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『重機の世界』(高石賢一) [読書(教養)]

 「見るからに大きくて重そうな“重機”の魅力やかっこよさはなんといっても、単一機能に特化した機能美と説得力あるデザインだろう。見た目だけで、見る人の心を鷲づかみにする巨大なインパクトがある」

 重機模型専門店の店主による、重機ファンのための写真集。単行本(東京書籍)出版は、2013年02月です。

 最初から最後まで重機づくし、重機ファンによる重機ファンのための一冊。パワーショベルから始まって、ホイールローダー、クレーン、ブルドーザー、モータースクレーパ、モーターグレーダ、解体機、ダンプトラックまで、様々な重機が取り上げられます。重量感あふれるその姿は圧巻のひとこと。

 個々のタイプごとに、まず左側ページに名称と全体写真、部位解説(ブレード、油圧シリンダー、リッパ、クローラ、等)をばーんと。続いて鑑賞ポイント(目に飛び込んでくる「カタマリ感」と、見るからに押す力が強そうなパワフルなオーラがたまらない、等)。右側ページには、サイズ比較(主要製品のシルエット、人間と比較してその巨大さを見せる)、さらには運転するのに必要なライセンス。

 この「運転するのに必要なライセンス」が明記してあるところが「本気」を感じさせて、思わずドキドキしてきます。

 続くページには、詳しい解説、仕組み、種類、さらに様々なかっこいい写真を載せてくれます。余計なものは一切なし。ひたすら「重機ってかっこいいよね」という一点に的を絞った本です。

 個人的には、重機に特別な思い入れはなく、本書ではじめて名称を知った重機も多いという程度の「素人」なんですが、やはり見てゆくうちに胸の奥がざわざわしてきます。いいね、この重量感。奇怪な巨大生物のようなシルエット。天に向かってそそり立つ可動タワーの旋回感。かっこいいね。

 個人的には、「デモリションマシン」の、思わずのけぞるような異形、そして長い長い一本腕に賭けた禍々しいまでの気迫に、ぐっ、と来ました。

 というわけで、「興味ないし」とおっしゃる方も、ちょっと手にとってパラパラとめくってみて欲しい。何か心惹かれるものがあれば、おうちでじっくり鑑賞。その動き、その働き、その仕組み、その現場。解説を読んで詳しい知識を得るにつれて、段々と、観たくなってくる実物。

 しょせんガンダムを操縦することは出来ないけれど、これらの巨大機動メカは実在しており、ライセンスを取れば誰でも操縦できるのだ、ということにふと心から気付いてしまう瞬間がちょっと怖い。


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『のせ猫 かご猫シロとおなじみ4人弟子』(SHIRONEKO) [読書(随筆)]

 揃えた前足の上に何でも乗せてじっとしているユーモラスな猫写真を中心に、末っ子みみを含むシロ一家5匹の何とも可笑しく愛おしい姿をとらえた猫写真集。単行本(宝島社)出版は、2013年02月です。

 猫写真サイト数ある中で、個人的なイチオシといえば、何といっても『かご猫ブログ』です。一時期あちこち猫写真サイトを巡回していたこともあったのですが、今でも毎日覗くのは、ここの他には『くるねこ大和』さんのブログだけとなりました。

  かご猫ブログ
  http://kagonekoshiro.blog86.fc2.com/

 というわけで、かご猫ブログで活躍している5匹の写真集です。付録として絵葉書が二枚(一枚はシロの鼻のクローズアップ)が付いています。

 揃えた前足の上に果物を何段にも重ねて乗せて得意気だったり、スポーツチームよろしく皆で前足を重ねた上に猫缶を乗せたり、ときに頭上に花を咲かせたり、どちらかといえば脱力系のゆるーい写真がいっぱい。見ているだけで肩から力が抜けてリラックスできます。

 前作『のせ猫 かご猫ファミリーと新入りみみちゃん』で初登場した新入り仔猫「みみ」も、あっという間に成猫となり、割とふてぶてしい乱暴な顔つきに。「みみ 2ヶ月→8ヶ月」(単行本p.112)と題された二枚を見比べると、わずか半年間の変貌に愕然とさせられます。子猫は儚い。

 個人的には、両前足に小さな下駄を乗せて自慢げにしている茶トラの写真が好き。あと、階段で寝ているシロの様子をじっと見ているみみの写真とか、シロとみみが小さな箱に無理な感じで詰まって一緒に眠っている写真。

 「かご猫ブログ」が気に入った方は、書店で手に取って確認してみるとよいでしょう。


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『SFマガジン2013年4月号 「ベストSF2012」上位作家競作』(パオロ・バチガルピ) [読書(SF)]

 SFマガジン2013年4月号は、『SFが読みたい! 2013年版』で発表された「ベストSF2012」において上位ランクインした作者の短篇を4篇も掲載してくれました。また、あわせて草上仁さんの短篇、および先月号に<前篇>が掲載されたキジ・ジョンスンの中篇『霧に橋を架けた男』の後篇も掲載されました。

『コルタサル・パス』(円城塔)

 「誰かが部屋でとある本を読んでいる。本の中の人物はてくてくと歩き、とある部屋にたどりつく。ドアをあけると、机の前で本を読んでいる自分の後頭部が見える。そんな話がフリオ・コルタサルにはあるのだという」

 「現実の存在」と「叙述上の存在」が対等で、コミュニケーションも可能な宇宙。そこではメタフィクション構造を物理学で扱うことになる。著者らしさ全開の奇想SF。

『コヴハイズ』(チャイナ・ミエヴィル)

 「月明かりだけが照らしだしたもの。巨大なタワー。大梁のはりめぐらされた尖塔。それが水面に浮かび上がり、進んでくるのだ」

 ダニッチ村の近く、月に照らし出された浜辺に、深海に沈んだはずの巨大石油掘削プラットフォームが歩いて上陸してくる。その目的は何か。

 ここまで突き抜け切ったバカ設定も凄いのですが、それを大真面目な筆致で書いてしまうところがまた何ともいえない怪作。

『小さな供物』(パオロ・バチガルピ)

 「なんでもない。毒にまみれた食物連鎖の頂点に立ちながら、出産を望む女性たち。その脂肪細胞を洗浄した廃液の袋」

 環境汚染により奇形や重度障害を抱えた子供ばかりが生まれるようになった時代。その対策として開発された生殖技術が、妊婦たちに厳しい倫理的葛藤を突きつける。

 アイデアはさほど非凡ではありませんが(確か同じアイデアで津原泰水さんが書いており、しかもそちらの方がより先鋭的だった)、『第六ポンプ』と読み比べることで奥行きが増してくる佳作だと思います。

『Hollow Vision』(長谷敏司)

 「変遷してゆく脅威の中、彼らは環境を変えてゆくことで、生きる場所を広げた。その取っかかりは、かたちのデザインだ」

 軌道上のプラットフォームから強奪された液体コンピュータ。高度AI拡散危機を未然に防止すべく、それを追うIAIA(国際人工知能機構)のエージェント。

 『BEATLESS』とおそらく同じ背景世界で、宇宙活劇が展開します。ラストに登場するカーボンナノチューブ繊維を応用した「兵器」、その使い方がビジュアル的に素晴らしい。

『ドラゴンスレイヤー』(草上仁)

 「かつては尊敬を集めていたドラゴンスレイヤーという職種が、脅しを主たる口舌技術としたセールスマンに堕しているのもまた、無理からぬことと言える。今や、ドラゴンスレイヤーは職人ではなく営業マンだという所長の言葉のほうが間違いなく真実なのだ」

 現代に生きるドラゴンスレイヤーたち。しかしその実態は、悪質なシロアリ駆除業者のセールスマンのようになっていた。職人気質の主人公はそんな風潮に馴染むことが出来ず、営業成績は最低だったが・・・。

 いかにも作者らしい、サラリーマンはつらいよSF。

『霧に橋を架けた男<後篇>』(キジ・ジョンスン)

 「いつかはこのケーブルはもろくなるし、この石は落下するでしょう。--でも霧を渡る夢、つながるという夢はなくならない」

 腐食性で、底がどうなっているかは誰にも分からない、広大な帝国を二分する霧の大河。霧に浮かぶ渡し船、そして深霧に潜む巨大な怪物。一人の建築技師がこの危険極まりない霧を横断する橋の建造に取りかかった。度重なる悲劇を乗り越え、ついに橋の完成のときが近づく。だがそれは、いつしか愛するようになった女性との別れを意味していた・・・。

 「霧の大河」という設定がとても魅力的な土木建築SF、というか異世界ファンタジー。予想通りの展開なので、話の意外性やSF的飛躍を期待した読者はがっかりかも知れませんが、手堅くきっちりまとまった好編です。いい感じ。

[掲載作品]

『コルタサル・パス』(円城塔)
『コヴハイズ』(チャイナ・ミエヴィル)
『小さな供物』(パオロ・バチガルピ)
『Hollow Vision』(長谷敏司)
『ドラゴンスレイヤー』(草上仁)
『霧に橋を架けた男<後篇>』(キジ・ジョンスン)


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『「カルト宗教」取材したらこうだった』(藤倉善郎) [読書(教養)]

 「おかしな集団を、おかしな世の中が拒絶する。だからおかしな集団の人々は、閉じられた仲間内の世界に引きこもっていく」(新書p.34)

 自己啓発セミナー、パナウェーブ研究所、ライフスペース、ラエリアン・ムーブメント、統一教会、幸福の科学、そしてオウム真理教。潜入取材から法的バトルまで、「やや日刊カルト新聞」の主催者がカルト集団とされるグループを取材した体験を赤裸々に明かす一冊。新書版(宝島社)出版は、2012年08月です。

 トンデモない教義を掲げ、ワケの分からない活動をする「おかしな集団」。しかしその非常識さを軽く笑い飛ばしてしまう態度は危険かも知れません。

 「人々を笑わせてくれる宗教団体は、それと反比例するかのように、常識と良識と羞恥心を失っている。だからこそ、その裏では常識では予想できない被害が生まれる。(中略)その社会性のなさが常に「笑えること」だけに向かうなどということは、現実的にありえない。」(新書p.40)

 「宗教団体が素人目に見ても「面白い」ということは、一種の危険信号だ。笑いの裏に笑えない被害が存在しないかどうか、注意深く観察する必要がある。その第一歩として、私たちを笑わせる宗教に対して、しっかり笑ってあげたほうがいい。少なくとも、見て見ぬふりをしたり、全く知らないままでいたりするより、はるかにいいと思う」(新書p.40)

 と釘を刺した上で、どちらかといえば被害や悪行を暴き立てるという方向ではなく、割とトホホで情けない側面を中心に書いてゆきます。自ら切り込んでゆく体当たり取材が印象的。

 例えば、フリーセックスや乱交の噂が絶えないラエリアン・ムーブメントの合宿に潜入取材した著者。

 「私や私の同部屋の信者たちは、そこまで積極的になれず、男同士で寄り集まって嫉妬混じりに愚痴を言い合っていた。世俗でモテない男は、セックス教団に入っても、やっぱりモテないまま、群れるしかないのか」(新書p.56)

 そりゃそうだわ。宇宙人もそこまで面倒みてくれません。

 パナウェーブ研究所の白装束キャラバン隊へ突撃取材を試みて抗議されたが、抗議の対象は取材ではなくて駐車位置だったというエピソード。

 「ここに自動車を止められると、電波が反射して会長を攻撃してしまうんです」(新書p.94)

 自己啓発セミナー「ホームオブハート」が告訴されたとき、法廷に乗り込んでいって傍聴席からツィッターで生中継した著者。

 「証人はそれでもお構いなしで、しまいには被害者側弁護士に向かって「あなたにあたしの何がわかるの!」と叫び、ヒステリーのような状態になってしまった」(新書版p.103)

 「幸福の科学」の選挙運動への取材も力が入っています。

 「会見で発表された参院廃止等々の政策のいくつかは、龍馬の霊が提言したものだった。龍馬はほかにも「自衛隊を廃止して宇宙戦艦ヤマトを建造せよ」といったアドバイスもしている」(新書p.150)

 「私はあるとき、「幸福実現党が坂本龍馬を応援団長に就任させた」と発言したことがある。これに対して、幸福の科学関係者がやんわりと、こう言ってきた。「坂本龍馬先生は、幸福実現党が応援団長に就任“させた”のではありません。坂本龍馬先生自らが応援団長を買って出て下さったのです」(新書p.151)

 統一教会による断食デモの取材では、仲間と共にこんな行動に出たり。

 「「白い旅団」をもじって、私たちは「面白い旅団」というパロディ団体を結成。文春前で断食デモを行っている統一教会信者たちの前に立った。「私たちは、断食という行為に対して強く抗議します。みなさんが断食をやめるまで、私たちは命をかけて暴飲暴食を繰り返す決意です。止めても無駄です。(中略)彼らの目の前でメッコールを一気飲みしまくり、松屋の牛丼やキムチを頬張り、デザートにプリンを食べた」(新書p.159、160)

 少なくとも社会性や常識の欠如という点ではどっちもどっちかと。しかも、信者から拍手されたり、「断食より暴飲暴食の方が身体に悪いんじゃない?」(新書p.161)と気づかわれたり。

 他にも、元「オウム真理教」上祐史浩氏へのインタビュー、「幸福の科学」大川隆法氏の出生地の取材など、色々なネタが詰まっています。

 もちろん笑える話ばかりではなくて、カルト集団の危険性を告発してきたライターとしての体験、法律問題、大手マスコミの問題についても書かれています。

 「表現者の権利を守るはずの著作権法は、カルト的団体の手にかかると、批判的な人々の報道の自由や表現の自由を脅かす凶器にもなるのだ」(新書p.210)

 「雑誌記者やフリーランサーが入れない場所で、記者クラブメディアは国民に知らせないまま多くの情報を右から左に捨て、またあるときは、知り得た事実と違うことを世間に向けて垂れ流す。捨てられ、歪められる情報の中に、カルト問題に関する情報も含まれている」(新書p.243)

 というわけで、深刻な問題提起から笑えるネタ話まで、カルトをめぐる様々な話題が詰まった一冊です。すべて著者自身の取材体験にもとづいているので迫力があります。カルト的な性格を持つ団体について、ある程度の知識を持っておきたい方にお勧めします。


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『ロズウェルの聖杯』(超常同人誌『Spファイル』10号掲載作品)を公開 [その他]

 馬場秀和アーカイブに、超常同人誌『Spファイル』10号掲載作品『ロズウェルの聖杯』を追加しました。

馬場秀和アーカイブ
http://www.aa.cyberhome.ne.jp/~babahide/bbarchive/

なお、『Spファイル』10号については、2012年08月07日の日記を参照して下さい。
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2012-08-07

 これで10号に関する作業は全て終了です。

タグ:同人誌
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