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『どうする どうする あなのなか』(きむらゆういち:文、高畠純:イラスト) [読書(小説・詩)]

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「それよりさ、まず みんなで ちからを あわせて
このふかい あなから でる ほうほうを かんがえようよ」
「たべるのは それからでも いいじゃん」
「なるほど……たしかに そうだな」
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 山猫の夫婦と三匹の野ネズミたち。五匹はうっかり深い穴の中に落ちてしまいました。さあ、どうする どうする。ユーモアと寓意に満ちた楽しい絵本。単行本(福音館書店)出版は2008年6月です。

 ページが異様に横長い不思議な形をした絵本です。実は、背中を上側にして、カレンダーのように縦に開いて読むようになっているのです。そうすると「上」のページと「下」のページがつながって、うんと深い穴の絵が登場するという仕掛け。まず、この仕掛けで子どもの心をぐっとつかみます。

 物語はユーモラスに見えて意外とシビア。深い穴の底に落ちた五匹は、全員で協力しないと脱出できない。だから、少なくとも今すぐに野ネズミを食べるわけにいかない山猫夫婦。では、どういう順番で脱出すればいいのでしょうか。


野ネズミたちが先に出て、草のつるを垂らして山猫夫婦を救出する案
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「おまえたちだけが あなのそとに でたら、そのまま にげちゃうんじゃないのか」
「そうよ。そしたら あたしたちだけ ずっと あなのなかじゃないの」
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山猫夫婦が先に出て、草のつるを垂らして野ネズミたちを救出する案
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「だめよ。あなたたちが あなのそとで まっていて
のぼってきた わたしたちを 1ぴきずつ たべちゃうもん」
「そうだ、きけんだ」
「ぜったい しんようできない」
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 さあ、困った。このままでは、全員が死んでしまいます。どうすればいいのでしょうか。子どもたちも色々と考えてみることでしょう。

 協力すれば全員が助かるが、協力すると見せかけてこっそり裏切れば、自分たちだけが得をする。こういう状況は、人間の世界でもよくあることです。人間は猫や鼠より賢いから、互いに信頼し協力しあって、あるいは公平な取り組めによって、問題を解決できる……のでしょうか?

 この絵本を読んで色々と考えた子どもたちが大人になる頃、私たちがどうやら落ち込んでいるらしい「あなのなか」から、うまく脱出する方法を見つけてほしいものだと切実にそう思います。まだ幼い甥と姪に、クリスマスプレゼントとして贈る予定です。


タグ:絵本
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