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『日本人氣漫畫家追星瘋台灣』(高口里純:著、林子傑:訳) [読書(随筆)]

「真是現充呀」(ほんとリア充だわ)
「真是現充~~」(リア充ですね~~)

 台湾のトップスター、周杰倫(ジェイ・チョウ、Jay)を追いかけているうちに台湾にどハマり。ついに台北に住むことになった漫画家、高口里純さんによるラブ台湾エッセイコミック。単行本(東販出版)出版は、2013年08月です。

著者による紹介ページ
http://www.takaguchi.net/?p=1003

 『花のあすか組!』、『ロンタイBABY』などで有名な高口里純さんが、台湾で出版したコミックエッセイです。タイトルは「日本の人気漫画家、スター追っかけどハマり台湾」くらいの意味。台湾読者向けに描かれた中国語作品で、現時点で日本語版は存在しないようです。

追記(2015年8月)
後に日本語版が出ました。
『台湾が好きすぎて、家借りちゃいました。』(高口里純)

 作者のウェブページに「台湾にお寄りの際はご覧ください!」とあったので、台湾に行って買ってきました。定価240元で、台中の誠品書店のコミックコーナーに平積み状態でした。

 少女漫画やBL漫画のときと違って、エッセイ用の可愛らしい絵柄で描かれています。個人的に、この絵柄、大好きなんですよ。とりあえず日本から通販できるそうなので、高口里純さんのファンは購入して持っておくことをお勧めします。

 内容はざっとこんな感じです。

[ついに台湾での生活開始 の巻]

 台北に念願のアパートを借りて、アシさん(小恵恵)と一緒に引っ越してきた高口さん(老師)。さて生活用品を買わねばならない。しかしここは、ニトリ、セブンイレブン、ダイソーなど、日本でお馴染みの店がいくらでもある台北。買い物には困りません。というかDHCがあるよ、大戸屋もあるよ。外食が充実していて美味しいので自炊は必要ないよ。

 水道水は飲めないので毎日ペットボトル入りの水を購入。湿気がひどいので乾燥剤。空気が悪いのでマスク。雨がふれば地下街をぶらつけばよし。都会って素晴らしい。日本に帰るときは部屋中を徹底的に掃除して乾燥剤をばらまいて、玄関を施錠するのだけど、この玄関の施錠と解錠が難しくていまだによく分かりません。

[台湾? それって面白いの? の巻 その1]

 七年前は台湾島の位置を聞かれても、「だいたいこの辺?」「先生、そこは九州です」という状態だった高口さん。2006年に台湾のトップスター、周杰倫(Jay)を見て魂抜かれた状態に。「どこがいいの?」と醒めたことを言う生意気な娘を置いて、ついに台湾へ。

 ろくにUV対策してこなかった高口さん、連日室外気温38度から39度、真夏の台湾でひどい目に。でも、なんだろこの「ついに来た」という感動。異国なのに異国って感じがしない。何だか懐かしい。ご先祖様に招かれたのかしら。はああ。ホテルでは日本語が通じるし、夜市の食べ物は、その「甘い味付け」に驚いたけど、期待が高かった分がっかりすることもあったけど、でも、でも、台湾って、いい。

[台湾? それって面白いの? の巻 その2]

 今度は高口組のメンバーを引き連れて台湾に社員旅行。アシさんと二人して夜市で食いまくり、お土産買いまくり、そして周杰倫がオーナーやってる店に行ったら、ちょうどすれ違いでショック。仕方ないから西門町で周杰倫グッズ買い漁り、足ツボマッサージでぎゃあぎゃあ騒ぎ、すっかり台湾を堪能した高口さんとアシさん。

[台湾グルメ旅行 の巻]

 さーて、いよいよアシさんと二人、食い倒れの台湾旅行にやってきた高口さん。まずは苦茶を飲んで味覚をリセット。台南料理うまし。新竹米粉うまし。台湾の甘い味付けにも慣れてきたし、道のあちこちに黒犬が落ちているのは冷気を待っているのかしら。といいつつ台湾新幹線で台中へ。麵を食べる。うまいー。杏仁茶と杏仁豆腐、知らずに同じものを二つ頼んで店の人に笑われちゃったけど、食うし。

 高尾、台湾最南端の都市へ。ここで食べた汁なし牛肉麵が衝撃的に美味くて毎日通うことに。おこわも、粽も、肉そぼろ丼(ルーローファン)も、もちろんマンゴーかき氷きゃー、仙草ゼリーも素敵。食うべし食うべし。

[Jayを探して の巻]

 周杰倫(Jay)のコンサートのために台湾にやってきた高口さんとアシさん。前夜に体調を崩したアシさんだが、Jayに会えると思うだけで絶好調になるところが凄い。サインをもらうとき、「ファンです。頑張って下さい」と日本語で言うと、「アリガト」と日本語で言ってくれたのカッコいーっ。

「先生、Jayの映画来ました」
「行くぞっ」
「先生、映画が」
「行くぞっ」
「先生、ま、また映画が。それに来日コンサートが」
「ほんと現充(リア充)だわ」
「現充(リア充)ですねー」

「はあ、母さん、いい歳して何やってんの」
「うーん、お前がJayと結婚してくれればねえ。せめて台湾人と結婚してくれれば」
「あたしはイタリア人と結婚すんだかんね」

[家族で台湾旅行 の巻]

 台湾で借りたアパートに、夫、娘、息子を連れてやってきた高口さん。言葉も通じないのに、さっさと一人で美容院に行ってしまう娘、西門町のアーケードで遊んでいる息子、など若い世代のパワーにたじたじ。

[台湾に住むぞ の巻]

 2011年の春、突然「もう12回も台湾に行ったし、もう台湾に住んでしまおうかしら」と思った高口さん。アシさんと二人で台北へ。現地の友人、Rubyさんの手助けで不動産屋探し。日本人向け不動産屋はいまひとつ、どうも駄目だと思っていたら、現地の不動産屋が紹介してくれた物件が素晴らしい。地下鉄から1分、コンビニから1分、42坪、2フロア。1年契約成立。やっぱり不動産屋は現地に限る。

 まあ、1.冬場はお湯が出ない、2.トイレットペーパーを流せない、3.ゴミの分別がいいかげんで住民が守ってない、4.玄関の施錠が超難しく(古い門で、鍵四つが必要)しばしば閉じ込められたり締め出されたりする、というのはあれですけど。

 それと中国語がまったく分からないため、様々なトラブルが。

 在住許可証をとるとき何か窓口で言われたので困っていたら、「本名のうち“楽”という漢字を“樂”で登録してよいか」と聞かれていたと判明。開設した銀行口座にお金を八万元入れようとして入金申請用紙に「80000元」と書いたら漢字で書けと言われて「八零零零零元」と書いたら笑われた。ど、どうすれば・・・。正解は「捌萬元正」でした。もう忘れません。

[あとがき]

 台湾の皆さん、お読みいただきありがとうございました。翻訳された漫画みたら、私が中国語を流暢に話しているようで嬉しいです。結局、台北には一年半ほど住んで、今はもうアパートは引き払ったのですが、また台湾に住めたらいいなーと思います。ところで何で私が「老師」で、アシが「小恵恵」なのよ、アンタなんか「大恵恵」で充分でしょ、ぷんぷん。


タグ:台湾
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『看雑誌學流行口語日語(雑誌で学ぶ日本の流行語)』(西村恵子、吳冠儀) [読書(教養)]

「ブログが炎上しちゃったんだって(部落格被灌爆了耶)」
「ネトウヨの集中砲火浴びちゃったのかな(結果遭到了網路右翼的輪番砲轟)」

 台湾で購入した、若い女性向け日本語学習本。出版(山田社)は2013年08月です。

 台中の誠品書店にて、定価299元で購入しました。看雑誌學日語、「ファッション誌で学ぶ日本語」のシリーズは五冊ほど出版されており、どれも語学コーナーに平積み。本書はその最新巻です。

 若い女性向け日本語学習本というのはどういうものなのか、好奇心から手に取ってはみたのですが、これがもう、最初から知らない単語が頻出するので仰天。


[知っておこう流行日語(ファッション篇)]

 トップスIN、読モ、ピタT、ニーソ、ニクネ、ゆるカジ、キレカジ、渋原系、V系、A系、B系、モード系、コーデ、アゲ嬢、アリージョ、しまラー、コーデ、デコクロ、Aライン、Iライン、Xライン、・・・。

 すいません。レベル高すぎておじさんついてゆけません。


[知っておこう流行日語(美容篇)]

 半顔メイク、池様、オトメン、涙袋メイク、涙ライナー、デカ目、カラコン、パッツン、オルチャン、ナムオル、パティーン、とりま、ボブ、きゃわたん、イメチェン、JK、ロン毛、うるい、美魔女、モバ美、まっぱ、はんぱ、・・・。

 もはや若い女性と会話することは日本語でも無理だと思い知らされました。

 ときたま知っている単語が出てくるとほっとしたり。例えば「オルチャン」は中国語で「韓系正妹」とのこと。ふむふむ。

 ちょっと待て。オルチャンはオルグル(顔)がチャン(良い)という意味の韓国語なのに、そこすっ飛ばして、カタカナ表記「オルチャン」という“日本の韓流用語”を中国語に意訳して「韓系正妹」と表記し、それを流行日語として学習している台湾のおそらく十代の女子たち、というボーダーレス。世代間ギャップ激しくてめまいが。


[知っておこう流行日語(生活篇)]

 夜スポ、KY、干物女、腐女子、歴女、生ビ、カミッテル、絶食系、キラ男、チャラ男、ハメ撮り、モテ期、カップルつなぎ、逆ナン、コクる、遠恋、ワンギリ、アラサー、アラフォー、三高、三低、三手、できちゃった婚、格差婚、離活、ダブル不倫、女子会、クリパ、ヒトカラ、大人買い、ブッチ、番宣、おサイフケータイ、ガラケー、教えて君、炎上、アラシック、追っかけ、ファンミ、・・・。

 このあたりまで来ると単語レベルでは何とか分かるものが増えてきますが、実際の日本語女子会話においてどのように使われているのか、自信がありません。もちろんそれぞれの単語について中国語訳語と解説が載っていますが、たとえ中国語が読めたとしても、たぶん私には理解できないのではなかろうか。

 ちなみに、実用会話の文例もむっちゃレベル高いです。

  「ヤバい、ヤバい! 超カワイイ! ねー、マジ、いいよねー!」

  「この肉球、超ぷりちー! 触っちゃえー! 猫はツンデレ具合がたまらないのー!」

  「ホントはこーゆうageha系が好きなんだよ。学校ではガマンしてるだけ」

  「「あいのり」に出てた桃ちゃんの半顔メイクでしょ。落差激しいよねー」

  「男の化粧ダメなの? だって、聖飢魔II好きでしょ?」
  「あれは素顔なんだよ! ビジュアル系と一緒にしないで!」

  「三好さんって、JKリフレでバイトしてるらしいよ」
  「えー、だって三好さん、20歳じゃん!」
  「制服着てれば、20歳くらいはアリらしいよ」

  「ワンピースのコスプレは別に珍しくもないけど、あれだけ集団でねえ」
  「今回のコミケは全体的にレベル高いけど、あの人達はホント、凝ってるなー」

  「ブログが炎上しちゃったんだって」
  「ネトウヨの集中砲火浴びちゃったのかな」

 あまりの実用性に腰が引けてしまうというか、このような実用会話が70個以上も付録CDに収録されていて、何度も繰り返し聞いて暗記しましょう、というのが凄いです。他の四冊も読んでみた方がいいかなあ。


タグ:台湾
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『大江大海一九四九』(龍應台) [読書(教養)]

 「記憶を共有することなく、どうして未来を共有することが出来るだろうか?」

 日文版(日本語翻訳版)『台湾海峡一九四九』に感激したので、これは読めなくても原書で持っておくべき一冊だと思って、台湾で購入してきました。日文版読了時の紹介はこちら。

  2013年09月20日の日記:『台湾海峡一九四九』(龍應台)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2013-09-20

 日文版はハードカバーですが、原本はソフトカバーで、ひとまわり大きいサイズ。表紙は青と赤の落ち着いた彩色となっています。折り返しには、日文版の小さい写真とは別に大きな著者近影。

 ちみなに原書の書影を通販ページで見ることが出来ますので、ご参考までにリンクを貼っておきます。リンク切れの際には申し訳ありません。

天下網路書店-大江大海一九四九
http://www.cwbook.com.tw/product/ProductAction.shtml?prodId=3258

 原書の初版出版は2009年08月、私が購入したのは2013年05月発行の第3版第22刷でした。着実に改訂を重ねていることが分かります。台中の誠品書店では平積みになっており、ベストセラー値引き(一般読者15パーセント引、書店会員21パーセント引)のシールが貼ってありました。帯によると、日文版と英文版が出ているとのこと。

 中国語が読めないもので、原書と日文版の内容を比べるのは困難なのですが、少なくとも原書には日文版にはない写真(大きめサイズ)が多数収録されていることが分かります。要チェックです。

 帯のアオリ文は、表が「記憶を共有することなく、どうして未来を共有することが出来るだろうか?」というもので、裏には「今に至るも大陸では出版禁止のまま・・・」と。日本の読者としては、翻訳者のおかげで母国語で読めることに感謝しつつ、いつか大陸版が出版され「全球華人燈下共讀」(帯より)となる日が来ることを祈りたいと思います。


タグ:台湾
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『台湾海峡一九四九』(龍應台) [読書(教養)]

 「あれほど悲痛な別れ、あれほどの理不尽と不正義、あれほど深い傷、あれほど長い忘却、そしてあれほど静かな苦しみ・・・・・・。(中略)私は、自分の感情を押し殺し、情緒を消し去り、心に“空間”を作った。そこに文章を落とし込み、文章自身が持つ圧を高めていく。私が覚めていなければ、文章は熱くならない」(単行本p.393)

 国共内戦、国民党による台湾接収、台湾海峡危機。あの時代を生きた人々は、どのような体験をしたのか。丹念な取材により黙して語られなかった歴史に光を当てた、衝撃と感動の歴史ノンフィクション『大江大海一九四九』の日本語翻訳版。単行本(白水社)出版は、2012年06月です。

 「台北という都市の道路地図に描かれている中華民国は、1949年に時間を止めた歴史地図なのである。(中略)台北の地図を大きく広げてみる。ここにあるすべては歴史の意外な符号であった。1949年、国民党政権が崩壊し、この島へ撤退してきた。この島を大陸反攻の基地とするためである。「国土の奪還」はこれより以降、何よりも崇高な教義となった」(単行本p.142、146)

 多くの日本人にとって戦争は1945年に終結したのであり、その後の歴史はすべて「戦後」、「焼け跡からの復興」的なものになってゆきます。もちろん教科書を開けば、日中戦争後の国共内戦、国民党の台湾撤退、台湾海峡危機、といった言葉は並んでいますが、どうも「戦後のごたごた」くらいにしか感じられず、他人事という感触がぬぐえません。

 「1949年ほど一般の日本人にとってなじみがない年はなく、いわば東アジア史の空白とすらいえる」(「訳者あとがき」より)

 本書はその激動の時代に焦点を当てた歴史ノンフィクションです。

 「現在の台湾社会を構築するすべての要素が出揃った1949年を中心に、戦争、内戦という苛烈な社会情勢のなか、著者の家族や当時の若者がいかに決断し生き延びてきたかを描き、彼らが60年間、誰にも言えないまま抱えてきた痛みを語っている」(「訳者あとがき」より)。

 「1949年に台湾へ逃れてきた国民党政権(と軍)を、戦後台湾を権力と暴力で支配した強者としてではなく、故郷を失ったひとりひとりの弱者として描いた」(「訳者あとがき」より)。

 生存者を捜し当て、証言を丹念にすくい上げ、膨大な資料の山を彷徨いながら、戦時を生き延びた人々の体験を再構築してゆく。ここに描かれている出来事、そしてそれが残した「痛み」のすさまじさ、底無しの深さときたら。

 「道は山をぐねぐね巡っては次の山につながっていく。歩いているのはみな難民であった。そして路傍に倒れた死体が、何キロも連なっていた」(単行本p.57)

 母親である著者が、兵役を前にした息子に向けて、自分の両親の体験を伝えるところからスタートします。台湾外省人である自分のルーツ。「些細な、まるで大事とは思えない一瞬の決定が、いちいち一生の運命を決める分水嶺となった」(単行本p.48)激流の中で、難民となった人々を待ち受けていた苛烈な運命が語られてゆきます。

 「弟の体をぐっと引き寄せて言った。ここで別れよう。二人とも南へ向かったら、同じ運命をたどるだけだ。万が一 二人ともダメだったら両親は「希望を失う」。だからここで運命を分けて両方に賭けよう」(単行本p.94)

 戦火のなかを逃げまどい、ある者は砲撃で吹き飛ばされ、ある者は強制徴兵され、またある者は収容所送りとなる。運命に引き裂かれてゆく人々と家族の姿。

 「それはなんとありふれた風景だったろう。足を失った兵士が脇に松葉杖を挟み、汚れた身なりでぽつんと初めての町に立ちつくす。どこへ行っていいのかもわからない。そしてその多くは、少年であった」(単行本p.122)

 ページが進むにつれて、目を背けたくなるような情景が、様々な人々によって語られてゆくことになります。

 国共内戦の凄惨な戦場。回収どころか「なかったこと」にするため埋められた数千、数万、数十万ものむごたらしい遺体。数十万人の餓死者を出した長春包囲戦の吐き気をもよおす惨状。強制徴兵され弾よけにされた年端も行かない子供たち。生き延びた人々が吐き出す酸鼻をきわめる出来事の記憶が、静かに発熱するような筆致で読者の前に差し出されます。

 ここまでが前半。かなり体力気力を消耗しますので、覚悟して読んで下さい。そして、特に日本の読者にとっては、後半さらに読むのがつらくなってゆきます。

 「ドイツおよびイタリアの捕虜収容所における連合国軍兵士死亡率の実に7倍である。恐ろしくなるほどの差だが、日本軍の捕虜収容所における中国人の死亡率は白人とくらべてもなお飛び抜けて高かった」(単行本p.307)

 「捕虜たちの口に上る「日本兵」には、実は少なくない台湾出身の監視員が混じっていた」(単行本p.304)

 「彼らは、よく日本人の上官に殴られたり、ビンタされていましたから。正直言って、彼らフォルモサの監視員への日本人の態度は、監視員のわれわれに対する態度と同じくらい悪劣でした」(単行本p.327)

 「国民党軍兵が連行されて人体実験させられていたころ、日本軍自体、人食いを始めていた。(中略)当時命令があって、アメリカ兵の肉は食っていいが、自分たち日本兵の肉は絶対に食うな、と言われていた。しかし効果はなかった。食べるものがなかったから、同胞の日本人の肉も食べた」(単行本p.360)

 「戦後、日本に対する裁判で、173名の台湾人兵が起訴され、うち26人が死刑の判決を受けた」(単行本p.307)

 ちなみに、「同胞の日本人」と語っているのは、高砂義勇軍(台湾先住民志願兵)の生き残りです。日本兵、台湾兵、連合軍捕虜、それぞれの立場にそれぞれの悲劇があり、視点を変えるたびに悲劇はさらに増え、重なり合い、さらに深まってゆく。そこに終わりというものはないようです。

 最初から最後まで心胆を寒からしめるような出来事が書かれているにも関わらず、慣れるということがありません。数十万人の遺体で大地が血に染まる光景も、泣き叫ぶ母を残して子供を乗せた列車が走り去ってゆく情景も、昨日までの戦友が銃口を向けあう無意味な戦いも、すべてが同じように心につき刺さり、魂に響く。

 誰が悪い、誰の責任だ、糾弾すべきだ、謝罪すべきだ、といったことは一切主張せず、ただ一人一人が体験したことを記録に残そうとする筆致。どの国であろうと、どの軍であろうと、そこに飲み込まれていった個人個人を分け隔てなく思いやる心。兵役を前にした息子に、歴史を語りつごうとする著者の姿に知らず知らずのうちに嗚咽が込み上げてきます。

 読みながら何度も涙を流し、ときに吐き気をもよおし、衝撃とも感動ともつかないものに心を鷲掴みにされ振り回される思いを味わいました。歴史ノンフィクションですが、戦争文学としても一流の作品です。原文が持っているであろう詩情を、見事に日本語に訳してのけた翻訳者の苦労にも頭が下がる思いです。読むべき一冊です。

 「もしもあなたが本当に考え抜いた結果なら、兵隊になるのもよし、拒否してカンボジアでボランティアをするのもよし。愛する息子だもの、私はどちらも支持する。 一人ひとりの決定は、実はその同世代人に影響を与える。その世代の決定は、その次の世代にまた影響を与える。愛情はいまだかつて、責任から逃れたことはない」(単行本p.366)


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『知日05 猫』(蘇静:主編) [読書(随筆)]

 「日本の猫は幸福感にあふれている。そういうところでは、人も幸福なのではないだろうか」(巻頭言より)

 中国関係書籍専門書店である東方書店で、中国の日本文化誌『知日』の猫特集号を手に入れました。雑誌出版(中信出版社)は2012年08月です。

 『知日』は、主に中国の若者向けに、日本のあれこれを紹介する月刊誌。『東方』391号(2013年9月)に寄稿された『『知日』と私』(毛丹青)には、次のように書かれています。

 「『知日』は2011年1月初めに創刊された。(中略)日本語の「等身大」という言葉の意味は、「ありのまま」ということだ。誇張せず蔑視せず賛美せず、文化の記録と叙述として、今後の理解を深めるための道をつくる」

 「『知日』の雑誌作りの原則は、中国の読者のために日本の生の体験、直の体験を提供することにある。日本の文化、芸術、クリエイティブや旅行などを表現し記録することに努め、ついに2013年には月刊誌としてリニューアルした」

 編集部員はみんな「八0後」世代とのことで、実際に『知日』のバックナンバーリストを見てみると、いかにも中国の若者が興味を持ちそうな特集テーマが並んでいます。

 奈良美智、制服、鉄道、妖怪、森ガール、禅、断捨離ブーム、暴走族、・・・。

 前置きが長くなりましたが、その『知日』の第5号、猫特集号です。表紙はかご猫シロ(http://kagonekoshiro.blog86.fc2.com/)のチャーミングなお鼻が、どどーっんと、どアップで。

 シロちゃんは中国でも「猫叔」(猫おじさん)として大人気なので、表紙モデルへの起用も納得できるのですが、この鼻接写はどういうことか。前述の『『知日』と私』(毛丹青)によると。

 「猫特集の表紙は、猫の鼻のアップだ。出版前に若いスタッフから幾つかの案が出され、そのなかから私はこの表紙を強く推した。編集長とデザイナーには、日本の書店で見かける猫の本で鼻のアップはほとんど見かけない、多くが猫の眼だと主張した。他がしないようなことを敢えてしていこうというわけだ」

 つまり、シロちゃん最大のチャームポイントはあの鼻だ、という主張かと思われます。私も同感です。

 特集内容はこんな感じ。

  日本における猫の歴史
  猫マンガの歴史
  猫島
  猫カフェ
  荒木経惟と愛猫チロ
  猫写真
  猫エッセイ
  猫缶
  『みさおとふくまる』
  ハローキティ
  猫画家
  かご猫シロ
  猫雑誌
  猫駅長たま
  猫にまつわる日本のことわざ。

 文章は中国語で書かれているので私には読めないのですが、ほとんどのページに写真が掲載されており、パラパラめくるだけで楽しめます。お馴染みの人気猫たちの写真も多数収録。

 猫マンガのページでは、『What's Michael』、『くるねこ』、「猫絵十兵衛』、『猫ラーメン』、『よん&むー』など基本を押えているのはもちろん、『うる星やつら』のこたつ猫、『らんま1/2』の猫コスプレ、『百姓貴族』のここにも猫、『とりぱん』のあそこにも猫、という具合に、編集担当者が一人で盛り上がっている様子が見えて微笑ましく。

 というわけで、可愛い猫の写真が満載で、中国語が分からなくても楽しめる『知日05 猫』です。犬好きの皆様には、『知日11 犬』(2013年05月号)をどうぞ。

 手に入る今のうちに、バックナンバー集めておいた方がいいかしらん。『制服』とか『妖怪』とか『森ガール』とか、気になる。考えてみれば、私、日本文化についてよく知らないし。


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