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『鴨川ホルモー』(万城目学) [読書(小説・詩)]

 「これだけは、肝に銘じておくことだ。ホルモーを決して甘く見てはいけない。我々は、とんでもなくおそろしい連中と付き合っているんだよ」(Kindle版 No.2862)

 万城目学さんのデビュー作が電子書籍化されたので、Kindle Paperwhiteという電子書籍リーダーで読んでみました。単行本(産業編集センター)出版は2006年04月、文庫版(角川グループパブリッシング)出版は2009年02月、電子書籍版(角川書店)出版は2012年10月です。

 美女(の鼻)に目がくらみ、ホルモーを始めた貧乏学生。失恋がらみで引くに引けなくなり、寄せ集めの弱小チームで圧倒的な強さを誇るライバルに勝負を挑むはめに。果たして試合の行方は。ところで、ホルモーって何?

 「みなさんのなかに、京都の市井で「ホルモー」らしき意味不明の叫び声を聞いた方がおられたら、それはきっと、一人の戦士が力尽きるとき、否応なく発動された断末魔の叫びだったのだ。我々はそのとき、どうしたって声の限りに「ホルモー」と叫ぶほかない」(Kindle版 No.63)

 「俺だって、疑心暗鬼に囚われることはある。やはり、何もかもがハッタリで、俺たちは一年がかりの、壮大などっきりにまんまと付き合わされているだけじゃないだろうな、とかな」(Kindle版 No.1196)

 「結局はことの結末を確かめたいという好奇心が勝り、京大青竜会を捨て去ることができなかったのだ。俺のような不純な動機を出発点としていた者を除き、要は誰もが、京大青竜会の持つ魔力に取りこめられてしまっていたということだ」(Kindle版 No.1269)

 不純な動機(美女の鼻めあて)で京大青竜会なる怪しげなサークルにうかうかと入会してしまった貧乏学生。冗談なんだか本気なんだか訳が分からないうちに魅入られたようにホルモー道まっしぐら。あたふたするうちに失恋だの鞘当てだの、もう見ちゃいられない痛々しい青春の、心の支えは、さだまさし。

 「目指せ、一勝」(Kindle版 No.1649)

 はみ出し者ばかり集まって結成された弱小チーム。しかし、絶対かなわない相手に、意地でも勝たねばならないときがやってくる。

 「あれこれ考えても仕方ない。僕たちは勝つしかないのだから」(Kindle版 No.3109)

 「勝ちたい--震えるような気持ちで思った。もちろん、我々にはどうしても勝たなくてはいけない理由がある。だが、そんなものは、もうどうでもよかった。それよりも、もっと大切なもののために戦いたかった。(中略)空に拳を突き出した。轟く雷鳴に、渾身の力で吼え上げた」(Kindle版 No.3305)

 「その後、長きホルモーの歴史に永遠に名を残すことになる「鴨川ホルモー」は、こうして始まったのだ」(Kindle版 No.1649)

 拳を突き上げるとタイミングよく雷鳴が轟く、そんな分かりやすい展開の果てに、ついにやってくる決勝戦。圧倒的不利な条件の中、どうやって戦うのか。勝機はあるのか。ところで、ホルモーって何?

 いうわけで、基本設定は和風ファンタジー、あるいは『エンダーのゲーム』(オースン・スコット・カード)ですが、プロットはまさしくスポーツ根性ものの王道。恋、青春、ライバル、スポーツ、三国志、さだまさし。京都を舞台にクサレ大学生が無用な試練にあたふたする話を書いているのは、森見登美彦さんだけではありませんでした。


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『プラスマイナス 139号』 [その他]

 『プラスマイナス』は、詩、短歌、小説、旅行記、身辺雑記など様々な文章を掲載する文芸同人誌です。配偶者が編集メンバーの一人ということで、宣伝を兼ねてご紹介いたします。

[プラスマイナス139号 目次]

巻頭詩 『コンセントの見つからない少年達』(深雪)、イラスト(D.Zon)
短歌 『四歩目の春の橋を』(島野律子)
随筆 『宮原眼科の巧克力 5』(島野律子)
詩 『「むらさきのかわ』より(後)』(島野律子)
詩 『ME』(深雪)
詩 『楽屋裏』(深雪)
詩 『女の祝祭』(多亜若)
詩 『それも悪くない』(琴似景)
随筆 『一坪菜園生活 25』(山崎純)
随筆 『香港映画は面白いぞ 139』(やましたみか)
イラストエッセイ 『脇道の話 78』(D.Zon)
編集後記
「私のオススメ」 その4 山崎純

 盛りだくさんで定価300円の『プラスマイナス』、お問い合わせは以下のページにどうぞ。

目黒川には鯰が
http://shimanoritsuko.blog.so-net.ne.jp/


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『プラスマイナス 138号』 [その他]

 『プラスマイナス』は、詩、短歌、小説、旅行記、身辺雑記など様々な文章を掲載する文芸同人誌です。配偶者が編集メンバーの一人ということで、宣伝を兼ねてご紹介いたします。

[プラスマイナス138号 目次]

巻頭詩 『乾瓢』(深雪)、イラスト(D.Zon)
短歌 『宇宙温泉 53』(内田水果)
随筆 『宮原眼科の巧克力 4』(島野律子)
詩 『「むらさきのかわ』より(中)』(島野律子)
詩 『深雪 と コラボ 「ぐるぐる」』(深雪のつぶやき(+やましたみか編集))
随筆 『一坪菜園生活 24』(山崎純)
詩 『冬の枝』(島野律子)
詩 『老い支度』(多亜若)
随筆 『香港映画は面白いぞ 138』(やましたみか)
イラストエッセイ 『脇道の話 77』(D.Zon)
編集後記
「私のオススメ」 その3 D.Zon

 盛りだくさんで定価300円の『プラスマイナス』、お問い合わせは以下のページにどうぞ。

目黒川には鯰が
http://shimanoritsuko.blog.so-net.ne.jp/


タグ:同人誌
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『新しい超伝導入門』(山路達也) [読書(サイエンス)]

 「ケーブルや加速器、モーター、エレクトロニクスなど、日本はさまざまな分野の超伝導技術について世界でもトップクラスに位置しているのです」(Kindle版 No.31)

 電気抵抗がゼロになり、強力な磁場を作ることもできる「超伝導」。この魔法のような現象を応用した技術の実用化が着々と進行している。超伝導技術の実用化について最新情報を紹介した本が電子書籍化されたので、Kindle Paperwhiteという電子書籍リーダーで読んでみました。単行本(PHP研究所)出版は2013年1月、電子書籍版出版は2012年2月です。

 いよいよ超伝導送電の実用化が迫っています。リニアモーターカーの実用化も近いし、医療分野では既にMRIなどの機器に超伝導技術が使われています。本書はこうした超伝導技術の応用分野を幅広く紹介してくれる一冊です。

 全体は6つの章から構成されています。

 まず最初の「第一章 超伝導とは何だろう?」および「第二章 低温超伝導から高温超伝導へ」では、超伝導現象の発見から、高温超伝導の発見ラッシュまでの流れを解説してくれます。

 「金属リングを作ったオンネスは、2年間に亘って磁場が減衰しないかどうかを入念にチェックしました。そうしたところ、磁場にはまったく変化が見られませんでした。これによりリングを流れる電流もまったく減衰していないことが立証され、電気抵抗がゼロ状態であることが確認されたのです。(中略)納得のゆく説明が生み出されるためには、オンネスが超伝導を発見してから約40年の時間が必要でした」(Kindle版 No.227、382)

 「ビスマス系超伝導線材が実用化されるまでには、20年以上の年月が必要でした」(Kindle版 No.588)

 超伝導を「確認」するためだけに2年かけたという慎重さに驚かされますが、それほど信じがたい現象だったわけです。そしてその説明が出来るようになるまでさらに40年。ケーブルを作るのに20年。苦難の道のりです。

 「液体窒素で作ることのできる酸化物高温超伝導体の発見は、超伝導の研究を一部の専門家のものから解放し、多くの研究者が参入できる道を開きました。そしてこれ以降、高温超伝導体の開発競争が始まります」(Kindle版 No.490)
 
 「今のところ高温超伝導が起こるメカニズムは、完全には理論的に解明されていません。(中略)今後、高温超伝導が解明されると、室温超伝導が実現する可能性があるといえます」(Kindle版 No.517)

 こうして、「鉄系超伝導体の中には、お酒に浸して70度程度に加熱して一晩おくと、翌日には超伝導体になるものがあることがわかっています」(Kindle版 No.550)というところまで進んだ超伝導素材の研究。

 そして、いよいよ「第三章 エネルギー問題解決のために-超伝導送電」から、応用、実用化の話題へと進みます。まずは超伝導送電。

 「超伝導送電の実用化に向けて、1つのマイルストーンとなるのが、2012年10月29日に横浜市鶴見区で開始された送電実験です」(Kindle版 No.666)

 「今回の実験の意味は「実系統」への接続が行われている点にあります。実系統とは、実際に家庭や企業、工場などに送電するための電力網を指し、この変電所からは約5万世帯に送電されています。実系統に超伝導送電設備が接続されたのは、日本では初めてのことになります」(Kindle版 No.666、671)

 さらには電力損失をゼロに出来る超伝導直流送電、太陽電池と組み合わせた自然エネルギー発送電システムなどの最新展望が語られます。

 「第四章 リニアモーターカー、電車、自動車」では、交通機関への超伝導技術の応用が紹介されます。

 数年後の開通が予定されているリニアモーターカーの技術、鉄道の直流送電の超伝導化、船舶用モーターや電気自動車への応用、さらには磁気浮上を応用した非接触型の超伝導フライホイール、浮上型輸送装置。電力損失がゼロである、強力な磁場を作れる、という特製を活かした夢の技術が次々と考案されていることがよく分かります。

 「第五章 医療分野では、かなり実用化がすすんでいる!」では、モバイルMRIや、「マンション2戸分で済む」超小型の重粒子加速器、投入した薬剤を患部に誘導するドラッグデリバリー技術など、医療分野で使われている超伝導技術を紹介。

 「第六章 エレクトロニクス分野の進歩」では、超高感度の磁気センサー(超伝導量子干渉素子「SQUID」)、そしてシリコン半導体の限界を超えることが出来る超伝導ジョセフソン素子などが解説されます。

 何となく基礎研究(高温超伝導素材さがし)のイメージが強い超伝導が、これほどまでに広い領域で実用化されつつあるというのは初めて知りました。また、多くの分野で日本の技術が今のところ最先端を走っているというのも心強い限り。超伝導の応用分野について、その全体象を知っておきたいという方にぴったりの一般向け解説書です。


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『実録! あるこーる白書』(西原理恵子、吾妻ひでお、月乃光司) [読書(教養)]

 「『日本で一番有名な生きているアル中マンガ家』吾妻ひでおさんと『日本で一番有名なアル中の家族』西原理恵子さんとの赤裸々な座談はいかがだったでしょうか?(中略)本書は、そんな病気としてのアルコール依存症の理解を進める最終秘密兵器のような価値があるとにらんでいます」(単行本p.228、229)

 『失踪日記』と『おサケについてのまじめな話』の作者が、アルコール依存症について自らの体験に基づいて赤裸々に語り合った一冊。単行本(徳間書店)出版は、2013年03月です。

 吾妻ひでおさんと西原理恵子さんという「意外にも、本日が初対面になるという」(単行本p.15)二人。実は意外なつながりが。

 吾妻 「結果的に入院したのは、三鷹にある長谷川病院ってところだけど」
 西原 「ハイ、うちの鴨志田(穣)も長谷川、後輩です」
  (単行本p.45)

 吾妻ひでおさんと、西原理恵子さんの元夫が、アルコール依存症の治療のために入院させられた病院が同じだったというわけ。ここは意気投合するところなのか、微妙。

 吾妻 「胃が酒も受け付けなくなって、飲んでは吐くを繰り返していたよ。そうなるともういくら飲んでも眠れない。一晩中、街をフラフラさまようことが多くなったね。(中略)つねに酩酊状態でいたいので、いつでもポケットに100円の鬼ころしを入れて、それをストローでチューチュー吸いながら歩いてた」
  (単行本p.42、43)

 吾妻 「アル中に関する本も図書館で借りていろいろ読んでた。(中略)ただ、「アル中だから治そう」と思って勉強していたわけじゃあなくて、なるべくずっと酒を飲んでいられるように、どうすれば現状維持できるかと考えていたね。とにかく飲み続けていたかったんだ」
  (単行本p.44)

 などと吾妻さんがアルコール依存症体験を生々しく語り、次に西原さんが患者の家族としてどれほどの地獄を見たかを語ります。ここには書きませんが、詳しくは『西原理恵子×月乃光司の おサケについてのまじめな話』をご覧ください。

  2010年07月06日の日記:『おサケについてのまじめな話』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2010-07-06

 西原さんの凄惨な体験にたじろいで、思わず「アル中側の人間として」守りに入ってしまう男二人。

 月乃 「西原さんには申しわけないって言うしかないんですけど。家族は被害者ですからね。ただ。ちょっとだけつぶやかせていただけたら「本人も辛いことは辛いんですよ」と」

 吾妻 「分かってくれとは言わないが・・・・・・」
  (単行本p.55)

 もちろん容赦してくれる西原さんではなく、さらに追い詰められる男二人。

 吾妻 「ほんと俺と月乃さんは、どの面下げて聞いていればいいのかな」

 月乃 「そうですね」
  (単行本p.57)

 罵倒を続ける西原さんに、こそっと抵抗してみたり。

 吾妻 「でも、断酒して十何年経ってる人ですよ。「もう許してあげれば」と思うんですけど」

 西原 「だって謝らないじゃないですか。謝んないもん。全然(笑)」
(中略)
 吾妻 「そうでしたか、分かりました。申しわけありません」

 西原 「吾妻さん奥さんに謝ったんですか?」

 吾妻 「謝ってません(笑)」
  (単行本p.185、186)

 駄目じゃん。

 それにしても、これだけ悲惨な体験をしながら、「自分でかれが戻ってきたこと、治せたこと、人としてかれを見送れたことが、本当に一生の財産だって思えます」と言ってしまう西原さんの度量ときたら。

 話題は、入院治療の実態や、患者同士の自助グループの内幕など、さらにディープな方向に進んでゆきます。善意と思いやりでアルコール依存患者を悪化させてしまうイネーブラーの話とか、自助グループについて「家族のある人は断酒会を勧めて、独身者はAAを勧める傾向がある(単行本p.175)とか、リハビリ施設であるジャパンマックの話とか、「スリップ」「底付き」などの用語とか。

 本書を読むだけで、アルコール依存症についてかなりの知識を得ることが出来ます。知識があれば「病気」だと分かる、病気だと認識すれば「治療」に向かうことが出来る。そのために啓蒙が必要だと。

 西原 「この病気を世に知らしめることが大事なんだと思います。AIDSみたいに、病気としての身分を上げてやることが絶対必要なんです」
  (単行本p.111)

 西原 「本当に啓蒙活動しかないと思うんです。吾妻さんの『失踪日記』の続篇、みんな読みたがってるから、早くしてくれないと。早く出ればそれだけ死なずにすむ人が増えるかもしれないんだから」

 吾妻 「去年、思い切ってアシスタントやといましたよ。賭けにでました。売れなかったら赤字です」
  (単行本p.196)

 入院体験が詳しく描かれるという、『失踪日記』続篇への期待も高まります。


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