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『カラマーゾフの兄弟(5)』(ドストエフスキー、翻訳:亀山郁夫) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 こうして一つの物語が終わり、主人公アリョーシャは旅立つ。だが彼を待つ運命が明らかにされることはついになかった・・・。数年前にベストセラーとなった亀山郁夫さんの新訳カラマーゾフ、その第5巻。文庫版(光文社)出版は2007年7月です。

 おそらく世界で最も有名な長篇ミステリ。その第5巻です。全体は四部構成(+エピローグ)となっていますが、そのエピローグに当たります。さらに翻訳者による小説全体の「解題」を収録。第一部から第四部の感想については、2012年01月13日、2012年01月20日、2012年01月27日、そして2012年02月03日の日記を、それぞれ参照して下さい。

 事件を通じて精神的に成長したアリョーシャ。リーダーとしての、さらに預言者としての素質までも開花させつつある若者は、聖俗両面で彼を導いてくれたはずの長老と父親をともに失いながら、いまだ見えぬ未来に向かって歩み始める。彼の物語がこれから始まるのだ・・・。[第一作 完]

 長い間、ご愛読ありがとうございました。ドストエフスキー先生の次回作にご期待下さい。

 というわけで、もともと第二作の主人公として活躍するアリョーシャの「若い頃のエピソード」として書かれたという本作。ずっと使いっぱしりをやらされていた彼も、第四部あたりから成長著しく、いよいよ主人公として活躍する準備が整った、というところなんですが、不幸にして作者急逝のため第二作は書かれないままとなってしまいました。

 こうしてかわいそうなアリョーシャ君は、「まだ未熟な、ただのパシリ小坊主」として人々の記憶にしょっぱく留められることになったわけです。幸少なき若者であった。

 この巻には、翻訳者による「ドストエフスキーの生涯」と「年譜」、そして「解題」が収録されています。この長大な小説に仕掛けられた様々な「謎」を掘り起こし、登場人物それぞれに与えられた多面性を浮き彫りにし、表面的なストーリーの背後でどのような物語が展開していたのかを探求してゆきます。

 この「解題」は実にエキサイティングで、ミステリとしては本編より面白いかも知れません。人物造形の掘り下げも面白いのですが、第二作に向けての伏線がどのように張られているかの解読も興味深いものがありました。


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