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『「本が売れない」というけれど』(永江朗) [読書(教養)]

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ぼくたちは、つい単純な答えを求めてしまう。たとえば出版不況について、「本が売れないのは読書ばなれが起きているからだ」と単純化して考え、「読書推進運動をすれば本が売れるようになる」と考えたように。しかし、ぼくたちは「読書ばなれとは何か」「本が売れないとはどういうことなのか」と、もっと考えなければいけなかったのだ。
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新書版p.217

 若者の活字ばなれが出版不況の原因、ネットが読書の時間を奪っている、アマゾンとブックオフが街の書店を駆逐した……。いわゆる「出版不況」にまつわる様々な思い込みや俗説を検証し、これから出版業界や書店はどうすべきかを考える一冊。新書版(ポプラ社)出版は2014年11月です。

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2001年に全国におよそ2万1000店あった日本の本屋は、2014年にはとうとう1万4000店を下回ってしまった。12年間で7000店、3割以上減ったのだ。(中略)
売上は減っているのだ。96年に2兆6564億円あったのが2013年には1兆6822億円にまで減った。17年間でおよそ1兆円、約4割の減少である。
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新書版p.31、66

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事態はとても複合的で、単純に「AがあったからBになった」といえるようなものではない
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新書版p.32

 本が売れなくなり、書店が消えてゆく。この危機的状況の原因はどこにあるのか。本書は、紆余曲折しながらも、その原因を探ってゆきます。まず「活字ばなれ」つまり人々が本を読まなくなったのが原因だ、という俗説は本当なのでしょうか。

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数字だけを見ると、新刊書の販売が減った分がそっくりブックオフに移ったように見える。それと同時に、新刊書籍の販売冊数とブックオフでの販売冊数を合計すると、日本で売れた書籍の部数はほとんど変わらないということになる。これに図書館での貸出冊数の増加分を加えると、「読書ばなれ」という常識への疑問は強くなる。
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新書版p.103

 つまり本は(冊数で見ると)同じくらい読まれている、ただ書店で本を買うのではなく(不景気のため)ブックオフや図書館に行くようになった、ということではないかと著者は推測します。つまり本が読まれなくなったという意味での「活字ばなれ」はどうやら起きてはいないらしい。

 では書店や出版社を苦しめている売上減少というのは、具体的に何が売れなくなったのでしょうか。

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「読書ばなれ」の中身を腑分けしていくと、いろんなものが見えてくる。まず「読書ばなれ」の実態は、「出版不況」であること。そして、「出版不況」のおおもとは「雑誌不況」であること。ならば出版界の景気回復には雑誌とコミックスの販売回復を目指したほうがいいのではないか。
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新書版p.73

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コミックスの売上は雑誌としてカウントされる。雑誌は中小の書店を経営的に支えてきた。それだけに雑誌不況は中小零細書店の経営を直撃する。(中略)
雑誌の売上が減ると、小さな書店が打撃を受ける。小さな書店が減ると、雑誌の売上が打撃を受ける。日本の雑誌販売に起きているのは負のスパイラルだ。(中略)
 出版社にとって雑誌が売れないということは、販売収入と広告収入の両方が減るということである。これがバブル崩壊後の日本の出版社を苦しめてきた。
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新書版p.70、71

 このようにして、書店が消えてゆく要因をひとつひとつ考察してゆきます。長期不況による節約、高齢化と人口構成の変化、コンビニ(雑誌販売を奪われた)、郊外型の大型書店の登場、ブックオフなど新古書店、アマゾンなどの通販ビジネスの台頭、図書館、そしてネットと電子書籍。

 それぞれの要因がどのように作用したのかを見てゆき、これからどうすればいいのかを考えます。

 結論に向けてきちんとした筋道に沿って論考を積み重ねてゆくタイプの本ではなく、話題はあちこちに飛びます。将来に向けた提言もそれほど充実しているとは言えません。

 というわけで、「若者がスマホばかりいじって本を読まなくなったから書店がどんどん潰れるのだ」などと単純に考えている方には一読をお勧めします。出版界の状況や問題に明るい方は、むしろ本や出版に関する雑多なエッセイとして読んだほうが楽しめるかも知れません。

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「本」は出版社が活動を続け、その社員たちに給料を払うために存在するわけではない。「本」は書店や取次で働く人たちのためにあるわけではない。出版社も書店も取次も、「本」を「読者」に手渡すためにある。
 現在の「本」を取り巻く状況はそのようなものになっているだろうか。著者が10年かけて書いた本が、書店の店頭から1週間で姿を消し、多くの読者が知らないうちに断裁されパルプになってしまう状況は、「本」と「読者」のためになっているだろうか。
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新書版p.235


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