SSブログ

『本当にあった医学論文』(倉原優) [読書(サイエンス)]

CAUTION
--------
この書籍はあくまで読み物であり,
論文の内容について医学的な妥当性を保証するものではありません.
実臨床に決して応用しないようお願い申し上げます.
--------

 肛門にウシの角を挿入した症例、長時間ぶっ続けでカラオケを歌うと声が嗄れることを実証した研究、ハリー・ポッターの頭痛をめぐる大論争、人種差別を減少させる薬の臨床試験結果。世界中で発表された医学論文から珍品を選んで紹介してくれる楽しい一冊。単行本(中外医学社)出版は2014年11月です。


--------
当たり前と感じることをちゃんと検証しようとするスタンスは,サイエンティストとして大事な資質だと思います.この論文がサイエンスとして本当に妥当なデザインかどうかはともかくとして.
--------
単行本p.82


 医学論文というと、難しい専門用語で書かれたシリアスなものだと思われていますが、中にはどうやら変なものが混じっているらしい。本書は、奇妙な症例、変なことを大真面目に調べた研究、当然のことを当然のように検証した論文など、医学論文の珍品を紹介してくれるものです。全体は8つの章から構成されています。


「1章 驚きの症例を紹介する18の医学論文」

まさか!の肛門異物
--------
えてして「本当にあった」珍しい論文というのは珍しい行為に基づくものが多いのです.そういった観点で検索すると,“異物論文”が出てくるわ出てくるわ.(中略)
 ウシの角を挿入したのは,この報告は世界で4例目であると考察されています(過去に3人もいたそうです).稀な理由の一番は,そもそもウシの角を入手するのが困難だからです.そりゃそうですよね.
--------
単行本p.5

 心臓にくいこんだ弾丸が70年も残っていたケース。200発以上の弾丸を食べた症例。食べたゴキブリが消化されずに横行結腸に引っ掛かってしまった症例。醤油の一気飲み。室内のベッドの上で落雷にあって死亡したケース。魚が耳に刺さったケース。髪の毛が緑色になった症例。次から次へと「まじか!」と思うような症例が登場します。すべて医学論文で報告されているものです。


「2章 都市伝説を検証する8の医学論文」

「大腸ガス爆発」の都市伝説を検証する
--------
真面目に大腸の爆発について論じた論文があったので紹介します.
 下部消化管内視鏡検査の時に,ポリープ切除に対してレーザーを用いることがあります.これによって大腸に引火することはきわめてまれですが,実際にそういった報告はあります.過去の文献を検索したところ,20例もの症例が報告されていました(中略)この爆発事故によって1人が死亡しています.
 これを読んで,あながち“医学の都市伝説”もバカにできないなあと思いました.
--------
単行本p.32、33

 床に落ちた食べ物は5秒以内に拾えばセーフ。コカコーラを飲むと骨が溶ける。ロックばっかり聞いている青少年は不良化する。指の関節を鳴らしすぎると関節炎になる。男女が一緒にドキドキすると恋愛に発展しやすい(吊り橋理論)。本当かどうか、ちゃんと検証して大真面目に書かれた医学論文の数々。個人的には、逆効果であるばかりか余計な「副作用」があるという「吊り橋理論」の検証結果に驚きました。


「3章 ふとした疑問を解き明かす8の医学論文」
「4章 日常生活を彩る16の医学論文」

適度な休憩をとった方が長くカラオケを楽しめる
--------
水と声休めの時間を与えられた群の方ではカラオケ前後で声質の変化は観察されませんでしたが,ぶっ通しで歌った群では声質の変化や高音域の出しにくさなど有意な変化がみられたそうです.
 これらの結果から,カラオケを歌うのであれば適度な飲水と声休めをもうけた方がよいと考えられます.
--------
単行本p.68

 ハリー・ポッターの頭痛をどう診断するか。規則正しい睡眠をとらないと学校の成績が下がるか。1分間のブラッシングで抜ける髪の毛の本数は。笑うと免疫力が高まるか。テレビの観すぎで寿命が縮まるか。鼻毛が長いほうが気管支喘息になりにくいか。配偶者が入院すると死亡リスクは上昇するか。ギャンブルをすると興奮するか。加齢臭によって年齢を当てることが出来るか。

 きちんと調べてくれる研究者がいることで、人類は知的な向上を続けているわけです。個人的には「ストレスの多い男性はふくよかな女性を好む」という研究(単行本p.76)が印象的でした。


「5章 クスリにまつわる5の医学論文」
「6章 運動とスポーツにまつわる7の医学論文」
「7章 ニッポン発・お国柄がわかる4の医学論文」
「8章 明日からの臨床に役立つ(かもしれない)13の医学論文」

看護師が太極拳を習うと仕事の生産性がアップする!?
--------
この研究は太極拳によって仕事の効率を上げることができるのではないかというきわめて奇抜な研究です.そもそもなぜこのような研究を思い立ったのか謎です.(中略)
 病院によっては部活があり,いろいろな運動をしている看護師さんも多いと思います.太極拳がここまで仕事の生産性を向上させるならば,病院経営のためには太極拳の習得はほぼ必須条件と言えるでしょう.
--------
単行本p.108、109

 人種差別を減少させる薬。浮気を封じる薬。サッカーのヘディングは脳にダメージを与えるか。雪崩で雪に埋まったとき、生還できるタイムリミットは何分間か。チアリーディングにおける落下外傷の研究。ハンチントン舞踏病に対する「ダンスダンスレボリューション」の治療効果。桜島の火山灰が肺に与える影響の研究。タクシー運転手は腰痛持ちが多いか。直腸マッサージでしゃっくりが止まるか。ヨガで肺結核の治療が出来るか。インスタントラーメン調理時の熱湯熱傷に関する大規模調査。

 個人的に興味深いと思ったのは、プラセボ(偽薬)の「効果」は価格によって大きな影響を受ける、という研究です。まったく同じ偽薬(有効成分なし)でも、価格が高いと効果も高く、安物(ジェネリック偽薬?)だと効果が低いのだそうです。


 他に、医学論文の捏造、医学論文の検索方法、医学論文の著者名の順番、病院内の抄読会を継続させる方法など、医学論文に関わる様々なコラムも付いていて、医学知識に乏しい読者にも存分に楽しめるように工夫されています。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: