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『実録! あるこーる白書』(西原理恵子、吾妻ひでお、月乃光司) [読書(教養)]

 「『日本で一番有名な生きているアル中マンガ家』吾妻ひでおさんと『日本で一番有名なアル中の家族』西原理恵子さんとの赤裸々な座談はいかがだったでしょうか?(中略)本書は、そんな病気としてのアルコール依存症の理解を進める最終秘密兵器のような価値があるとにらんでいます」(単行本p.228、229)

 『失踪日記』と『おサケについてのまじめな話』の作者が、アルコール依存症について自らの体験に基づいて赤裸々に語り合った一冊。単行本(徳間書店)出版は、2013年03月です。

 吾妻ひでおさんと西原理恵子さんという「意外にも、本日が初対面になるという」(単行本p.15)二人。実は意外なつながりが。

 吾妻 「結果的に入院したのは、三鷹にある長谷川病院ってところだけど」
 西原 「ハイ、うちの鴨志田(穣)も長谷川、後輩です」
  (単行本p.45)

 吾妻ひでおさんと、西原理恵子さんの元夫が、アルコール依存症の治療のために入院させられた病院が同じだったというわけ。ここは意気投合するところなのか、微妙。

 吾妻 「胃が酒も受け付けなくなって、飲んでは吐くを繰り返していたよ。そうなるともういくら飲んでも眠れない。一晩中、街をフラフラさまようことが多くなったね。(中略)つねに酩酊状態でいたいので、いつでもポケットに100円の鬼ころしを入れて、それをストローでチューチュー吸いながら歩いてた」
  (単行本p.42、43)

 吾妻 「アル中に関する本も図書館で借りていろいろ読んでた。(中略)ただ、「アル中だから治そう」と思って勉強していたわけじゃあなくて、なるべくずっと酒を飲んでいられるように、どうすれば現状維持できるかと考えていたね。とにかく飲み続けていたかったんだ」
  (単行本p.44)

 などと吾妻さんがアルコール依存症体験を生々しく語り、次に西原さんが患者の家族としてどれほどの地獄を見たかを語ります。ここには書きませんが、詳しくは『西原理恵子×月乃光司の おサケについてのまじめな話』をご覧ください。

  2010年07月06日の日記:『おサケについてのまじめな話』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2010-07-06

 西原さんの凄惨な体験にたじろいで、思わず「アル中側の人間として」守りに入ってしまう男二人。

 月乃 「西原さんには申しわけないって言うしかないんですけど。家族は被害者ですからね。ただ。ちょっとだけつぶやかせていただけたら「本人も辛いことは辛いんですよ」と」

 吾妻 「分かってくれとは言わないが・・・・・・」
  (単行本p.55)

 もちろん容赦してくれる西原さんではなく、さらに追い詰められる男二人。

 吾妻 「ほんと俺と月乃さんは、どの面下げて聞いていればいいのかな」

 月乃 「そうですね」
  (単行本p.57)

 罵倒を続ける西原さんに、こそっと抵抗してみたり。

 吾妻 「でも、断酒して十何年経ってる人ですよ。「もう許してあげれば」と思うんですけど」

 西原 「だって謝らないじゃないですか。謝んないもん。全然(笑)」
(中略)
 吾妻 「そうでしたか、分かりました。申しわけありません」

 西原 「吾妻さん奥さんに謝ったんですか?」

 吾妻 「謝ってません(笑)」
  (単行本p.185、186)

 駄目じゃん。

 それにしても、これだけ悲惨な体験をしながら、「自分でかれが戻ってきたこと、治せたこと、人としてかれを見送れたことが、本当に一生の財産だって思えます」と言ってしまう西原さんの度量ときたら。

 話題は、入院治療の実態や、患者同士の自助グループの内幕など、さらにディープな方向に進んでゆきます。善意と思いやりでアルコール依存患者を悪化させてしまうイネーブラーの話とか、自助グループについて「家族のある人は断酒会を勧めて、独身者はAAを勧める傾向がある(単行本p.175)とか、リハビリ施設であるジャパンマックの話とか、「スリップ」「底付き」などの用語とか。

 本書を読むだけで、アルコール依存症についてかなりの知識を得ることが出来ます。知識があれば「病気」だと分かる、病気だと認識すれば「治療」に向かうことが出来る。そのために啓蒙が必要だと。

 西原 「この病気を世に知らしめることが大事なんだと思います。AIDSみたいに、病気としての身分を上げてやることが絶対必要なんです」
  (単行本p.111)

 西原 「本当に啓蒙活動しかないと思うんです。吾妻さんの『失踪日記』の続篇、みんな読みたがってるから、早くしてくれないと。早く出ればそれだけ死なずにすむ人が増えるかもしれないんだから」

 吾妻 「去年、思い切ってアシスタントやといましたよ。賭けにでました。売れなかったら赤字です」
  (単行本p.196)

 入院体験が詳しく描かれるという、『失踪日記』続篇への期待も高まります。


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