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『決起!』(三崎亜記) [読書(小説・詩)]

 文庫化されたばかりの熱血掃除小説『コロヨシ!!』の続編登場。奥義を極めるべく修行の旅に出る主人公。そして掃除をめぐる国際謀略の姿がついに明らかに。「宿命の対決」の果てに待つものは何か。大真面目な語り口で突拍子もない悪ふざけ、三崎流奇想小説第二弾。単行本(角川書店)出版は2012年1月です。

 というわけで、『失われた町』、『刻まれない明日』と同じ背景世界を舞台にした熱血スポーツ長篇『コロヨシ!!』の続編です。不気味な権力構造や国家統制の影、「西域」「居留地」「異邦郭」など独特の用語により構築された、現実と微妙に重なりつつも異質な「日本」という舞台、過剰なほどの叙情性、といった前作の特徴を残しつつ、さらに派手な展開に。

 かつて大陸からこの国に伝えられ、秘伝を受けた一部の武道家のみが継承してきた暗殺用の武術ともいわれる「掃除」。その負の歴史ゆえに常に国家から統制を受け、関係者には厳しい監視の目が注がれる、忌避されたスポーツ。掃除。

 掃除部に所属する高校生である主人公は、全国大会を目指して練習に余念がない。だが、彼の前に立ちはだかる公安の影、正体不明のライバル、そして挫折。謎の師匠、宿命的パートナーとの出会いを経て成長した主人公は、掃除をめぐる大人たちの思惑や陰謀にくじけることなく掃除道を歩み続け、ついに全国大会への出場を果たすのであった。

 ここまでが前作のあらすじ。詳しくは、2010年03月10日の日記を参照して下さい。

 まるで熱血スポーツ漫画の定番パターンそのものですが、『決起!』もその路線をひた走り、さらにはとんでもない方向に跳躍してゆきます。

 全国大会で好成績を残し世間からの注目を集めた主人公だが、なぜか部活に対する学校からの締めつけが厳しくなり、ついには大会への出場を禁止されてしまう。信頼していた師匠、そしてパートナーも姿を消し、たった一人で掃除と向き合う過酷な日々が彼を待っていた。さらなる高みを目指し、特訓や武者修行を続ける主人公の前に現れたのは、意外な指導者だった。

 次第に姿を現してくる、掃除をめぐる国際規模の謀略。そしてパートナーとの再会。全ての鍵を握るという掃除の秘奥義を手に入れるべく大陸に渡った二人の命運やいかに。かつての師匠、親友、祖父、次々と襲い来る「宿命の対決」を乗り越え、主人公たちは掃除道を極めることが出来るのか。

 えー、基本的に「大真面目な顔をした突拍子もない悪ふざけ」という作者の持ち味がいかんなく発揮された作品です。話もどんどん大仰になってゆき、ついには、一代に一組しか伝承してはならぬとされる禁断の秘奥義、掃除による世界支配をたくらむ邪悪な陰謀、掃除により異次元から召還された幻獣との対決、みたいな少年ジャンプ的展開へと。

 個人的には、地味な熱血スポーツものだった前作の方が好みかな。抑制が効いていて、マジなのかふざけているのか微妙に困惑させられる感じが良かった。今作は悪ノリが過ぎて、ちょっと鼻白むところがあります。

 いずれにせよ癖が強いシリーズなので、未読の方はまずは文庫化された『コロヨシ!! 』(三崎亜記)を先に読んで、その世界観が気に入ったら本作も読む、という順番がよいかと思います。


タグ:三崎亜記
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『猫キャンパス荒神(前篇)(「すばる」2012年3月号掲載)』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

 シリーズ“笙野頼子を読む!”第59回。

 待ちに待った、笙野頼子さんの一年ぶりの新作。正式タイトルは、『神変理層夢経3 猫文学機械品 猫キャンパス荒神』その前篇です。これは序章含め全六部を予定している大作『神変理層夢経』という小説の第三部にあたります。

 ここで復習しておきますと、これまでに発表された『神変理層夢経』は次の通りです。

『猫トイレット荒神(前篇)』
正式タイトル『小説神変理層夢経・序 便所神受難品その前篇 猫トイレット荒神』
2010年7月 「文藝」2010年秋号掲載
序章の前篇

『猫ダンジョン荒神(前篇)』
正式タイトル『小説神変理層夢経 猫未来託宣本 猫ダンジョン荒神(前篇)』
2010年8月 「すばる」2010年9月号掲載
第二部の前篇

『猫ダンジョン荒神(後篇)』
正式タイトル『小説神変理層夢経 猫未来託宣本 猫ダンジョン荒神(後篇)』
2010年9月 「すばる」2010年10月号掲載
第二部の後篇

 2010年9月に発表された『新作予定おんたこ今後猫未来未定』(「群像」2010年10月号掲載)において、序章含め六部作になること、第三部のタイトルは『猫ストリート荒神』を予定していること、などが明らかにされました。

『地神ちゃんクイズ』
正式タイトル『小説神変理層夢経・序 便所神受難品その中篇 割り込み託宣小説 地神ちゃんクイズ』
2010年10月 「文藝」2010年冬号掲載
序章の中篇

『一番美しい女神の部屋』
正式タイトル『小説神変理層夢経・序 便所神受難品 完結篇 一番美しい女神の部屋』
2011年1月 「文藝」2011年春号掲載
序章の後篇

 この、『一番美しい女神の部屋』の、あまりにも「天国」的なクライマックス、様々な神の声がポリフォニー的に響きわたるなか、さりげなく書かれている

「九月十七日自宅にて、飼い主の膝の上で。」
(「文藝」2011年春号 p.245)

という言葉。

 ずっとドーラ(作者の愛猫、というより伴侶。作中では「ドラ」)の老猫介護について書き続けてきた小説に、目立たないようにそっと置かれたその「声」に慄然とした読者も多いことでしょう。私も不安でいっぱいになりました。作者は大丈夫だろうか。それでも書き続けられるのだろうか。

 そして、襲ってきた大震災。

 生存確認と思しき短い随筆を発表した後、長いこと休筆が続きます。こちらとしては、それこそ祈るような気持ちで「託宣」を待ち続けたのでした。

 一年の休筆期間を経て、ようやく新作が発表されました。それが本作、『神変理層夢経3 猫文学機械品 猫キャンパス荒神』その前篇というわけです。予告されていたタイトルから変更されました。

 「心は一枚の紙のようになった。それでも私の言葉は動き続けている」
(「すばる」2012年3月号p.68)

 冒頭から泣ける。泣けます。同時に、読む覚悟を求められます。

 書くということ、降ってくる多数の神々の声を「アレンジメント」することについて。

 続いて、小説内小説の形で「荒神様」の解説が入り、これまでの作品を巻き込んでゆきます。

 まず前作『人の道御三神といろはにブロガーズ』とリンクされます。これまで漠然と「親子」としか書かれていなかった、人の道御三神と荒神様の関係をかなり詳しく説明。にに。

 続いて、『S倉迷妄通信』以降の作品が次々と習合してゆきます。スクナヒコナに祈っていたときも、金毘羅になったときも、萌神に助けられたときも、海底から大精霊がやってきたときも、いつも見守っていた荒神様。(基本的に見守るだけです)

 新作が出る度にこれまでの作品がごっそり習合してくることで、すべてひっくるめて一つの作品として成長してゆく、というのは読者にとってはお馴染みの現象なんですが、今回はかなり大規模。要刮目です。

 『神変理層夢経』の序章と第二部まで到達したところで小説内小説は終わり、続きは沢野千本の「声」に引き継がれることに。

 ドラの死、論敵(というか単なるストーカー)の粘着、そして大学院で授業を始めたこと(タイトルが『猫キャンパス荒神』となったのはこのためでしょう)、などが語られます。

 「小説の意図を超えて、声が語るようになる事はどんどん私を乗っ取る」
(「すばる」2012年3月号p.122)

 一人称のゆらぎ、多声法、託宣など、自作についての内省と洞察へと展開してゆくラストは、本作そのものの読書ガイドにもなっています。おかげで、これまで読んでいて混乱していたことが割とすっきりしたようにも。序章から改めて読み直したくなりました。

 全体から感じられるライブ感というか、連載が進むにつれて変化してゆく様が印象的です。全体としては凄絶なほどシリアスなのに、ときどき、リズムとユーモアでどうしても笑ってしまう表現が飛び出してくるのがまた凄い。

 この先どうなってゆくのか。どきどきしながら、とりあえず後篇を待ちます。

 「見知らぬ方々の不幸と彼らへの申し訳なさに心はどうしても占められている。ただ、ごく最近一周忌を目前にして、やはり私は次第に、ごく軽く、気付き始めている。
 記憶は一緒にいる。心も一緒にいる。ずっと変わらない。でもドラはいないと」
(「すばる」2012年3月号p.124)

 最後まで泣けます。


タグ:笙野頼子
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『猫自慢展13』(坂田恵美子) [その他]

 地元、福生の喫茶「アルルカン」でやっている『猫自慢展13』。毎年、この時期に開催される、猫をモチーフとした作品展です。写真、金属細工、陶器、絵画、工芸、その他さまざまな作家による作品が展示されます。今年も知り合いの坂田恵美子さん(マイミクのメイポッチさん)の猫写真を見るために夫婦で行ってきました。(2012年2月4日)

 暖房のきいた店内はいつもの通り落ち着いた雰囲気。『猫自慢展13』がはじまってから最初の土曜日ということもあってか、けっこうお客さんが来ていました。私たちが到着した頃には店内はほぼ満員。坂田さんに挨拶してから、アップルチャイとカフェラッシーなど注文しました。

 坂田さんの猫写真はいつ見ても感心させられます。いわゆる「かわい~っ」という写真はなく、たいてい「ふてぶてしい」面構えの猫が、でん、と存在感たっぷりに写っているのです。光の当たり方によって、ふてぶてしさが「荘厳さ」にも見えてきます。毛皮の下にいる猫性を明るみに出したような。

 絵はがき数点、メモ用紙、そして新作絵本『魔女猫 ピッピ』を購入しました。これは昭和記念公演で撮影した外猫たちの写真および風景写真を並べて「お話」をつけた絵本。「ふてぶてしい」猫たちの多彩な表情を楽しむことが出来ます。

 結局、二時間ほどおしゃべりしてから帰宅しました。今月いっぱい開催されているので、また行ってみるつもりです。

【猫自慢展13】

2012年2月2日(木)~2月29日(水)
月曜定休(13・20)
am11:30~pm7:00

エスニックカフェ アルルカン

東京都福生市加美平1-14-4
電話042-553-4711

 詳しくは坂田さんのブログで確認して下さい。

    しっぽのきもち(2012年02月02日)
    http://blog.livedoor.jp/mei5555/archives/1635302.html


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『カラマーゾフの兄弟(4)』(ドストエフスキー、翻訳:亀山郁夫) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 ついに始まった長男ドミートリーの裁判。圧倒的に不利な状況を、辣腕弁護士は一つ一つ覆してゆく。はたして判決はどう出るか。真相は明らかになるのか・・・。数年前にベストセラーとなった亀山郁夫さんの新訳カラマーゾフ、その第4巻。文庫版(光文社)出版は2007年7月です。

 おそらく世界で最も有名な長篇ミステリ。その第4巻です。全体は四部構成(+エピローグ)となっていますが、その第四部部に当たります。第一部から第三部の感想については、2012年01月13日、2012年01月20日、そして2012年01月27日の日記を、それぞれ参照して下さい。

 たったひとつの真実見抜く、見た目は子供、頭脳は大人。その名は名探偵イワン。というわけで、次男イワン・カラマーゾフが事件の捜査を開始します。というか、こいつ犯人じゃなかったのか。

 第一部が父フヨードル、第二部が三男アリョーシャ、第三部が長男ドミートリーの話だとすると、第四部は次男イワンの話ということになります。

次男イワン:「正直に答えてくれ。誰が犯人だと思う?」
三男アリョーシャ:「てっきりイワン兄さんだと」
次男イワン:「うわわぁーん(泣)」

次男イワン:「正直に答えろ。誰が犯人なんだ?」
料理人スメルジャコフ:「あなた様でございましょう」
次男イワン:「うわわぁーん(泣)」

次男イワン:「何で俺こんなに人望ないんだろう」
読者:「すまん。マジでお前が犯人だと思ってたわ」
次男イワン:「うわわぁーん(泣)」

 捜査を進めるうちに「自分は事件が起きることを無意識レベルでは承知していて、関わり合いにならないためにモスクワに逃げていたのではないか」という疑念が生じ、さらに「自分がモスクワに逃げたからこそ事件が起きたのではないか」と考え始め、ついには「自分は実行犯じゃないというだけで、実質的に主犯なのではないか」という脅迫観念に追い詰められ、次第に狂ってゆく次男イワン。

 さあ、いよいよ文学史上に名高い裁判シーンへと突入です。ここは法廷ミステリとして非常に面白く、どう考えても有罪は免れないだろうという圧倒的な証拠と証言の山を前に、一つ一つ辣腕弁護士が覆してゆく過程は実にスリリング。

次男イワン:「すべて私のせいなんです。ここに決定的証拠が!」
(いきなり発狂してわめき散らし、取り押さえられ退廷)

カテリーナ:「こうなったら全部ぶちまけてやる。ここに決定的証拠が!」
(いきなりヒステリーの発作でぶっ倒れ、担架で運ばれ退廷)

グルーシェニカ:「ふざけんなこの毒蛇女めっ!」
(いきなり錯乱して大暴れ、取り押さえられ退廷)

検事:「この事件の解決にこそロシアの未来がかかっているのです!」
(熱弁のあまり卒倒し、退廷。後に死亡する)

判事:「こうなったら最終ラウンドまでこの場に立っていた者が勝者だ!」

弁護士:「えいどりあーんっ!」

 第一部から第三部までで、密かに、ときに露骨に、周到に張られていた伏線も次々と回収され、ああ、あの謎めかしたシーンはこういう意味だったのか、こういう含みであの会話が行われたのか、きちんと納得させてくれ、気分はすっきり。

 そしてクライマックス。一つの事実から、検事と弁護士がそれぞれ全く異なるストーリーを読み解いてゆきます。何しろDNA鑑定どころか指紋照合すらない時代、結局は「どちらのストーリーにより説得力があるか」で決まるのです。

 長男ドミートリーとはどのような人間なのか。二つの相いれないストーリーは、全く異なる人物像を作り上げてゆきます。どちらにも説得力があり、「真実」を知らされているはずの読者も、次第に混乱してきます。どちらの説を採用するか。それはつまるところ「人とは何か?」という問いに向き合うことなのです。

 そして、ついに「法廷全体が、天と地が逆さになるほどの大騒ぎ」になる判決が出され、事件は幕を下ろします。いよいよ最終巻、エピローグへと続きます。


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『プラスマイナス 132号』 [その他]

 『プラスマイナス』は、詩、短歌、小説、旅行記、身辺雑記など様々な文章を掲載する文芸同人誌です。配偶者が編集メンバーの一人ということで、宣伝を兼ねて最新号をご紹介いたします。

[プラスマイナス132号 目次]

巻頭詩 『肌と復興』(深雪)、イラスト(D.Zon)
短歌 『宇宙温泉51』(内田水果)
詩 『愛について考えてみた』(笠原秋人)
詩 『空に埋める』(島野律子)
詩 『帰国』(琴似景)
詩 『一番欲しいもの』(多亜若)
特集 78号と79号の表紙再掲
        78号表紙より『もうどうでもいいや』(平嶋千恵)
        79号表紙より『13月にあなたと』(希維子)
随筆 『一坪菜園生活 二十』(山崎純)
随筆 『目黒川には鯰が 術後治療編 5』(島野律子)
随筆 『香港映画は面白いぞ 132』(やましたみか)
イラストエッセイ 『脇道の話 71』(D.Zon)
編集後記
「あのときあのひと」 その5 紗綾花


 盛りだくさんで定価300円の『プラスマイナス』、講読などのお問い合わせは以下のページにどうぞ。

目黒川には鯰が
http://shimanoritsuko.blog.so-net.ne.jp/


タグ:同人誌
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