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『黒警』(月村了衛) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 「俺達は最初の黒社会になろう。本来の意味の黒社会。真の<黒>だ。(中略)俺はあんたの身許を誰にも明かさない。紹介もしない。仲間や手下にも。あんたは俺だけが知る、警察の中の『黒色分子』だ」(単行本p.138、141)

 鬱屈した警官、情にあついヤクザ、中国系犯罪組織の首領。互いに敵同士のはずの三人の男たちが手を結ぶ。だが、闘うべき相手はあまりにも強大だった。『機龍警察』シリーズの著者による新たな警察小説。単行本(朝日新聞出版)出版は、2013年09月です。

 「ただ組織に従順であれ----上からそう言われてそのままに生きてきた。反発する気骨など到底ない。上に媚び、下にもへつらい、横にはもっと気を遣う。可も不可もなくを理想とし、ただすべてを受け流す。それだけを心得として生き延びた。 警察官になった頃はこうではなかった」(単行本p.43)

 警察という巨大組織の現実に打ちのめされ、鬱屈した日々を送る警察官。妙に人情にあつい武闘派ヤクザ幹部。そんな二人の前に現れた中国系犯罪組織の若き首領は、二人と手を結びたいと申し出る。弱い者、女子供を食い物にする連中に、思い知らせてやる。ただそのために。

 「損得じゃない。信義だ」(単行本p.103)

 だが、中国の巨大犯罪組織、日本の警察、その両方を敵にまわして、彼らにどんな勝機があるというのだろうか。

 『機龍警察』シリーズで大人気の著者が放つ新たな警察小説です。

 地道な捜査を中心とした警察小説と、SFアニメを彷彿とさせる戦闘メカ(軍用パワードスーツ)を組み合わせるという、いわば変化球で人気を博した『機龍警察』シリーズ。では、そこから戦闘メカや、美貌の女テロリストといった、あそこら辺を切り捨ててみたら。

 それが本書です。『機龍警察 暗黒市場』からSFアニメ的要素をばっさり削ったような作品、といってよいでしょう。

 組織の論理や圧倒的な現実を前に、誇りも気概も失った日々を送りつつ、それでも心の底のどこかで何かがくすぶりつづけている、そんな警察官が主人公。それぞれの形で国に裏切られ、組織に裏切られた男たちが、許せない巨悪を前に、孤立無援の闘いに挑む。

 あり得ない設定、あり得ない展開を、するりと読者に受け入れさせてしまう筆力は健在です。

 「いかに自分が痛めつけられ、誇りを失っていたか、今さらのように思い知った。長年警察という組織にいる間、嫌な重さで押し込められ、知らず知らず、じくじくと腐っていったのだ。いや、腐っているという自覚はあったが、これほどのものだったとは。 散々に傷つけられ、打ちのめされた自尊心が、意外な形で泥の中から頭をもたげた」(単行本p.145)

 「こんな自分にも----自分だからこそ----やれることがある。誰にも知られず。知られることなくやってやる。これまでの長い長い無為の時間を取り戻すのだ。自分が生きてきたということに、少しはましな意味を与えてやるのだ。(中略)奇妙なことに、そして皮肉なことに、沢渡は任官以来、自分が初めて警察官になったような錯覚さえ感じていた」(単行本p.146、163)

 ベタだけど、やっぱ、ぐっときますね。この、熱血冒険小説のノリ。

 ノワール調で展開しつつも、随所にちょっとしたユーモアが仕掛けられていて、それが全体を明るいトーンにしています。派手なアクションはなく、銃弾の一つも飛びませんが、後半のサスペンスシーンやコンゲームの面白さには思わず引き込まれます。興奮します。

 というわけで、『機龍警察 暗黒市場』からSFアニメ的要素をばっさり取り除いてみても、やっぱり警察小説+熱血冒険小説として圧巻の面白さ。じゃあ、あのシリーズにSFなんてもともと必要なかったんじゃ・・・、という困った結論が出てしまいかねない痛快作です。


タグ:月村了衛
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