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『「カルト宗教」取材したらこうだった』(藤倉善郎) [読書(教養)]

 「おかしな集団を、おかしな世の中が拒絶する。だからおかしな集団の人々は、閉じられた仲間内の世界に引きこもっていく」(新書p.34)

 自己啓発セミナー、パナウェーブ研究所、ライフスペース、ラエリアン・ムーブメント、統一教会、幸福の科学、そしてオウム真理教。潜入取材から法的バトルまで、「やや日刊カルト新聞」の主催者がカルト集団とされるグループを取材した体験を赤裸々に明かす一冊。新書版(宝島社)出版は、2012年08月です。

 トンデモない教義を掲げ、ワケの分からない活動をする「おかしな集団」。しかしその非常識さを軽く笑い飛ばしてしまう態度は危険かも知れません。

 「人々を笑わせてくれる宗教団体は、それと反比例するかのように、常識と良識と羞恥心を失っている。だからこそ、その裏では常識では予想できない被害が生まれる。(中略)その社会性のなさが常に「笑えること」だけに向かうなどということは、現実的にありえない。」(新書p.40)

 「宗教団体が素人目に見ても「面白い」ということは、一種の危険信号だ。笑いの裏に笑えない被害が存在しないかどうか、注意深く観察する必要がある。その第一歩として、私たちを笑わせる宗教に対して、しっかり笑ってあげたほうがいい。少なくとも、見て見ぬふりをしたり、全く知らないままでいたりするより、はるかにいいと思う」(新書p.40)

 と釘を刺した上で、どちらかといえば被害や悪行を暴き立てるという方向ではなく、割とトホホで情けない側面を中心に書いてゆきます。自ら切り込んでゆく体当たり取材が印象的。

 例えば、フリーセックスや乱交の噂が絶えないラエリアン・ムーブメントの合宿に潜入取材した著者。

 「私や私の同部屋の信者たちは、そこまで積極的になれず、男同士で寄り集まって嫉妬混じりに愚痴を言い合っていた。世俗でモテない男は、セックス教団に入っても、やっぱりモテないまま、群れるしかないのか」(新書p.56)

 そりゃそうだわ。宇宙人もそこまで面倒みてくれません。

 パナウェーブ研究所の白装束キャラバン隊へ突撃取材を試みて抗議されたが、抗議の対象は取材ではなくて駐車位置だったというエピソード。

 「ここに自動車を止められると、電波が反射して会長を攻撃してしまうんです」(新書p.94)

 自己啓発セミナー「ホームオブハート」が告訴されたとき、法廷に乗り込んでいって傍聴席からツィッターで生中継した著者。

 「証人はそれでもお構いなしで、しまいには被害者側弁護士に向かって「あなたにあたしの何がわかるの!」と叫び、ヒステリーのような状態になってしまった」(新書版p.103)

 「幸福の科学」の選挙運動への取材も力が入っています。

 「会見で発表された参院廃止等々の政策のいくつかは、龍馬の霊が提言したものだった。龍馬はほかにも「自衛隊を廃止して宇宙戦艦ヤマトを建造せよ」といったアドバイスもしている」(新書p.150)

 「私はあるとき、「幸福実現党が坂本龍馬を応援団長に就任させた」と発言したことがある。これに対して、幸福の科学関係者がやんわりと、こう言ってきた。「坂本龍馬先生は、幸福実現党が応援団長に就任“させた”のではありません。坂本龍馬先生自らが応援団長を買って出て下さったのです」(新書p.151)

 統一教会による断食デモの取材では、仲間と共にこんな行動に出たり。

 「「白い旅団」をもじって、私たちは「面白い旅団」というパロディ団体を結成。文春前で断食デモを行っている統一教会信者たちの前に立った。「私たちは、断食という行為に対して強く抗議します。みなさんが断食をやめるまで、私たちは命をかけて暴飲暴食を繰り返す決意です。止めても無駄です。(中略)彼らの目の前でメッコールを一気飲みしまくり、松屋の牛丼やキムチを頬張り、デザートにプリンを食べた」(新書p.159、160)

 少なくとも社会性や常識の欠如という点ではどっちもどっちかと。しかも、信者から拍手されたり、「断食より暴飲暴食の方が身体に悪いんじゃない?」(新書p.161)と気づかわれたり。

 他にも、元「オウム真理教」上祐史浩氏へのインタビュー、「幸福の科学」大川隆法氏の出生地の取材など、色々なネタが詰まっています。

 もちろん笑える話ばかりではなくて、カルト集団の危険性を告発してきたライターとしての体験、法律問題、大手マスコミの問題についても書かれています。

 「表現者の権利を守るはずの著作権法は、カルト的団体の手にかかると、批判的な人々の報道の自由や表現の自由を脅かす凶器にもなるのだ」(新書p.210)

 「雑誌記者やフリーランサーが入れない場所で、記者クラブメディアは国民に知らせないまま多くの情報を右から左に捨て、またあるときは、知り得た事実と違うことを世間に向けて垂れ流す。捨てられ、歪められる情報の中に、カルト問題に関する情報も含まれている」(新書p.243)

 というわけで、深刻な問題提起から笑えるネタ話まで、カルトをめぐる様々な話題が詰まった一冊です。すべて著者自身の取材体験にもとづいているので迫力があります。カルト的な性格を持つ団体について、ある程度の知識を持っておきたい方にお勧めします。


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