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『カラマーゾフの兄弟(4)』(ドストエフスキー、翻訳:亀山郁夫) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 ついに始まった長男ドミートリーの裁判。圧倒的に不利な状況を、辣腕弁護士は一つ一つ覆してゆく。はたして判決はどう出るか。真相は明らかになるのか・・・。数年前にベストセラーとなった亀山郁夫さんの新訳カラマーゾフ、その第4巻。文庫版(光文社)出版は2007年7月です。

 おそらく世界で最も有名な長篇ミステリ。その第4巻です。全体は四部構成(+エピローグ)となっていますが、その第四部部に当たります。第一部から第三部の感想については、2012年01月13日、2012年01月20日、そして2012年01月27日の日記を、それぞれ参照して下さい。

 たったひとつの真実見抜く、見た目は子供、頭脳は大人。その名は名探偵イワン。というわけで、次男イワン・カラマーゾフが事件の捜査を開始します。というか、こいつ犯人じゃなかったのか。

 第一部が父フヨードル、第二部が三男アリョーシャ、第三部が長男ドミートリーの話だとすると、第四部は次男イワンの話ということになります。

次男イワン:「正直に答えてくれ。誰が犯人だと思う?」
三男アリョーシャ:「てっきりイワン兄さんだと」
次男イワン:「うわわぁーん(泣)」

次男イワン:「正直に答えろ。誰が犯人なんだ?」
料理人スメルジャコフ:「あなた様でございましょう」
次男イワン:「うわわぁーん(泣)」

次男イワン:「何で俺こんなに人望ないんだろう」
読者:「すまん。マジでお前が犯人だと思ってたわ」
次男イワン:「うわわぁーん(泣)」

 捜査を進めるうちに「自分は事件が起きることを無意識レベルでは承知していて、関わり合いにならないためにモスクワに逃げていたのではないか」という疑念が生じ、さらに「自分がモスクワに逃げたからこそ事件が起きたのではないか」と考え始め、ついには「自分は実行犯じゃないというだけで、実質的に主犯なのではないか」という脅迫観念に追い詰められ、次第に狂ってゆく次男イワン。

 さあ、いよいよ文学史上に名高い裁判シーンへと突入です。ここは法廷ミステリとして非常に面白く、どう考えても有罪は免れないだろうという圧倒的な証拠と証言の山を前に、一つ一つ辣腕弁護士が覆してゆく過程は実にスリリング。

次男イワン:「すべて私のせいなんです。ここに決定的証拠が!」
(いきなり発狂してわめき散らし、取り押さえられ退廷)

カテリーナ:「こうなったら全部ぶちまけてやる。ここに決定的証拠が!」
(いきなりヒステリーの発作でぶっ倒れ、担架で運ばれ退廷)

グルーシェニカ:「ふざけんなこの毒蛇女めっ!」
(いきなり錯乱して大暴れ、取り押さえられ退廷)

検事:「この事件の解決にこそロシアの未来がかかっているのです!」
(熱弁のあまり卒倒し、退廷。後に死亡する)

判事:「こうなったら最終ラウンドまでこの場に立っていた者が勝者だ!」

弁護士:「えいどりあーんっ!」

 第一部から第三部までで、密かに、ときに露骨に、周到に張られていた伏線も次々と回収され、ああ、あの謎めかしたシーンはこういう意味だったのか、こういう含みであの会話が行われたのか、きちんと納得させてくれ、気分はすっきり。

 そしてクライマックス。一つの事実から、検事と弁護士がそれぞれ全く異なるストーリーを読み解いてゆきます。何しろDNA鑑定どころか指紋照合すらない時代、結局は「どちらのストーリーにより説得力があるか」で決まるのです。

 長男ドミートリーとはどのような人間なのか。二つの相いれないストーリーは、全く異なる人物像を作り上げてゆきます。どちらにも説得力があり、「真実」を知らされているはずの読者も、次第に混乱してきます。どちらの説を採用するか。それはつまるところ「人とは何か?」という問いに向き合うことなのです。

 そして、ついに「法廷全体が、天と地が逆さになるほどの大騒ぎ」になる判決が出され、事件は幕を下ろします。いよいよ最終巻、エピローグへと続きます。


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