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『うどん キツネつきの』(高山羽根子) [読書(SF)]

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「なんで私はこんなに『家族』や『場所』に縛られるんだろう」
  (中略)
「解らないけど、意識とか、魂みたいなものは、ひょっとしたら私自身にあるんじゃなくて、所属している集団とか、場所のほうにあるのかも」
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単行本p.263、264

 ほのぼのした日常に、ちらつく超常。創元SF短篇賞佳作に選ばれた表題作ほか、家族や仲間との絆をSF的想像力で描いた五篇を収録したデビュー短篇集。単行本(東京創元社)出版は2014年11月です。

 どこかとぼけたユーモア、家族や土地に対する思い入れ、そして日々の生活になにげなく潜んでいる超常的なもの。SF的な背景を感じさせつつ、決してすべてを明らかにはせず、あくまでも日常感覚で語られる物語。この不思議な感触、個人的に大いに好感を持ちました。いいなあ。


『うどん キツネつきの』
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「うどん、狐が憑いてるのかなあ」
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単行本p.45

 三姉妹が拾って育てている犬の名前は「うどん」。狐が憑いているわけじゃなくて、どうやら異星生物らしいのですが、まあ何であろうと家族なんだから別にいいじゃない。ペットに関わるユーモラスな逸話を並べながら、人が他の生き物に向ける愛着について語る物語。


『シキ零レイ零 ミドリ荘』
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「ミドリ荘はさ、すげえボロボロだけど、これからもずっとあると思う。俺たちよりもずっと先まで。あると思う。
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単行本p.103

 敷金ゼロ、礼金ゼロのオンボロアパート「ミドリ荘」には変な住人がいっぱい。昭和臭のおっちゃん、フラダンスの練習をするベトナム人女性と中国人おばちゃん、顔文字やアスキーアートでしゃべる(?)ひきこもり、キクイムシの喰い跡を古代文字だと言い張って壮大な叙事詩を「解読」してゆく青年。

 そんなミドリ荘の大家の孫娘ミドリと友達のキイ坊は、空飛ぶ円盤の下に犬がいっぱい集まってくる犬事例を目撃したり、隠された謎の地下室を見つけたりと、何やら未知との遭遇の日々をそれなりに楽しく送っているのでした。

 SFやホラーになりそうでならない、たくましい日常感覚が楽しい作品。例えば、扉に現れた「生きのこりたい」という謎めいた不穏なメッセージ。かなり不気味な雰囲気に流れてもよさそうなものなのに、大家さんがぶつくさ言いながら下半分だけ消したところで放置してしまいます。【生きのこ】。


『母のいる島』
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 今回母さんのことがあって、瞳ネェ以外の十四人の姉妹が仕事や学校の休暇を取って島に集まっている。こんなことは滅多になかった。母さんの居ない寂しさも手伝ってか、私が来たことで妹たちはとても楽しそうに、海岸線を家まで、先に後に一列になって歩いた。
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単行本p.111

 南の島で16人もの娘を産んだ母親。姉妹たちは島で秘密の「レッスン」を受け、どうやら全員が超人的な戦闘力を持っているらしい。母親の入院をきっかけに姉妹たちが島に集まって、ひさしぶりに家族の団欒。そのとき(ばばーん)彼女たちを抹殺する好機と見た宿敵がついに動き出した! でも、まあ、しょせん敵ではなかったよなあ。和風『ピープル・シリーズ』(ゼナ・ヘンダースン)みたいな、ほのぼの楽しい短篇。


『おやすみラジオ』
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「鈍くて、強いから。この数日、今までないくらいたくさんの知らねえ人間とコンタクト取ったけど、こんなに怯えてねえの、あんただけだぜ。おれだって最初、あんたが黒幕かと思ってたくらいだもん」
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単行本p.188

 ネット上のブログに書かれている謎めいた出来事(乱暴に言い切ってしまうなら、介良事件)。その謎を追う語り手は、他にも様々な人が同じようにネット上の断片的な情報に踊らされているらしいことを知る。誰が、何のために、こんなに多くの人々をマニュピレートしているのか。そもそも人間にそんなことが出来るのだろうか。ネットに氾濫する真偽さだかでない怪情報の洪水に溺れる私たちの姿を寓話的に描いた短篇。


『巨きなものの還る場所』
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「知らねえのか。人が身の丈に合わんでかいもん作って、ずっと置いといて、古くなっちまうと命を持つんだ」
「んだ、そう、あんだらでかいもん、暴れ出す前に解体せんと大変なことになるからなあ」
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単行本p.206

 ねぶた祭りに使われる人型、巨大な神馬、東洋初のロボット。東日本大震災を背景に、人が土地や家族に寄せる想いの強さを「巨大なもの」に託しつつ、時空を越えて語られる鎮魂の物語。


タグ:高山羽根子
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