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『新しい超伝導入門』(山路達也) [読書(サイエンス)]

 「ケーブルや加速器、モーター、エレクトロニクスなど、日本はさまざまな分野の超伝導技術について世界でもトップクラスに位置しているのです」(Kindle版 No.31)

 電気抵抗がゼロになり、強力な磁場を作ることもできる「超伝導」。この魔法のような現象を応用した技術の実用化が着々と進行している。超伝導技術の実用化について最新情報を紹介した本が電子書籍化されたので、Kindle Paperwhiteという電子書籍リーダーで読んでみました。単行本(PHP研究所)出版は2013年1月、電子書籍版出版は2012年2月です。

 いよいよ超伝導送電の実用化が迫っています。リニアモーターカーの実用化も近いし、医療分野では既にMRIなどの機器に超伝導技術が使われています。本書はこうした超伝導技術の応用分野を幅広く紹介してくれる一冊です。

 全体は6つの章から構成されています。

 まず最初の「第一章 超伝導とは何だろう?」および「第二章 低温超伝導から高温超伝導へ」では、超伝導現象の発見から、高温超伝導の発見ラッシュまでの流れを解説してくれます。

 「金属リングを作ったオンネスは、2年間に亘って磁場が減衰しないかどうかを入念にチェックしました。そうしたところ、磁場にはまったく変化が見られませんでした。これによりリングを流れる電流もまったく減衰していないことが立証され、電気抵抗がゼロ状態であることが確認されたのです。(中略)納得のゆく説明が生み出されるためには、オンネスが超伝導を発見してから約40年の時間が必要でした」(Kindle版 No.227、382)

 「ビスマス系超伝導線材が実用化されるまでには、20年以上の年月が必要でした」(Kindle版 No.588)

 超伝導を「確認」するためだけに2年かけたという慎重さに驚かされますが、それほど信じがたい現象だったわけです。そしてその説明が出来るようになるまでさらに40年。ケーブルを作るのに20年。苦難の道のりです。

 「液体窒素で作ることのできる酸化物高温超伝導体の発見は、超伝導の研究を一部の専門家のものから解放し、多くの研究者が参入できる道を開きました。そしてこれ以降、高温超伝導体の開発競争が始まります」(Kindle版 No.490)
 
 「今のところ高温超伝導が起こるメカニズムは、完全には理論的に解明されていません。(中略)今後、高温超伝導が解明されると、室温超伝導が実現する可能性があるといえます」(Kindle版 No.517)

 こうして、「鉄系超伝導体の中には、お酒に浸して70度程度に加熱して一晩おくと、翌日には超伝導体になるものがあることがわかっています」(Kindle版 No.550)というところまで進んだ超伝導素材の研究。

 そして、いよいよ「第三章 エネルギー問題解決のために-超伝導送電」から、応用、実用化の話題へと進みます。まずは超伝導送電。

 「超伝導送電の実用化に向けて、1つのマイルストーンとなるのが、2012年10月29日に横浜市鶴見区で開始された送電実験です」(Kindle版 No.666)

 「今回の実験の意味は「実系統」への接続が行われている点にあります。実系統とは、実際に家庭や企業、工場などに送電するための電力網を指し、この変電所からは約5万世帯に送電されています。実系統に超伝導送電設備が接続されたのは、日本では初めてのことになります」(Kindle版 No.666、671)

 さらには電力損失をゼロに出来る超伝導直流送電、太陽電池と組み合わせた自然エネルギー発送電システムなどの最新展望が語られます。

 「第四章 リニアモーターカー、電車、自動車」では、交通機関への超伝導技術の応用が紹介されます。

 数年後の開通が予定されているリニアモーターカーの技術、鉄道の直流送電の超伝導化、船舶用モーターや電気自動車への応用、さらには磁気浮上を応用した非接触型の超伝導フライホイール、浮上型輸送装置。電力損失がゼロである、強力な磁場を作れる、という特製を活かした夢の技術が次々と考案されていることがよく分かります。

 「第五章 医療分野では、かなり実用化がすすんでいる!」では、モバイルMRIや、「マンション2戸分で済む」超小型の重粒子加速器、投入した薬剤を患部に誘導するドラッグデリバリー技術など、医療分野で使われている超伝導技術を紹介。

 「第六章 エレクトロニクス分野の進歩」では、超高感度の磁気センサー(超伝導量子干渉素子「SQUID」)、そしてシリコン半導体の限界を超えることが出来る超伝導ジョセフソン素子などが解説されます。

 何となく基礎研究(高温超伝導素材さがし)のイメージが強い超伝導が、これほどまでに広い領域で実用化されつつあるというのは初めて知りました。また、多くの分野で日本の技術が今のところ最先端を走っているというのも心強い限り。超伝導の応用分野について、その全体象を知っておきたいという方にぴったりの一般向け解説書です。


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