されていた第三長篇『猫ストリート荒神』の一部がここに収録されました。『人の道御三神といろはにブロガーズ』 の主役である御三神と若宮にに様との関係が明らかになります。「でんぐりこ、でんぐりこ、生は死を裏返す」「死は生を裏打ちして、すととすととすとと」という、シリーズを通して繰り返される呪文の由来もまた。


「荒神のプロフィール 小説内小説「猫ストリート荒神」作者プロフィールと年表」(人の道神研究者岩倉お地蔵まとめ)
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塩気を絶つ苦行。爪を研ぐ練習。すりすりの稽古。ぐるにゃん発声、でんぐりこ訓練、終夜。
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単行本p.84


 若宮にに様が沢野千本の屋敷荒神となるまでの厳しい修行、あるいは就活の歴史、一千年、その一部。

 書かれざる『猫ストリート荒神』を再構成したものですが、何とこれまでの笙野文学の歴史を荒神ベースに大きく再構築してゆきます。自分が金毘羅だと気付いたときも、スクナヒコナを信仰したときも、捨て猫たちを保護したときも、そっと見守っていた荒神様。常に自己刷新を続ける笙野文学の面目躍如。


「「私事」を貫いて」(沢野千本)
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寂しければ、少しだけ教えに行けばいい、夢の覚め際にふと浮かんだ言葉だ。それもそうだね、と夢の中で答えた。もう今までの自分ではないのだから、ドラのいない自分。
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単行本p.97


 沢野千本が語る日々の生活、身辺リゾーム経。ドーラ亡き後の心境、大学で授業をするお勤めのこと、論敵の嫌がらせあれこれ。そして……。


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 失ってみて、ドラが伴侶である事を実感した。始終そう口にしていても判ってなかったのだ。同時に、あれがいたからこそ、多くの困難の中で片隅の幸福を維持できていたのだと、ストレスに強い鈍く幸いな私でいられたのだ、と思い知った。
 地震を知らないでドラは旅立った。その事は私にとって微かな救いかもしれないけど、でも本当を言うと、未だ、判らない。あの、美味にも騒音にも刺激にも激烈に反応する、光る目を見開いた、真っ白の塊。永遠の、荒ぶる萌えを喪った事が。
  (中略)
やはり私は次第に、ごく軽く、気付き始めている。
 記憶は一緒にいる。心も一緒にいる。ずっと変わらない。でもドラはいないと。
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単行本p.116、130


「肉体なき語り」(イザ・ナビ童女 生まれてすぐ死んだ女の子の霊)
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 あたし? 名前? ふっふーおしえてやんないよー、って言ったすぐ後から、平気で教える天下の厨房だよ、だから教えるよ、この、実名、もとい、コテハンネームをさ。要するに、あたし特権的厨房なんだよね、そしてその名はご存じ、イザなう、ナビ下駄のイザ・ナビ師匠だよ、
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単行本p.138


 「ふふー? 口は悪いけど本当は優しいツンデレキャラだしょ?」(単行本p.155)といいつつイザ・ナビ童女、微妙にお婆さんくさい罵倒観音のコーナー。沢野千本パートのど真ん中、感傷的になり過ぎて読者が麻痺してしまわないよう、仕込まれたワサビのような味わいです。


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もともとあれだから、ほら、金毘羅、だしょ。深海生物が化けた人間。そんなの五十越えたらもう、ただの筆記具なんだよ、つまり本人が筆なのさ。ていうか、あの生まれだろ、なおかつ、生まれてすぐ死んだあたしの体を乗っ取って、入りこんで、それでまあ人間に混じってなんとか生きているだけだからね。
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単行本p.139

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「今回の放射能はみんなが悪い」? だぁ?
 へえええええええーあらえっちー。
 そのみんなたあ誰のことでい? 誰がどうだってあたしは知らないよ、だけれどもさ、みんなみんなみんなって、どーうか、お前らと一緒にしないでね、どこのみんなだって、お前らって明らかにうちらとは違うだろ。つまり悪い奴が悪いんだ。
 気のふさいでいる物書きや、言葉足らずの技術屋に、隙を狙って取りつくんじゃねえ! 所詮、責任者隠しのみんな、だろうが。世間のお人好しの落ち込みに付け込んでさ。世間のは心掛けの問題だろ、お前らのは行為の責任だろ。
 まったく、どんな世の中だよ。
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単行本p.148


「二〇一一年三月から……」(沢野千本)
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人間と話して、人間の暮らしをする。人間と過ごす。猫の時間を抜け、人間の時間に混じっていく。
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単行本p.167

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 なっ、なあにが、お勤めかっ、ふ、ふん、なっにもかも、気っにいらんのだよ、わおん、わおん、わおん、ぶぶぶぶぶぶぶ(涙目)。
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単行本p.207


 老猫ギドウに涙目で批判されながらも、大学のお勤めに出る沢野千本。いや増す謎の体調不良(すでにその理由を知っている読者の顔色は青ざめる)。大震災と原発事故。そして、それがあからさまにした、この国の権力のあり方。


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 権力はリセットだと私は数年前に言った、今、言い換えというよりはもう一度言う。降り積もった汚染をなかった事にするためにそれは物事をゼロにするのだ。しかし汚染を引き受けさせられた身体を持つ、人々はけしてゼロに出来ない。そこで権力はその人達を見えなくする。そしてその理不尽の中からまた新しく税をとっていく。そう、結局リセットは国家にとっては税の契機に過ぎない。
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単行本p.208

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 自分のいる地面が一枚の真っ白な紙になってその紙はあまりにも薄く世界の端はその紙の端に過ぎなかった。そしてかつてはその紙の上に、複雑な模様で、斑の肉球で、柔らかすぎる腹で、足の毛先まで鋭敏に揃わせて、世界より広いその紙の遠くの端々までをしっかりと押えて、立派な猫がいた。良い猫がいた。
  (中略)
 小生意気に後ろ足を組んだり、前足の肉球を全開にして寝そべったり、ただひたすらのうのうと長い胴をふくよかに伸ばすだけ伸ばしていたり、そうして世界のぐるりを押さえ取り囲み、世界を温めていた私の地熱よ、私の猫よ、たった一匹で八億八千万の世界の重しであった私の「妻」がいない。そして現実世界にある不毛な私の体の、どこを探してもどの細胞のひとつにも触れる事さえない。引き潮はついに戻らない。
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単行本p.216

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ふと目を閉じると、黒と白の愛らしい生き物がくるくる回っていた。「僕可愛いです。僕可愛いです」と紅白のバトンをくわえて、少し毛が荒れている。
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単行本p.221


「変わり果てた世間でまだひとつのことを」
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 こうして、変わり果ててしまった世間で私は今何をしているのか、引き受けた仕事を実際に始める時、世間は大きな力で外見を変えていた。今悪夢が皮膚に触れてくるような世の中に私はいる。彼らもいる。でもこの悪夢は昔からどこかに隠れていたものなのだ。それはいつから? 私は生きている彼らも生きている。
 学生が書く。私も書く。ただひとつの事を止めてはいけないから。止めればこの悪夢を引き起こした連中の思うつぼなので。
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単行本p.236


 大学の紀要に発表された文章が特別収録されています。


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 目の前のものを書く、但しそれが現実とは限らない、夢でも思考でも、ひたすら目の前のもの。私には「一滴の水」が、それこそが文学だ、生きて同時に書く、他の方法はない。
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単行本p.228



タグ:笙野頼子
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『TETRAHEDRON テトラヘドロン』(黒田育世、中村恩恵、加藤訓子、高木由利子) [ダンス]

 2014年12月19日は夫婦で白寿ホールに行って、黒田育世さんと中村恩恵さんが踊る公演を鑑賞しました。黒田育代さんが踊る第一部(曲はスティーヴ・ライヒ)、中村恩恵さんが踊る第二部(曲はアルヴォ・ペルト他)の二部構成です。

 パーカッション(事前録音+マリンバ演奏)は加藤訓子さん。以前、KAAT神奈川芸術劇場で加藤訓子さんと中村恩恵さんの共演を観て感動したのですが、再びこの二人が組んだ舞台を観ることが出来て嬉しい。その上、黒田育世さんとも共演するという贅沢。

 ちなみに、加藤訓子さんと中村恩恵さんの共演については以下を参照ください。

    2014年04月21日の日記:
    『PLEIADES プレイアデス』
    http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-04-21

 魂を引き裂く叫びのような黒田育世さんのダンス、ぎりぎりで抑制をきかせた端正な慟哭のような中村恩恵のダンス。いずれも身の毛がよだつような凄さです。

 それを高木由利子さんがライブ撮影して、背景に写真として投影するという仕掛け。目の前で踊っているダンサーの、ほんの少し過去の姿が切り取られて背景に表示されるというのは、とても不思議な感覚でした。

[キャスト]

第一部 ライヒ
曲目: 『シックス・マリンバ・カウンターポイント』、『ニューヨーク・カウンターポイント』
音楽・演奏(マリンバ): 加藤訓子
振付・ダンス: 黒田育世
写真: 高木由利子

第二部 ペルト
曲目: 『フラトレス』、『鏡の中の鏡』、『カントゥス ~ベンジャミン・ブリテンの思い出に』、デイヴィス『パール・グラウンド』
音楽・演奏(マリンバ): 加藤訓子
振付・ダンス: 中村恩恵
写真: 高木由利子


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『見てしまう人びと 幻覚の脳科学』(オリヴァー・サックス、大田直子:翻訳) [読書(サイエンス)]

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 幻覚にパターンはない。ほかの人たちと忙しくしているときであれ、独りでいるときであれ、いつなんどきでも現れる可能性がある。その場の出来事とも、彼女の感情や考えや気分とも、薬の時間とも、関係がないようだ。自分の意思で生み出すことも消すこともできない。実際に見ているものの上に重なり、目を閉じると実際の視知覚とともに消える。
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Kindle版No.1317

 視力を失った患者にも「見える」幻覚、シャルル・ボネ症候群。視覚のみならず五感すべてで感じられ、現実と区別がつかないほどはっきりとした幻覚。様々な幻覚症状の実例を通じて、脳が「現実」を作り出す機能の深淵に迫るオリヴァー・サックスの最新作。単行本(早川書房)出版は2014年10月、Kindle版配信は2014年11月です。


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診療所の待合室で彼女は「毛皮のコートを試着している----五人の----女性」を見たことがある。女性たちの大きさも、色も、確かさも、動きも、完璧に自然に見えて、絶対に現実だと思われた。それが幻覚だとわかる理由は、ただ場違いだからというだけである。
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Kindle版No.1305


 幻覚というと意識が朦朧とした状態で見るぼんやりとした夢のような幻のようなイメージがありますが、現実と区別が出来ないほどはっきりとした幻覚を見ることは決して珍しいことではないのだそうです。本書にはそのような驚くべき幻覚の実例が次々と登場します。

 最初の話題は、シャルル・ボネ症候群(CBS)。失明した患者が見る幻覚です。


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最近の研究はCBSが実はかなりよくあることを裏づけている。オランダで視覚障害のある高齢者600人近くを研究しているロベルト・テウニッセらが、人、動物、光景のような複雑な幻覚を見ている人が15パーセントいて、像や光景にはなっていないが形、色、たまに模様が見える単純な幻覚を経験する人は80パーセントもいることを発見している。
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Kindle版No.216


 視覚障害者の何と15パーセントもの人が「人、動物、光景のような複雑な幻覚」を見ているのなら、おそらく視覚に障害がない人だってかなりの割合で幻覚を見ているのでしょう。ただ、他人には黙っているのです。実際どのような幻覚を見ているのかを教えてもらうと、なるほど、主治医以外には黙っている理由がしみじみと納得できます。


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美容院から車で帰る途中、車のボンネットの上にティーンエージャーの男の子のようなものが見えたんです。腹ばいで肘をつき、両足を上に突き出してその子はそこに5分ほどいました。車が向きを変えても、ボンネットの上にいるんです。レストランの駐車場に入ったとき、彼は空中に上がって、建物の前に立ちはだかり、私が車から出るまでそこにいました。
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Kindle版No.301

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ストライプのシャツを着た男性が会計で支払っているのに気づいた。彼女が見ていると、彼にそっくりの分身が六人か七人現われ、全員がストライプのシャツを着て、全員が同じ仕草をしている。そのあと折りたたまれて、また一人になった。
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Kindle版No.322

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ボウルに入っているサクランボを食べると、代わりに幻覚のサクランボが入るので、サクランボが無限にあるように思えるのだが、最終的に突然ボウルは空っぽになるというのだ。
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Kindle版No.582

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幕が上がって『パフォーマー』が舞台の上で踊り出します----でも、人はいません。黒いヘブライ文字が白いバレエの衣装を着ているのが見えます。そして美しい音楽に合わせて踊るのですが、どこから来たのかはわかりません。文字の上のほうを腕のように動かして、下のほうでとても優雅に踊るんです。
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Kindle版No.342


 幻覚は、視覚にだけ起きるのではありません。嗅覚幻覚、聴覚幻覚、触覚幻覚も当然のように起こります。それらが組み合わさって、まったく正気のまま、異なる「現実」を生きる患者もいるのです。


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ダンサーの肌が顔までタトゥーで覆われているように見えたのだ。最初は本物だと思ったが、やがてタトゥーが光を発し始め、そのあと脈打ち、のたうち回り始めたので、その時点で幻覚に違いないと気付いた。(中略)
コンピュータのモニターにタージマハールの写真が見えて驚いた。彼が見詰めていると、写真は色が多彩になっていき、三次元になり、生き生きとリアルになっていった。そしてインドの寺院と関連がありそうなお経の声がぼんやりと聞こえてきた。
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Kindle版No.1292

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幻聴を止めることはできません。だから、クローゼットのなかの「ピアノ」も、居間の天井の「クラリネット」も、たえまない「ゴッド・ブレス・アメリカ」も、目覚ましのような「グッド・ナイト・アイリーン」も、止めることはできません。
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Kindle版No.1167

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幻の針と糸で「縫い物」をした。あるとき彼女は「今日あなたのために刺繍したすてきなベッドカバーを見て!」と言った。「美しいドラゴン、それに放牧場にいるユニコーンよ」。彼女は目に見えない輪郭を空中でなぞる。そして「さあ、どうぞ」と、その幻を私に手渡した。
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Kindle版No.1242

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椅子にかけてあった私の青いセーターが、ゾウに似た顔で長い青い歯と翼のようなものを持つ、すさまじい怪物のような動物になった。テーブル上の麺が入った丼は「人間の脳」になった(ただし、それが彼の食欲には影響しなかった)。私の唇の上に「テレタイプのように文字」が見える。「単語」になっているが、読むことはできない。私が話している言葉が出てくるわけではないのだ。
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Kindle版No.1263


 このようにして、シャルル・ボネ症候群、感覚遮断、パーキンソン症候群、薬物摂取、偏頭痛、てんかん、半視野、譫妄状態、入眠時、強いストレス、といった具合に様々な状況下における幻覚症状が紹介されます。

 薬物の章では、著者自身のドラッグ体験(大麻、LSD、アサガオの種、アンフェタミンなど)が赤裸々に語られるところが印象的。60年代の西海岸って、すごいな。


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 ジムとキャシーの声が、彼らの「存在」が、現実ではなく幻覚だとは一瞬たりとも思わなかった。いつものように親しげにふつうの会話をしていた。二人の声はいつもと同じで、私がスウィングドアを開いて居間が空っぽだと気づくまで、会話のすべてが、少なくとも彼らの側は、完全に私の脳がつくり出したものだという兆しなど、まったくなかったのだ。(中略)
上のほうでブンブンいう音がしているのに気づいた。一瞬とまどったが、ヘリコプターが降下の準備をしているのだとわかった。(中略)エンジン音が耳をつんざくほど大きくなったので、ヘリコプターがうちの横の平らな岩の上に着陸したにちがいないと思った。私はワクワクしながら両親を迎えに飛び出した。ところが岩の上には何もない。(中略)
 私は家に戻り、もう一杯お茶をいれるためにやかんを火にかけると、キッチンの壁のクモに目が留まった。よく見るために近づくと、クモが声を上げた。「やあ!」
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Kindle版No.1692

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コーヒーをかき回していると、突然それが緑色になり、さらに紫になった。びっくりして目を上げると、レジで会計をしている客がゾウアザラシのような鼻の長い巨大な頭をしているのが見えた。私はパニックに襲われた。5ドル札をテーブルにたたきつけ、道路を横断して反対側にいたバスに走った。しかしバスの乗客全員が、巨大な玉のようなツルツルの白い頭で、昆虫の複眼のような大きな目が光っているように見える。
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Kindle版No.1820


 ディックの小説を思わせる現実崩壊感がすごい。

 他にも、ドッペルゲンガー、幽体離脱、天使や悪魔、夢魔、金縛り、サードマン現象、影人間など、様々な特異体験と幻覚との関係が考察されます。ドッペルゲンガー(自己像幻視)のなかでもさらに特異な症状ホートスコピーとか、驚愕です。


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奇妙で複雑な自己幻覚が「ホートスコピー(heautoscopy)」である。これは極端にまれなかたちの自己像幻視で、本人とその分身のあいだに相互交流がある。相互交流は友好的な場合もあるが、敵対的なことのほうが多い。さらに、どちらが「オリジナル」でどちらが「分身」なのかに関して、ひどい混乱が起こる場合もある。というのも、自己意識が一方から他方へ移る傾向があるのだ。
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Kindle版No.4132


 本書で語られているような幻覚症状について知ると、本人がどれほど正直で誠実であろうと、いわゆる超常現象の「目撃証言」はまったくあてにならないことが、もうよーく分かります。どんなことだって、現実と見分けがつかないほどリアルに見えたり聞こえたりするものなのです。


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出眠時幻影が、戸惑いや恐怖をもたらすだけでなく、そういうものが物理的に実在するという確信を人に抱かせるのは、まったく無理からぬことだ。それどころか、ほかならぬ怪物や幽霊、あるいはお化けという概念はかなりの程度そういう幻覚に由来しているのではないかとまで考えざるをえない。(中略)
 悪魔、魔女、鬼婆などの従来の存在が信じられなくなると、エイリアンや「前世」からの霊といった新しいものが後釜にすわる。
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Kindle版No.3351、3565


 もちろん幻覚が生じているとき脳内でどんなことが起きているのかといった医学的な解説も書かれていますが、分量も少なく、あまり印象に残りません。副題には「幻覚の脳科学」とありますが、人間の知覚や意識というものの不思議さを教えてくれる読み物として楽しんだ方がいいと思います。


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人間がものを見たり、聞いたり、さわったり、味わったり、かいだりして、周囲の世界のことをきちんと理解できるのは、じつは奇跡的なことだと言えるのではないか。それは体の各部位と脳との複雑で精緻なネットワークのうえに成り立っている。そこに少しでも不具合が生じると、たとえ目や耳に異常がなくても、見たり聞いたりすることができなくなり、「現実」が崩壊してしまう。けれどもそのような試練に直面したとき、脳はすばらしい適応力を発揮して、崩壊した現実を立て直そうと懸命に働く。サックス医師が著書に記す数多くの症例から、そんな知覚と脳の関係のあやうさ、不可思議さ、そして強さをかいま見ることができる。
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Kindle版No.4668


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『ほとんど想像すらされない奇妙な生き物たちの記録』(カスパー・ヘンダーソン、岸田麻矢:翻訳) [読書(サイエンス)]

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私には、動物寓意譚にはもっと古く、もっと根源的なものの痕跡が見い出せるような気がしてならない。アリストテレスが生まれる千年以上も前、古代エジプトやクレタ島の壁画に描かれた鳥やイルカの姿よりも、さらに遠い昔に存在していた何かだ。(中略)
人新世の動物寓意譚という試みであるこの本----紹介する生物はすべて現実に存在し、進化の過程にあり、その多くが絶滅の危機に瀕している----を通じて私が問いかけたいのは、私たちが何を尊重すべきか、なぜ価値判断を誤るのか、そしてどうしたら変われるのか、ということだ。
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単行本p.10、22

 切断部位を完全に再生できる類を見ない脊椎動物、アホロートル。全身に分布している視覚が全体として一つの複眼として機能するクモヒトデ。人間と同じ体重でありながら空を飛べるケツァルコアトルス。ボルヘスの『幻獣辞典』に触発されて書かれた、生物の知られざる能力を軸として縦横無尽に語られる動物寓意譚集。単行本(エスクナレッジ)出版は2014年10月です。


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生き物に対する興味は、どの文化においても岩からほとばしる湧き水のように満ちあふれている。単なる野次馬的な好奇心のこともあれば、熱心な自然保護活動家もいるだろう。しかし関心の程度に差こそあれ、他の生命に対してまったく無頓着な人はいない。
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単行本p.13


 モロクトカゲ、ミツクリザメ、イエティクラブのようなあまり知られていない生物から、イルカ、タコ、ハエトリグモのようなよく知られている生物、さらには「人間」に至るまで、様々な生物の知られざる能力や習性を紹介する本です。

 ただし、ボルヘスの『幻獣辞典』に触発されて書かれた人新世の動物寓意譚集、と著者自身が語っているように、単なる生物学の本ではありません。生物から始まった話題は、歴史、文化、技術、社会、様々な分野を飛び回ってゆきます。


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結果としてこの本は、少々変わったものになった。紹介している生物自体とはほとんど関係のないたとえ話が含まれていたり、話があちこちに脱線したりするので、特には不自然に思えるかもしれない。でもそれは私が意図したところでもある。その動物をきっかけとして、それ以外のことにも視野を広げ、私と一緒に考えてもらえれば幸いだ。
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単行本p.16


 例えば「オウムガイ」の項目では、アンモナイトの化石の話から古代生物学を経て、潜水艦の技術開発史に話題が進んだかと思うと、カメラと写真の歴史へと移り、写真が私たちの意識をどう変えたかという話になって、そのまま終わったり。

 もちろん生物学的な話題だけでも充分に楽しめます。

 アホロートルが「切断されても完全に機能する手足を再生できるという、脊椎動物でもほかに類を見ない性質」(単行本p.48)を持っていること。

 クモヒトデの身体には「高度な視覚を有する眼点が体中にびっしりと散らばっていて、それらは神経系を通じて互いに結びつき、一つの複眼のように機能している」(単行本p.68)と考えられていること。

 白亜紀後期に生息していた翼竜ケツァルコアトルスは、「背丈はキリンほど、翼を広げた時の幅はスピットファイアー戦闘機くらいあったにもかかわらず、体重はヘビー級のボクサーよりも軽かった」「人間と同じくらいの重さのものが自力で空を飛ぼうとしたら、一体どれだけ奇妙な姿をとらなくてはならないか(中略)よく物語っている」(単行本p.255)。

 ハエトリグモ、ウツボ、タコといった私たちになじみ深い生物にも、驚くべき能力が秘められています。


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ハエトリグモは驚異的な視覚を持ち、ユニークな方法で獲物を捕る。好物は蜂や昆虫だが、ほかのクモを食べることも珍しくない。いくつかの種は自分の100倍以上も体が大きな猫よりも視力が良く、その視野も広い。(中略)また体の大きさに比して考えると猫よりも優れたジャンプ力を持ち、体長の50倍もの距離を飛んで正確に着地する。
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単行本p.199

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いったいどうやって獲物を捕らえているのだろうか。2006年に初めて明らかになったその答えは、驚くべきものだった。ウツボの喉の奥には第二の顎があり、それが高速で飛び出して獲物をつかむやいなや奥へと引っ込み、そのまま食道へと獲物を引きずりおろすのだ。(中略)
 この極めて可動性の高い咽頭顎は非常に特異なもので、これに類するものは地球上にはほかに存在しない。(中略)唯一近いといえるのは、観客に究極の恐怖と嫌悪感を与えるべく生み出された想像上の生物、映画『エイリアン』に登場するモンスターだろう。
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単行本p.101


 ウツボの咽頭顎にも驚かされますが、何よりそのことが「2006年に初めて明らかになった」という事実にびっくりです。

 真面目で格調高い雰囲気で書かれていますが、決して堅苦しいものではありません。ときにユーモラスで皮肉に満ちた記述も。


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 モンスターとしてのタコは、映画『メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス』といった偉大なる芸術作品の中にいまだ健在である。しかしこの21世紀に入って最も世間の耳目を集めたタコといえば、ドイツ片田舎の水族館で暮らしていた小さなタコをおいてほかにないだろう。2010年のサッカーワールドカップで、マダコのパウル君は決勝戦を含むさまざまな試合の結果を的中させ、世界的な名声を手にした(中略)
タコだって世間の人々の心をつかめるのだ、ということである。予知能力やサッカーを持ち出さなくても、普通のタコが十分に驚くべき生物だということを、もっと多くの人々が気付いてもよさそうなものだ。
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単行本p.248、249

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どういうわけか恐竜の化石の発見がニュースになるたび、世界各地で翼竜を目撃したという人が続出する。テキサスでケツァルコアトルスの化石の発掘が行われた直後には、その上空を飛ぶ翼竜を見たという情報がいくつも寄せられた。
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単行本p.270

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一年間でサメに殺される人の数は、世界で十人程度だという統計を覚えておくといい。落ちてくるココナツのせいで死ぬ人の数のほうが断然多いのだ。反対に、人間は毎年数千万匹ものサメを殺している。これはわずか数年で多くの種を絶滅させかねない、壊滅的な数字だ。
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単行本p.308


 人間の文化と生物との関わり合い、進化と生態系、そして自然保護といったテーマが全体をまとめています。生物学にはさほど興味がない方でも、圧倒的な話題の幅広さで最後まで楽しめる良書です。個人的には、生物の興味深い話に合わせて提示される、自然保護に関する警句が印象に残りました。


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世界の25の最大絶滅危惧種のすべての個体を一つのサッカースタジアムの座席に座らせたとしても、まだ一杯にならないという。
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単行本p.158

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問題は、人間には知恵が欠如しているということではなく、その愚かさがもたらす力が手に負えないほど圧倒的だということだ。どれだけ技術が発達しようが、精神が拡張されようが、そこにつける薬はない。
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単行本p.355

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うんざりするような問題が山積みになっているのを見て絶望するのはやめよう。うまくいきそうなこと、役に立ちそうなこと、自分にできることに集中しよう。そうすれば、簡単には諦めなくなる
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単行本p.189


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『本当にあった医学論文』(倉原優) [読書(サイエンス)]

CAUTION
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この書籍はあくまで読み物であり,
論文の内容について医学的な妥当性を保証するものではありません.
実臨床に決して応用しないようお願い申し上げます.
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 肛門にウシの角を挿入した症例、長時間ぶっ続けでカラオケを歌うと声が嗄れることを実証した研究、ハリー・ポッターの頭痛をめぐる大論争、人種差別を減少させる薬の臨床試験結果。世界中で発表された医学論文から珍品を選んで紹介してくれる楽しい一冊。単行本(中外医学社)出版は2014年11月です。


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当たり前と感じることをちゃんと検証しようとするスタンスは,サイエンティストとして大事な資質だと思います.この論文がサイエンスとして本当に妥当なデザインかどうかはともかくとして.
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単行本p.82


 医学論文というと、難しい専門用語で書かれたシリアスなものだと思われていますが、中にはどうやら変なものが混じっているらしい。本書は、奇妙な症例、変なことを大真面目に調べた研究、当然のことを当然のように検証した論文など、医学論文の珍品を紹介してくれるものです。全体は8つの章から構成されています。


「1章 驚きの症例を紹介する18の医学論文」

まさか!の肛門異物
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えてして「本当にあった」珍しい論文というのは珍しい行為に基づくものが多いのです.そういった観点で検索すると,“異物論文”が出てくるわ出てくるわ.(中略)
 ウシの角を挿入したのは,この報告は世界で4例目であると考察されています(過去に3人もいたそうです).稀な理由の一番は,そもそもウシの角を入手するのが困難だからです.そりゃそうですよね.
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単行本p.5

 心臓にくいこんだ弾丸が70年も残っていたケース。200発以上の弾丸を食べた症例。食べたゴキブリが消化されずに横行結腸に引っ掛かってしまった症例。醤油の一気飲み。室内のベッドの上で落雷にあって死亡したケース。魚が耳に刺さったケース。髪の毛が緑色になった症例。次から次へと「まじか!」と思うような症例が登場します。すべて医学論文で報告されているものです。


「2章 都市伝説を検証する8の医学論文」

「大腸ガス爆発」の都市伝説を検証する
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真面目に大腸の爆発について論じた論文があったので紹介します.
 下部消化管内視鏡検査の時に,ポリープ切除に対してレーザーを用いることがあります.これによって大腸に引火することはきわめてまれですが,実際にそういった報告はあります.過去の文献を検索したところ,20例もの症例が報告されていました(中略)この爆発事故によって1人が死亡しています.
 これを読んで,あながち“医学の都市伝説”もバカにできないなあと思いました.
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単行本p.32、33

 床に落ちた食べ物は5秒以内に拾えばセーフ。コカコーラを飲むと骨が溶ける。ロックばっかり聞いている青少年は不良化する。指の関節を鳴らしすぎると関節炎になる。男女が一緒にドキドキすると恋愛に発展しやすい(吊り橋理論)。本当かどうか、ちゃんと検証して大真面目に書かれた医学論文の数々。個人的には、逆効果であるばかりか余計な「副作用」があるという「吊り橋理論」の検証結果に驚きました。


「3章 ふとした疑問を解き明かす8の医学論文」
「4章 日常生活を彩る16の医学論文」

適度な休憩をとった方が長くカラオケを楽しめる
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水と声休めの時間を与えられた群の方ではカラオケ前後で声質の変化は観察されませんでしたが,ぶっ通しで歌った群では声質の変化や高音域の出しにくさなど有意な変化がみられたそうです.
 これらの結果から,カラオケを歌うのであれば適度な飲水と声休めをもうけた方がよいと考えられます.
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単行本p.68

 ハリー・ポッターの頭痛をどう診断するか。規則正しい睡眠をとらないと学校の成績が下がるか。1分間のブラッシングで抜ける髪の毛の本数は。笑うと免疫力が高まるか。テレビの観すぎで寿命が縮まるか。鼻毛が長いほうが気管支喘息になりにくいか。配偶者が入院すると死亡リスクは上昇するか。ギャンブルをすると興奮するか。加齢臭によって年齢を当てることが出来るか。

 きちんと調べてくれる研究者がいることで、人類は知的な向上を続けているわけです。個人的には「ストレスの多い男性はふくよかな女性を好む」という研究(単行本p.76)が印象的でした。


「5章 クスリにまつわる5の医学論文」
「6章 運動とスポーツにまつわる7の医学論文」
「7章 ニッポン発・お国柄がわかる4の医学論文」
「8章 明日からの臨床に役立つ(かもしれない)13の医学論文」

看護師が太極拳を習うと仕事の生産性がアップする!?
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この研究は太極拳によって仕事の効率を上げることができるのではないかというきわめて奇抜な研究です.そもそもなぜこのような研究を思い立ったのか謎です.(中略)
 病院によっては部活があり,いろいろな運動をしている看護師さんも多いと思います.太極拳がここまで仕事の生産性を向上させるならば,病院経営のためには太極拳の習得はほぼ必須条件と言えるでしょう.
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単行本p.108、109

 人種差別を減少させる薬。浮気を封じる薬。サッカーのヘディングは脳にダメージを与えるか。雪崩で雪に埋まったとき、生還できるタイムリミットは何分間か。チアリーディングにおける落下外傷の研究。ハンチントン舞踏病に対する「ダンスダンスレボリューション」の治療効果。桜島の火山灰が肺に与える影響の研究。タクシー運転手は腰痛持ちが多いか。直腸マッサージでしゃっくりが止まるか。ヨガで肺結核の治療が出来るか。インスタントラーメン調理時の熱湯熱傷に関する大規模調査。

 個人的に興味深いと思ったのは、プラセボ(偽薬)の「効果」は価格によって大きな影響を受ける、という研究です。まったく同じ偽薬(有効成分なし)でも、価格が高いと効果も高く、安物(ジェネリック偽薬?)だと効果が低いのだそうです。


 他に、医学論文の捏造、医学論文の検索方法、医学論文の著者名の順番、病院内の抄読会を継続させる方法など、医学論文に関わる様々なコラムも付いていて、医学知識に乏しい読者にも存分に楽しめるように工夫されています。


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