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『直感を裏切る数学 「思い込み」にだまされない数学的思考法』(神永正博) [読書(サイエンス)]

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 数学がすべての人に平等であるように、真っ当な努力の積み重ねこそが、次の時代を切り拓くのです。さまざまな「直感を裏切る問題」を楽しみながら、そう実感していただけたら、これ以上嬉しいことはありません。
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新書版p.4

 全体所得が急激に下がっているのに、すべての階層で平均所得が上昇している? 立方体に穴を開けて、その立方体よりも大きい立方体を通すことが出来る? 期待値マイナスの不利なゲームを二つプレイし続けることで、期待値プラスの有利なゲームになる?

 そんなことがあり得るでしょうか。直感を裏切るような驚きのある数学問題を集め、人間の思い込みがいかに当てにならないかを明確にする興奮の一冊。新書版(講談社)出版は2014年11月です。


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「年収1000万円以上、年収500万円~1000万円未満、年収500万円以下のどの階層でも、平均所得が上がっている」
 これは景気が回復しているという意味だろう。国は貧しくなっているどころか、逆に豊かになっているのではないか。
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新書版p.10


 選挙を前にして様々な経済データが取り沙汰されていますが、党によって言うことがバラバラで、混乱に拍車をかけている印象を受けます。統計データは「思い込み」あるいは「最初から決まっている主張」に合わせて解釈されることが多く、しかも直感でトリックに気付くことは困難なので、なかなかやっかいなのです。

 上に引用したのは、本書に登場する最初の問題。すべての問題は、まず上に引用したような「間違った言説」を提示し、どこが間違っているのか考えた上で解説に読み進む、という構成になっています。

 多くの場合、最初に提示される言説はもっともに思える(直感に合致している)ので、解説を読んで大きく裏切られてびっくりすることに。しかし数学的論理を追えば、なるほど、納得できる。これが快感で、ついつい読みふけってしまいます。

 知っている問題もいくつか含まれていましたが、解説が非常に分かりやすく、またよい具合に掘り下げてくれるのが素敵。例えば、「ビュフォンの針」問題は一般向け数学書でよく紹介されていますが、単に答えを示すだけでなく、なぜそこに円周率が登場するのか、その本質的な理由はなにか、という疑問までも取り上げてくれるのです。

 全体は4つの章から構成されています。


第1章 直感を裏切るデータ
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 大正時代の日本の人口と、メールマガジンの発行部数。ほとんど関連性のないデータに、なぜか共通の傾向を見つけることができました。このように「両対数グラフが直線になる」法則を、「ジップの法則」と言います。(中略)ジップの法則がなぜ成り立つのかについて、じつははっきりした説明はまだなされていません。
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新書版p.50、53

 前述した「集団全体の性質と、集団を分けたときの性質が異なる」現象(シンプソンのパラドックス)の様々な実例から始まって、平均寿命と平均余命の関係、ベイズの定理、ジップの法則、ベンフォードの法則、など統計データに潜む「直感に反した」性質を明らかにしてゆきます。


第2章 直感を裏切る確率
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 実用性を考えれば、この他人受容率は非常に低い(=高精度)と言ってよいでしょう。
 さて、このような生体認証技術ですが、データベースが充実してくるにつれて、別の、ある厄介な問題が浮上してきます。(中略)
他人受容の危険率がわずか100万分の1しかなかったとしても、同一判定される確率が50%を超してしまうのは、たった1180人のデータベースからなのです。
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新書版p.74、75

 ある人数の集団内に誕生日が一致するペアがいる確率(直感よりはるかに高い)という「バースデーパラドックス」の様々な応用から始まって、確率論の基本である「大数の法則」が成立しない確率事象、窓口を増やすことによる待ち行列解消効果(直感よりずっと大きい)、実力が拮抗しているゲームで一方的なリードが続く確率(直感よりずっと高い)を説明するアークサイン法則、「ビュフォンの針」実験、などが紹介されます。


第3章 直感を裏切る図形
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 掛谷問題は、一見するとただのオモシロパズルのように見えます。しかしのちに、ここで構成された図形は実解析学や偏微分方程式など、解析学の最も深い問題に応用されるほど重要なものになりました。掛谷宗一氏の素朴な疑問から始まった針の回転問題は、現代数学にも大きな影響を与えたのです。
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新書版p.152

 「穴に落ちないマンホールの蓋の形は、円しかないのか?」という議論から始まって、「立方体に開けた穴に、その立方体よりも大きな立方体を通すことができるか?」というルパート公の問題(実際にやってみた実験写真つき)、「平面上の図形で、長さ1の線分を連続的に180度回転させることができるものを考える。そのような図形の中で面積が最小となるものはどんな形か」という掛谷宗一氏が提出した針の回転問題とその驚くべき回答、体積が有限なのに表面積が無限になる図形、そして四色問題とその解決。幾何学に関連する著名な問題を取り上げて解説し、その意義を明らかにします。


第4章 直感を裏切る論理
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今までさまざまな問題を見てきました。子どもでも取り組めるような問題であなりがら、最終的には数学の奥深さに繋がっている問題が多かったのではないでしょうか。
  (中略)
連続体仮説が示した、「否定も肯定も不可能な命題がある」という事実。これは、世紀の大難問に正面から立ち向かった、勇気と努力の結晶なのです。
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新書版p.177、237

 「正方形の中のすべての点を通る曲線は存在するか?」という空間充填曲線の問題、「負け越すはずの2つのゲームを組み合わせることで、勝ち越すゲームにすることができるか?」というパロンドのパラドックス、有名なモンティ・ホール問題、そして連続体仮説とその驚くべき結論、など様々な問題を通じて、数学の奥深さと数学者の営みについて紹介してゆきます。


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