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『ねこじゃらしたち』(栗原知子) [読書(小説・詩)]

 「神様は/四階の赤ちゃんの積み木を参考にしていた/「ここでまさかの反復。破壊と放擲。/ドラスティックに気分を変えて、ほこりをつまみ食いか」」
 (『マンションを』より)

 思い出、赤ん坊、大震災、エルパソ。独自の視点で家族と生活を見つめた詩集。単行本(思潮社)出版は、2012年12月です。

 今に至るまでの人生を振り返りつつ、自分の子供に思いを寄せる、母視点の詩が印象的な詩集です。

 個人的に好みなのは、妊娠から出産までの体験を扱ったと思しき詩。

 「そこに線が見られたら 陽性なのだという/問題の一分間/八階からの眺めを/銀色の長いものが飛んでいった/コウノトリならぬ/あれはボバ・フェットだろうか/あほらしい事故で物語から消えた/クローンの男/もしくは葉巻型宇宙船だろうか/目を落とすとそこには/ぼんやりとしたしるしが出ている」
 (『カラー』より)

 「奥さんの頭はひどいな/ぼさぼさだな/ホルモンバランスだろうな産後の/いやむしろ 詩だろうな/詩であんなになるのかよ/そういう手合いもあるんだよ/おれらも 気をつけなきゃな/だな」
 (『ねこじゃらしたち』より)

 子供と詩と空想の区別がなくなっている感じが素敵。空想や夢の感覚は作者にとって強力な道具のようで、そういう作品が多数収録されています。東日本大震災後の心境を描いた詩はこんな感じ。

 「徹子は真面目な顔で聞いているけど/この話ばかりじゃ 視聴者が飽きはしないか/けれども他の何について話せばよいのだったか/思案する私の様子に徹子が席を立った//徹子の部屋の隣は/徹子の寝室だったらしい/そこで布団を上げてしまうと/もう一度こちらを覗いてから/今度は裁縫道具なんか抱えて/ぱたぱたと走り回っている/美しい 働きぶりである」
 (『徹子の部屋』より)

 「東北地方太平洋沖地震から十八日」という副題がついたこの作品では、震災とそれにまつわるもろもろがうまく言葉にならないもどかしさを、夢の情景として描いているようです。徹子の部屋の隣は徹子の寝室だった、というのがぐっときますね。

 他には、幼い頃の思い出を扱った作品が好きです。

 「大きい女の子が立ちはだかって/言った/あんた/保育園の子じゃないでしょう//あんた/保育園の子じゃないでしょう/地面が ごおんと鳴って/ぜんぶ真っ暗になって/それから 運動会が戻ってきた」
 (『運動会』より)

 「あおいちゃんは書いた/「一年生はうつくしい」/また みんな笑った/私も笑った/今でも笑ってる/「一年生はうつくしい」/笑いながら くしゃっとなってしまう/そのスピードを前に/山ほどの詩がかすんでいくもの」
 (『あおいちゃん』より)

 こういうこときちんと覚えてない人は、詩人にはなれないんだろうな。羨ましいけれど、とてつもなく疲れるんじゃないかしらん。私は、とうてい詩人にも母親にもなれないような気がします。


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