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『SFマガジン2013年4月号 「ベストSF2012」上位作家競作』(パオロ・バチガルピ) [読書(SF)]

 SFマガジン2013年4月号は、『SFが読みたい! 2013年版』で発表された「ベストSF2012」において上位ランクインした作者の短篇を4篇も掲載してくれました。また、あわせて草上仁さんの短篇、および先月号に<前篇>が掲載されたキジ・ジョンスンの中篇『霧に橋を架けた男』の後篇も掲載されました。

『コルタサル・パス』(円城塔)

 「誰かが部屋でとある本を読んでいる。本の中の人物はてくてくと歩き、とある部屋にたどりつく。ドアをあけると、机の前で本を読んでいる自分の後頭部が見える。そんな話がフリオ・コルタサルにはあるのだという」

 「現実の存在」と「叙述上の存在」が対等で、コミュニケーションも可能な宇宙。そこではメタフィクション構造を物理学で扱うことになる。著者らしさ全開の奇想SF。

『コヴハイズ』(チャイナ・ミエヴィル)

 「月明かりだけが照らしだしたもの。巨大なタワー。大梁のはりめぐらされた尖塔。それが水面に浮かび上がり、進んでくるのだ」

 ダニッチ村の近く、月に照らし出された浜辺に、深海に沈んだはずの巨大石油掘削プラットフォームが歩いて上陸してくる。その目的は何か。

 ここまで突き抜け切ったバカ設定も凄いのですが、それを大真面目な筆致で書いてしまうところがまた何ともいえない怪作。

『小さな供物』(パオロ・バチガルピ)

 「なんでもない。毒にまみれた食物連鎖の頂点に立ちながら、出産を望む女性たち。その脂肪細胞を洗浄した廃液の袋」

 環境汚染により奇形や重度障害を抱えた子供ばかりが生まれるようになった時代。その対策として開発された生殖技術が、妊婦たちに厳しい倫理的葛藤を突きつける。

 アイデアはさほど非凡ではありませんが(確か同じアイデアで津原泰水さんが書いており、しかもそちらの方がより先鋭的だった)、『第六ポンプ』と読み比べることで奥行きが増してくる佳作だと思います。

『Hollow Vision』(長谷敏司)

 「変遷してゆく脅威の中、彼らは環境を変えてゆくことで、生きる場所を広げた。その取っかかりは、かたちのデザインだ」

 軌道上のプラットフォームから強奪された液体コンピュータ。高度AI拡散危機を未然に防止すべく、それを追うIAIA(国際人工知能機構)のエージェント。

 『BEATLESS』とおそらく同じ背景世界で、宇宙活劇が展開します。ラストに登場するカーボンナノチューブ繊維を応用した「兵器」、その使い方がビジュアル的に素晴らしい。

『ドラゴンスレイヤー』(草上仁)

 「かつては尊敬を集めていたドラゴンスレイヤーという職種が、脅しを主たる口舌技術としたセールスマンに堕しているのもまた、無理からぬことと言える。今や、ドラゴンスレイヤーは職人ではなく営業マンだという所長の言葉のほうが間違いなく真実なのだ」

 現代に生きるドラゴンスレイヤーたち。しかしその実態は、悪質なシロアリ駆除業者のセールスマンのようになっていた。職人気質の主人公はそんな風潮に馴染むことが出来ず、営業成績は最低だったが・・・。

 いかにも作者らしい、サラリーマンはつらいよSF。

『霧に橋を架けた男<後篇>』(キジ・ジョンスン)

 「いつかはこのケーブルはもろくなるし、この石は落下するでしょう。--でも霧を渡る夢、つながるという夢はなくならない」

 腐食性で、底がどうなっているかは誰にも分からない、広大な帝国を二分する霧の大河。霧に浮かぶ渡し船、そして深霧に潜む巨大な怪物。一人の建築技師がこの危険極まりない霧を横断する橋の建造に取りかかった。度重なる悲劇を乗り越え、ついに橋の完成のときが近づく。だがそれは、いつしか愛するようになった女性との別れを意味していた・・・。

 「霧の大河」という設定がとても魅力的な土木建築SF、というか異世界ファンタジー。予想通りの展開なので、話の意外性やSF的飛躍を期待した読者はがっかりかも知れませんが、手堅くきっちりまとまった好編です。いい感じ。

[掲載作品]

『コルタサル・パス』(円城塔)
『コヴハイズ』(チャイナ・ミエヴィル)
『小さな供物』(パオロ・バチガルピ)
『Hollow Vision』(長谷敏司)
『ドラゴンスレイヤー』(草上仁)
『霧に橋を架けた男<後篇>』(キジ・ジョンスン)


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