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『患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2012年版』(日本乳癌学会) [読書(教養)]

 「現在、乳がん治療に関する情報は、本や雑誌、インターネット、新聞やTVで氾濫していますが、正確なものや間違ったものなどが玉石混淆の状態です。まずは、ガイドラインに基づく標準治療をきちんと押えておくことが大切です。自分の治療の段階に応じて、この「患者さんののための乳がん診療ガイドライン」を熟読することをお勧めします」(単行本p.158)

 治療方法の選択から心の整理まで、乳がん患者とその家族が必要としているエビデンスに基づいた正しい情報を提供するガイドブック。単行本(金原出版)出版は、2012年06月です。

 個人的な話で申し訳ありませんが、私の配偶者が乳がん治療を開始してからほぼ5年が経過しました。今のところ転移・再発の兆しはありませんが、油断は出来ません。乳がんの場合、5年経過したらもう安心というわけではないからです。じりじりとした不安が続く毎日を過ごすときに最も必要になるのは、とにかく正しい知識。

 というわけで、本書は「患者さんが乳がん診療を通じてよく抱く疑問をアンケートで集め、その中から厳選した66個の質問に対して、医療者向けのガイドラインを作成したメンバーが、その内容をもとに回答を作成」(単行本p.xii)した一冊です。

 診療ガイドラインをベースに、徹底的に患者の立場で書かれています。実際にアンケートで寄せられた質問に対して、予防、診断、初期治療、転移・再発、療養生活、という具合に治療ステージ毎に分類して回答してくれます。項目はこんな感じ。

・生活習慣と乳がん発症リスク(肥満、飲酒、健康食品、乳製品、喫煙、夜間勤務、運動、ストレス、避妊薬、乳がんの遺伝)

・乳がん診断(自覚症状、各種検査、標準治療、セカンドオピニオン、臨床試験)および初期治療(治療費、手術の流れ、乳房温存療法、後遺症、リハビリ、乳房再建、病理検査)

・乳がん治療(放射線療法、化学療法、ホルモン療法、経過観察、腫瘍マーカー)と転移再発(考え方、気持ちの整理、局所再発、骨転移、脳転移)

・療養生活(不安への対処、肥満、飲酒、喫煙、運動、心理社会学的要因、家族との向き合い方、医療者とのコミュニケーション、うつ病の併発、緩和ケア、痛み止め、高額療養費制度、代替医療)

・若年性乳がん(妊娠、出産)

 読めば分かる通り、臨床試験(ランダム化比較試験)などのエビデンス(客観的な根拠)に基づいた情報を総合して、現時点で正確で最善だと専門家の合意が得られた内容が書かれています。

 「乳がんの分野では数多くの臨床試験が全世界で行われており、毎年国内外で開催される学会で多くの研究結果が報告されています。これらの最新情報をもとに専門家が集まって討議し、その時点で最善であるとコンセンサス(合意)の得られた治療法が標準医療となります。そしてそれらの合意事項をまとめたものがガイドライン(治療指針)です」(単行本p.40)

 「この「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」も、日本乳癌学会のガイドライン作成に従事した専門家と看護師、薬剤師、患者会の代表の方が集まり、最新情報をもとに標準治療をわかりやすく解説するために編集したものです」(単行本p.40)

 分からないものは、分からない、今のところ証拠がない、現時点で確定した結論はない、と明記してあるのも心強い。「自分が知らないだけではないか、不勉強なせいで(あるいは医師の怠慢で)後で後悔することになりはしないか」といった不安を払拭してくれるからです。

 なお、本書の2006年版について、以前に日記で紹介したことがあります。

  2008年10月14日の日記:『乳がん診療ガイドラインの解説(2006年版)』(日本乳癌学会)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2008-10-14

 2006年版と比べてもページ数が大幅に増え、内容もさらに充実しています。解説はより詳細かつ具体的になり、治療費、性生活、医師との話し合いの方法、心や家族の問題など、患者にとって切実な疑問も追加されています。もちろん新しい知見も含まれていますので、すでに2006年版をお持ちの方も、改めて2012年版を手に入れることをお勧めします。


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