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『月をマーケティングする アポロ計画と史上最大の広報作戦』(デイヴィッド・ミーアマン・スコット、リチャード・ジュレック、関根光宏:翻訳、波多野理彩子:翻訳) [読書(教養)]

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 アポロ計画は史上最大にして最も重要なマーケティング・PR活動の事例だ。このことは強調されて当然であるにもかかわらず、これまでは、そうした観点からアポロ計画が語られることはなかった。
  (中略)
報道機関の関心が集まらなければ、宇宙事業は莫大な投資にはとても見合うものではない。人類がまだ火星に到達していないのは、つまるところ、火星探索事業のマーケティングが失敗に終わったからだろう。
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Kindle版No.102、263

 巨額の予算を必要とするアポロ計画の実行には、技術だけでなく、国民からの熱狂的な支持が必要不可欠だった。「人類を月に送り込む」というアイデアを納税者たちに途方もない高値で売り込むために行われた史上最大のマーケティングとPR。それは実際にはどのようなものだったのか。単行本(日経BP社)出版は2014年10月、Kindle版配信は2014年11月です。


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私たちがアポロ計画にひきつけられるのは、それが歴史に残る偉業だからというだけではない。政府と産業界と報道機関が、かつてないほど密接に協力しあい、ひとつのチームとして動いて初めて実現した比類なきプロジェクトだからだ。アポロ計画では、延べ40万以上もの人が共通の目標に向かって協力した。
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Kindle版No.133


 これまで主に技術面、ときに組織マネジメントの観点から分析されてきた有人月面着陸計画。しかし、そもそもこれを可能としたのは、一般大衆を宇宙開発に熱狂させるためのマーケティング・PR戦略の力だった。なるほど、言われて見ればその通り。

 本書は、これまであまり注目されてこなかったアポロ計画におけるマーケティング活動について詳しく紹介してくれる本です。


1章 はじまりはフィクション
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 ソ連のスプートニク1号の打ち上げが世界を揺るがし、宇宙時代の幕が開けたとき、アメリカは、自分たちが考えている以上にソ連の挑戦に応じる準備が整っていた。ウォルト・ディズニー、コリアーズ誌、ウェルナー・ファン・ブラウンはそれぞれ、この準備の過程で重要な役割を果たした。宇宙における希望に満ちた未来を描き、それを大衆に示したことによって、宇宙に対する過去のロマンチックな幻想と未来への現実的な考えとを見事に融合させたのである。
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Kindle版No.839

 最初の章では、SFドラマ、テーマパーク、そして雑誌の特集記事によって、宇宙開発や宇宙旅行への夢や憧れが人々の心をつかんでいった過程が語られます。現実の宇宙開発計画がやってきたとき、すでに大衆は充分に熱意をかきたてられていたのです。


2章 NASAのブランドジャーナリズム
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 アメリカの宇宙開発は、情報公開について「開かれた姿勢」を取ることで、秘密主義だったロシアとは明らかに一線を画そうとしていた。理屈としては簡単に思えるが、アメリカ政府、軍、NASA本部、現場の部署、宇宙飛行士や報道機関が、広報についてそれぞれ異なる思惑をもち、しかも、それらが相容れないことも多いなかで、「開かれた姿勢」を実行するのは難しいことだった。
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Kindle版No.1420

 徹底的な情報公開によって、報道機関との信頼関係を構築したNASA。どうしてそんなことが出来たのでしょうか。NASA広報部門とジャーナリストたちの密接な協力関係の背景が語られます。


3章 NASA契約企業の広報活動
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 当然ながら、アポロ計画の契約企業は、月面着陸についての記事に自社のことをできるだけ書いてもらおうと、広報活動をおこなっていた。どの企業も政府機関と新たな契約を結ぶことに必死で、自社とアポロ計画について好意的な記事が出れば、それだけ他社より優位に立てる。そのため各社は、アポロ計画で自社が果たした役割を詳しく説明する、手の込んだ報道資料を作った。
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Kindle版No.1746

 NASAと報道機関に加えて、産業界もそれぞれの思惑に沿ってアポロ計画を全力で支援しました。さらにはNASA内部の組織上の問題解決を民間企業が請け負うなど、産業界と一体化したプロジェクト推進が行われていたのです。「史上最大のマーケティング・PR活動」はNASA広報部だけの成果ではなく、契約企業の幅広い協力ゆえに成功したのです。


4章 全世界が観たアポロのテレビ中継
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私たちは、宇宙でみんなといっしょでした。これがテレビのなせるワザです。宇宙にほかの人たちを連れて行けたのです。
  (中略)
テレビは信じられないほどの力をもっています。それこそがテレビの存在価値です。
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Kindle版No.2307

 人類が初めて月面に足を踏み下ろす瞬間を、全世界の人々がリアルタイムに目撃したのは、画期的な出来事でした。アポロ計画の広報において、テレビ中継は決定的な重要性を持っていました。しかし、当初、技術者たちも宇宙飛行士たちも、宇宙船にテレビカメラを持ち込むことに強行に反対していました。そのとき、NASAの内部でどのような論争が起きていたのでしょうか。


5章 月面着陸の日
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 NASA職員や契約企業の社員、大学教授、そして通信や信号の専門家にいたるまで、アポロ計画にかかわった40万以上の人々には、いずれも創造性を重んじる精神が脈々と息づいていた。
  (中略)
月ミッションは一生に一度しか体験できないものだった。そして、人類と、その人類が住む地球という星の定義を永遠に変えるであろう出来事を取材できる、絶好の機会でもあった。
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Kindle版No.3234

 全世界の人々が固唾をのんで月面着陸を見守っていたそのとき、ニュースを伝える立場の人々は、あらゆる困難と逆境、予想外のアクシデントに果敢に挑んでいました。新聞記者、ニュースキャスター、テレビ局の現場。様々な人物にとって「そのとき」に何が起きていたのでしょうか。


6章 セリブリティとしての宇宙飛行士
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宇宙飛行士に対するそうしたイメージは、NASAの広報部が望みどおりの内容にしていたライフ誌の人物紹介記事によって、さらに強固なものになった。同時にNASAは、宇宙飛行士の誰かひとりでも同僚に比べて見劣りすることのないように気を配り、宇宙飛行士に一致団結したパイロット集団というイメージをもたせるための組織的な取り組みがなされた。
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Kindle版No.3404

 ある意味で月面着陸よりも重要なのは、宇宙飛行士たちのイメージのコントロールでした。彼らは英雄でなければなりません。しかし、実際はどうだったのでしょう。そして、NASA広報部は問題にどのように対処しようとしたのでしょうか。


7章 世界を旅した月の石
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 アポロ計画に対する人々の関心が低下していくのを目のあたりにしたNASA広報部は、ふたたび熱狂を取り戻そうとさまざまな手を打つ一方で、この国が成し遂げた偉業とそれによって得られた科学的な発見を国民に強く意識させようとした。
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Kindle版No.3742

 アポロ11号の月面着陸でピークに達した国民の関心は、その後は次第に下がってゆきました。NASA広報部は何とか関心をつなぎ止めようと、月の石などの標本を世界中の140以上の研究機関に配り、さらに全国巡回展示、大阪万博での展示、などのイベントを仕掛けました。結果はどうだったのでしょうか。


8章 アポロ時代の終焉
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 アポロ計画後の明確なビジョンを打ち出せなかったNASAの失敗は、マーケティングの失敗でもあった。
  (中略)
 一世を風靡した製品がそうであるように、成功が永遠に続く保証はどこにもない。製品のライフサイクルにおいて必然的に人気が下降しはじめたとき、その流れを変えることは、マーケティング担当者にとって何よりも難しい仕事のひとつである。消えゆくブランドを再生させようとして失敗したマーケティング担当者は数えきれないほどいるが、NASAも、アポロ11号の見事な成功のあとに起こった人々の関心の低下を止めることができなかった。
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Kindle版No.4559、4567

 こうしてアポロ計画は当初の予定よりも早く打ち切られ、そしてそれから現在に至るまで誰も月には行っていません。結局、この巨大プロジェクトのマーケティング、広報、PR活動は何を成し遂げたのでしょうか。それは、ただ人が月に行って石を持って帰ってきたというだけのことではありませんでした。


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アポロ計画は世界とテレビの両方を永遠に変えてしまったのだ。アポロから送られてくる生映像や、宇宙の暗闇に浮かぶ地球の写真を見てしまった人類にとって、地球を以前と同じように考えることは不可能だった。
  (中略)
 アポロ計画に携わった人々の情熱は、探求の対象を自分たちの星とする、地球環境や社会的正義に関心のある若い世代へと受け継がれた。NASAのおかげで、彼らは地球の姿を見ることができた。それこそが自分たちの星だった。
  (中略)
 スティーブ・ジョブズやスティーブ・ウォズニアック、ビル・ゲイツをはじめ、私たちの生活や遊びや思考を変えた世代は、アメリカの宇宙計画が最高潮に達し、それに伴い教育や科学やテクノロジーへの投資が増えた時期に成人を迎えた。つまり、先見の明があるデジタル世代はアポロ世代でもあるのだ。
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Kindle版No.2297、4505、4593


 アポロ計画は、結局のところ、すべての人々に「地球」をマーケティングしてのけたのです。その成果は、なかなかどうして、大したものではありませんか。


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