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『増補版 ぐっとくる題名』(ブルボン小林) [読書(教養)]

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 企画書や小説、それ自体の書き方を指南した本はこの世にいくらもあります。だけど、その入り口にして、そのものの顔でもある「題名」を考察した本がない。
(中略)
 どういった題名が心に残るのか。また、心に残る題名には、どのようなテクニックが用いられているのか。僕は真剣に考えてみることにしました。
 その思考の集積がこの本です。
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文庫版p.12、13

 『ゲゲゲの鬼太朗』、『勝訴ストリップ』、『ディグダグ』、『天才えりちゃん金魚を食べた』、『メシ喰うな』。音楽、小説、映画、ゲームなど、さまざまなコンテンツの「題名」だけに注目し、その魅力を分析した一冊。新書版(中央公論新社)出版は2006年9月、増補文庫版出版は2014年10月です。

 内容以前にまず「ぐっとくる」、つかみの強い題名というものがあります。題名力とでも言うのでしょうか。同じ本でも、『ツァラトストラかく語りき』が、新訳で『ツァラトストラはこう言った』になると、題名力に大きな落差を感じませんか。

 本書は、様々なコンテンツの「題名」を取り上げて、その魅力がどこから来るのかを探ってゆく本です。取り上げられているのは、小説、映画、ゲーム、音楽、など様々。ジャンルを軽々と飛び越えて「題名」の面白さだけを追求し、ときに「あんまりすごい題なのでついに一度も中を読まなかった」と言い切ってしまう姿勢には、清々しさすら感じます。

 単にインパクトのある題名を列挙して共感を求めるのではなく、なぜその言葉の並びに人は「ぐっとくる」のか、細かく分析してゆくところがミソ。例えば、『淋しいのはお前だけじゃな』(枡野浩一)という題名について、次のように指摘します。

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 たった一字の省略で、「意味」「テンション」「ムード」「語り手」をすべてずらしてしまった。
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文庫版p.96

 言われてみれば、この、かくんと来る感じの凄さに改めて気づかされます。他にも、『長めのいい部屋』とか『サーキットの娘』なども類似の効果を狙った題名。

 『世界音痴』(穂村弘)については、こう絶賛しています。

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 ほとんどこの題名は、この世に新たな四字熟語を生み出したに等しいパワーがある。
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文庫版p.177

 『現実入門』、「にょっ記』など、穂村弘さんのエッセイ集の題名はいくつか取り上げられています。

 『幸せではないが、もういい』、『三人ガリデブ』、『今夜わかる Windows』、そして『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』など、並べられている題名の力には感心させられます。

 他にも、実際に現場である実用書の題名が決まるまでの紆余曲折を赤裸々にレポートしたり、自身の連載コラムに「何か、漫画ホニャララ、みたいにタイトルがほしい」と編集者にメールしたところ『漫画ホニャララ』に決定してしまったという脱力逸話とか、題名にまつわるこぼれ話も収録。

 ちなみに、巻末には作中に登場したすべての題名の索引が付けられており、ここだけ読んでも充分に面白いと思います。


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