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『黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選』(中村融:編) [読書(SF)]

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 収録作全六編のうち、本邦初訳が一編、三十年以上も前に邦訳が雑誌に載ったきりの作品が四編、長篇の一エピソードとして流布している作品の貴重な原型の邦訳が一篇というラインナップ。
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文庫版p.393

 知性を持つ森、高温プラズマ生命体、共生生物、そして波動とエネルギーを自在に操る超生物。ロバート・ヤング、ジャック・ヴァンス、ポール・アンダースン、ヴァン・ヴォークトなど人気作家による、驚異の宇宙生命が登場する中短篇SFアンソロジー。文庫版(東京創元社)出版は2014年11月です。


『狩人よ、故郷に帰れ』(リチャード・マッケナ)
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集合的には、彼らは銀河最大の生化学研究所にちがいないわ。彼らは一種の生化学的知性、精神と変わらないものを形成していて、それはあたしたちよりも早く学んでいる。
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文庫版p.31

 異星の大陸に広がる巨大な森。それは、複雑な生態系と生化学的なネットワークによって作り出される知性を持っていた。だが、植民者である人類は森林を一掃しようとする。阻止しようとした主人公たちは、森のただ中に追放されるが……。人間社会と自然との対立を描いた作品で、今読むと映画『アバター』を連想します。もしかして本当に元ネタなんじゃないかと思えるほど。


『おじいちゃん』(ジェイムズ・H・シュミッツ)
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虫と虫乗りほど似ていないふたつの生き物の神経組織が、ひとつの器官として機能するほど密接に結びつくような興味深い共生に関して、コードはぼんやりと考えをめぐらせていた。
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文庫版p.124

 異星の海を渡るために植民者たちが利用しているオオオニバスのような大きな浮葉植物。いつもは無害なその植物の行動が、突如として知的かつ敵対的なものに変容する。いったい何が起きたのか。その謎を解かない限り、生還は不可能だった。命懸けで異星生物の生態の謎解きをするサスペンスあふれる作品。


『キリエ』(ポール・アンダースン)
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その体は、イオンと、原子核と、力場とでできていた。それは、電子や、核子や、X線を代謝した。それは長い生命期間にわたって、一つの形態をたもった。それは繁殖した。そして思考した。
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文庫版p.139

 安定したプラズマ渦から構成されるエネルギー生命体。人類はその一員と共に超新星爆発の中心部探査に向かっていた。エネルギー生命体とのテレパシー接触を担当する女性は、「彼」と(究極的にプラトニックな)恋愛関係にあった。だが、予想外の事故が彼らを襲う。それが悲劇のはじまりだった。

 後に様々な作品で繰り返し使われることになる「ブラックホール+悲恋もの」の嚆矢となる作品。何と言っても、書かれた時点では「ブラックホール」という用語がまだなかった、というから凄い。


『妖精の棲む樹』(ロバート・F・ヤング)
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 彼女は、なかば坐り、なかばよりかかるような姿勢で、彼女の体重をささえるには細すぎる、とある枝の上にうずくまっていた。そして、その薄い衣類は、周囲の葉の重なりと完全に溶け合っていたので、もしもその妖精めいた顔と金色の四肢、目のさめるような金色の髪がなかったなら、彼は、ぜんぜん彼女など見てはいないと断言することができただろう。
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文庫版p.180

 異星に最後に残った巨木を切り倒すべく、何日もかけて世界樹を昇ってゆく主人公。彼の前に姿を現した美しい妖精ドライアドは、木を殺さないよう彼に訴える。彼女への想いを振り切るようにして巨木の伐採を続ける主人公。だが、世界樹とこの星の生態系との密接な関係を、彼は知らなかったのだ。

 生態系に無理解なまま強行される開発が引き起こす事態を扱った作品ですが、登場する美少女妖精とのラブロマンスの部分が、もう、とにかくロバート・F・ヤング。


『海への贈り物』(ジャック・ヴァンス)
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人間の使う道具は、金属、陶器、繊維、すべて無機物だ----少なくとも、死んだものだ。だが、生きた道具----支配種族が専門的な用途に利用する、専門化された生物----に依存する文明だって想像することはできる。
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文庫版p.281

 異星の海洋でレアメタル採掘を行っていた船に起きた奇怪な事件。深海にひそむ異星生物が突如として攻撃を開始したのだ。攻撃を止めさせるには彼らとの意思疎通が必要だが、手足も言葉も道具も持たない、あまりにも異質な文明を持つ海洋生物とのコンタクトは可能なのだろうか。

 王道的なコンタクトテーマSF。映画的な展開にアクションシーンも多い娯楽作ですが、異星生命の描写や海中探査シーンなどいかにもジャック・ヴァンス。今読むと映画『アビス』、いやむしろ『深海のYrr』(フランク・シェッツィング)を連想します。


『黒い破壊者』(A・E・ヴァン・ヴォークト)
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「いったいぜんたい、なにを入れちまったんだろう?」男たちのひとりがうめいた。「おい、やつがその力を自在にあやつり、どんな振動の形でも送りだせるとしたら、こっちは皆殺しにされるしかないんだぞ」
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文庫版p.371

 科学者たちが乗る宇宙探査船が遭遇した黒猫型の猛獣。ほとんど不死身の身体、長くのびた強力な前脚、肩からはえた触手によりあらゆるエネルギーと波動を自在にあやつり、分子組成に干渉することでどんな堅固な物質をも軽々と粉砕してしまう超生物、その名はケアル。宇宙船内を舞台に、科学者たちとケアルとの死闘が始まる。

 後に改稿され『宇宙線ビーグル号の冒険』の一部となった、ケアルが大暴れする原型作品。ケアル(クァール)といえば「ムギ」しか知らない方は、本編でオリジナルの強さ凶暴さかっこよさを知ってほしいと思います。


[収録作品]

『狩人よ、故郷に帰れ』(リチャード・マッケナ)
『おじいちゃん』(ジェイムズ・H・シュミッツ)
『キリエ』(ポール・アンダースン)
『妖精の棲む樹』(ロバート・F・ヤング)
『海への贈り物』(ジャック・ヴァンス)
『黒い破壊者』(A・E・ヴァン・ヴォークト)


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