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『手袋を買いに』(新美南吉:作、黒井健:絵) [読書(小説・詩)]

 「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」

 新美南吉さんの名作に、黒井健さんが美しい挿絵をつけた素敵な絵本。単行本(偕成社)出版は、1988年03月です。

 雪遊びに夢中になってかじかんだ小狐の手を心配した母狐が、町へお使いに出します。小狐の片方の手を人間のものに変えて、「ほらこの人間の手をさし入れてね、この手にちょうどいい手袋頂戴って言うんだよ、わかったね、決して、こっちのお手々を出しちゃ駄目よ」と言いふくめます。でも帽子屋を見つけた小狐は、戸の隙間から、うっかり狐の手を出してしまったのでした。

 有名な児童文学です。甥っ子にプレゼントするために買いましたが、懐かしくて何度も読み直してしまいました。ぼんやりとにじんだような、心が温かくなる色調で描かれた黒井健さんの絵が素晴らしい。

 私も子供の頃に読んで、最後に二度繰り返される母狐の問いかけに、大人になったらきちんと答えられるようになろう、と思って生きてきました。多くの人がそうではないでしょうか。

 今、この歳になって読み返してみると、「人間ってほんとに恐いものなんだよ」と言いながら自分では行かずに子供をお使いにやる母狐の露骨な保身、相手が狐だと知ってまず「先にお金を下さい」という帽子屋のちゃっかりした打算、といった大人のリアルが身に染みます。

 最後の母狐の有名なセリフも、「ほんとうに人間は(そんなにひとの)いいものかしら。ほんとうに人間は(騙しても)いいものかしら」と、早くも次の手を考えているように読めて、そのたくましさに感銘を受けます。そもそも母さん、子狐に与えた本物のお金(白銅貨)は、いったいどこから調達したの。

 というわけで、大人になった私の答えは「個々の人間や狐の性根が良かろうと悪かろうと関係なく商取引が成立してしまう社会って、やっぱりいいね」というものです。でも・・・。

 ほんとうに自由貿易はいいものかしら。ほんとうに規制緩和はいいものかしら。


タグ:絵本
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