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『Dance Triennale Tokyo 2012 JAPAN FOCUS』(平敷秀人、川村美紀子、21世紀ゲバゲバ舞踊団、田畑真希) [ダンス]

 2012年10月07日(日)は、夫婦で青山円形劇場に行って、日本のダンサー四組が踊る公演を鑑賞しました。

 個人的に気に入ったのは、『メルヘン』(田畑真希)と『へびの心臓』(川村美紀子)の二作品。

 『メルヘン』(田畑真希)は男女三名で踊る作品で、男性ダンサーがかけている黒縁眼鏡や、最後の方で使われる楽器など、小道具の使い方が印象的。激しく踊るシーンと静かなシーンの対比など、構成が鮮やか。ラストに近づくにつれて、夕焼けを連想させる照明効果もあって、観客を感傷的な気分にしてゆきます。ちょっと切ない気持ちに。

 しかし、何といってもインパクトがあったのは『へびの心臓』(川村美紀子)です。これ一本を観るだけでチケット代のもとは充分とったと確信させる豪快さ。

 最初はごくありふれたヒップホップナンバーで踊るストリートダンスとして始まるのですが、やがてお坊さんが唱える読経でヒップホップ(最後にチーンと鉦が鳴るところでフルスイングでキメポーズ)、ショパンのピアノに乗せてヒップホップ、ノイズに乗せてヒップホップ。そこにリズムがある限りどんな音でも踊ってみせる豪腕。でも政治家の言葉には踊らされないよ、というベタなギャグも微笑ましい。

 全身をバネのように弾ませ、激しいリズムに四肢炸裂するような勢いで、ちからいっぱいめいっぱい踊るそのパワーに驚きますが、小刻みに小休止を挟みつつも、いつまでもいつまでもめいっぱい踊り続けるその体力に、その集中力、持続力、そしてこんな振付演出をやってしまう蛮勇に、もう圧倒されて、腹の底から。

 こ、これは、ホンマもんの馬鹿や、ダンス馬鹿や!

 他の演目が小賢しく感じられてしまうほど、ひたすら「踊る」ことで一点突破する、光り輝くまぶしいダンス馬鹿を目の当たりにして、シビれました。今後、彼女の公演は必ず観ることにします。

[上演作品]

 『KOKUU』(平敷秀人)
 『へびの心臓』(川村美紀子)
 『ワカクマズシクムメイナルモノノスベテ #02』(21世紀ゲバゲバ舞踊団)
 『メルヘン』(田畑真希)


タグ:川村美紀子
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『LOVE FIRE』(ヤスミン・ゴデール) [舞台(コンテンポラリーダンス)]

 2012年10月06日(土)は、夫婦でスパイラルホールに行ってイスラエルの著名コレオグラファ、ヤスミン・ゴデールの2009年作品を観てきました。

ヤスミン自身も踊るデュオ作品(乱入者あり)です。踊っているヤスミンを観たのは初めてですが、何といってもまずそのチャーミングさにびっくり。いたずらっぽい表情、葛藤の表情、とても魅力的で、ぐぐっと引き込まれます。

 まずは陽気なシュトラウスのワルツで踊る男性ダンサー。軽妙で楽しそうな動きなのに、表情や仕草からは悲痛なものが伝わってきます。続いて陰気なシベリウスのワルツで踊るヤスミン。こちらの動きは悲嘆にくれているのに、表情や仕草からは激しい情熱が感じられる。

 こんな風に、ダンスが訴えかけてくるものと、表情や仕草あるいは状況から読み取れるものがずれてくる、溝がある、そのために内面の葛藤や矛盾が生々しく伝ってきて、深い感動を生む。この感覚、ちょっと忘れられないほどのインパクトがあります。

 有名なワルツが流れるなか、ときに無音の静寂を背景に、情熱、高揚感、葛藤、切なさ、苦悩、など様々な愛の側面が踊られます。一つ一つ順番に、あるいはストーリーに沿って表現してゆくのではなく、複数の矛盾する感情を同時に表出せしめるところが凄い。高揚しながら絶望する愛、激しく求めながら傷つけあう愛、盛り上がりながら落胆する愛。

 小道具の使い方はユーモラスで、例えば動物の巨大な遺体(ぬいぐるみ)の腹をかっさばいて内蔵(布切れ)を取り出して並べたり、男性ダンサーがその遺体をかぶってヤスミンがその動物の背(男性ダンサーの肩)にまたがって乗馬ごっこで盛り上がったり。

 最後の方で白煙と共にゲストパフォーマーが乱入し、蛍光管で構築された光るオブジェがどどーっと出てくる。この展開には意表をつかれました。予想外だった。

 というわけで、これまでわずか数作しか観てないヤスミン作品ですが、どれもこれも後々まで尾を引くほど印象が強く、もっと観たい、という気持ちがかきたてられます。

[キャスト]

振付: ヤスミン・ゴデール
出演: Yasmeen Godder、Matan Zamir
ゲストパフォーマー・ライブインスタレーション: Yochai Matos


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『検証 予言はどこまで当たるのか』(ASIOS、菊池聡、山津寿丸) [読書(オカルト)]

 「未来の出来事についての「情報」を知り、自分や世界の将来をコントロールしたいと考えるのは、間違いなく人の基本的な動機づけの一つである。そして、この動機づけは予言を信じる心だけでなく、人が科学的な探求に取り組む原動力となり、科学と知識の進歩をもたらしたものでもある」(単行本p.179)

 ASIOS (Association for Skeptical Investigation of Supernatural : 超常現象の懐疑的調査のための会)の検証シリーズ最新作。今回は、古今東西の予言者や予言書を取り上げ、本当に予言はなされたのか、はたして的中したのか、本当に予知能力が発揮されたのか、徹底的に検証します。単行本(文芸社)出版は、2012年10月です。

 検討対象となっているのは、マヤ歴の予言、大ピラミッドの予言、未来人ジョン・タイター、ノストラダムス、エドガー・ケイシー、ジーン・ディクソン、出口王仁三郎、聖徳太子、伯家神道、をのこ草紙、ヨハネの黙示録、聖書の暗号、ファティマの予言、そして予言としてのUFO現象など。壮観です。

 まず特筆したいのは、外部寄稿者である山津寿丸さんと菊池聡さん。両名とも目を見張るような立派な仕事をなさっています。

 山津寿丸さんのノストラダムス現象研究レポート。その圧倒的な情報量にはもう大興奮。有名な予言詩を専門家はどう解釈しているのか。時代背景から考える執筆の経緯や動機。後の時代のビリーバーたちによる脚色を一つ一つ丁寧に剥いでゆき、当時の優れた知識人ノストラダムスの実像に迫ってゆくその筆致には感服させられます。

 そして菊池聡さんの「予言の心理学-人は無知や愚さから信じるのではない」も素晴らしい。ビリーバーの方々を軽んじたり揶揄したりすることなく一定の敬意を払いながら、それがある種の合理性から来ているものであり、科学を志向する精神と同根といってもよい、と論じる姿勢には蒙を啓かれる思いです。

 検証や批判はともかく、ビリーバーを見下す態度、あるいは侮蔑する気持ち、そういったものがにじみ出ている本は不快に感じられることも多いので、こういった他者に対する敬意を失わない(むろんそれは主張内容に迎合するという意味ではない)文章を読むと、ほっとするのです。

 30ページをこえる力作「こんなにあった! 当たらなかった世界滅亡・大異変予言オンパレード(外れたときの言い訳つき)」(山本弘)はエキサイティング。ここ2000年くらいの間に次から次へと提示された主な終末予言をリスト化して解説したもので、誰だってこれを読めば「20XX年に大異変が起こる/人類滅亡」といった類の予言を信じる気にはならないだろう・・・、といいたいところですが。

 「こうした多数の先例から、人は何も学ばない」(単行本p.256)

 この予言は当たるに違いありません。

 他に、「伯家神道の予言」や「をのこ草紙」の調査レポートはその周到な仕事ぶりに驚かされますし、エドガー・ケイシーが予言したアトランティス遺跡(とされるもの)を発見したパイロットたちは、実はケイシーの支援団体の会員だった、などという個人的に初めて知った情報にはびっくり。未来から来たタイムトラベラーだというジョン・タイター氏の正体がほぼ判明している、というのにも驚かされました。

 たとえそれが予言の検証本であっても、ためらうことなくUFOについて熱く語ってしまう「UFOと予言「少しだけ先の未来」」(秋月朗芳)の浮きっぷりも印象的。社会的・文化的現象としてのUFO、という話題については、日本ではあまり知られてない海外の研究成果もいっぱいありそうですし、一冊まるごとこのテーマで本を出してもらえたりするとすごく嬉しいのですが。


タグ:ASIOS
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『ひょうすべの嫁(「文藝」2012年冬号掲載)』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

 「どんなに権勢を揮い、次々と虫ケラのように殺し尽くしても、ひょうすべの嫁の心はけして安らがない。恐怖の中にいる。また絶望もしている。」(「文藝」2012年冬号p.220)

 シリーズ“笙野頼子を読む!”第64回。

 最新単行本『小説神変理層夢経 猫未来託宣本 猫ダンジョン荒神』のあとがき小説において、「変なお化け小説をどんどん書いて仕上げてしまって」(単行本p.218)と言及されていた短篇が、早くも「文藝」2012冬号に掲載されました。

 「ひょうすべにやくそくせしをびょたくされながきいのちのきりくちをみる、ぞーん、ぞーん、ぞーん、」(「文藝」2012年冬号p.228)

 恐ろしい妖怪に狙われる話です。自分以外の女をすべて出来るだけ残忍な方法で殺すしかないという呪われた妖怪、ひょうすべの嫁。もとは普通の人間だったのに、ひょうすべとの婚姻がゆえにこんな因業を背負わされ、しかも、例によって「自己責任」と云われ。

 「つまり心の内側とはこの世のものではないから、した事を見るしかないという地獄的な人間観に基づいて、ひょうすべの嫁は、ただその婚姻という行為だけを「評価される」のである。」(「文藝」2012年冬号p.221)

 夢の中で「ホテルひょうすべ」にいる語り手。そこで沢山の若い女性たち(集団見合いのイベント参加者らしい)が、ひょうすべの嫁にとり殺されるという恐ろしい光景を目撃する。

 「思い出せないのです。ただ、口から腸が百本出ていました。顔が可愛いのにその腸で人を、・・・・・・」(「文藝」2012年冬号p.226)

 うわーっ。

 で、何とか無事に脱出したものの、やがて身近にひょうすべの嫁が出没するようになるのです。

 「大丈夫今は今日のところはにこやかに帰るけど、これから順々にやってのけに来るから。」(「文藝」2012年冬号p.229)

 ・・・、怖っ。

 妖怪に襲われる話といえば、『東京妖怪浮遊』(笙野頼子)にもそういうエピソードが出てきたことが思い出されます。あのときは伴侶猫ドラが触感妖怪スリコとなって守ってくれたのですが、そのドラも今は亡く。あるいは、それが原因で、再び論敵、じゃなかった妖怪にからまれるようになったのかも知れません。

 「ほうや、決まっとうやろ、向こうには私の報告が行っとんや、そのための忠義面や。私のくっそアホ。とうとう戦争じゃ。私のくっそ人好し!」(「文藝」2012年冬号p.229)

 気持ちよい方言(おそらく三重弁)がぽんぽん飛び出す軽快さのおかげで楽しく読めますが、しかし、それにしても、ひょうすべの嫁、なんとおそろし。

 あちらこちらに核や放射能を想起させるイメージが練り込んであるので、何となくひょうすべの嫁が「放射能」や「原発利権」といったものを象徴しているようにも感じられ、そう考えると嫌さ倍増。というか、それだと最後の数行があんまりだ。ぞーん。


タグ:笙野頼子
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『流れのふしぎ  遊んでわかる流体力学のABC』(石綿良三、根本光正、日本機械学会編) [読書(サイエンス)]

 「流体には一般的な感覚とは違って、「えっ!?」と驚くようなふしぎな現象が起こることがあります。一見すると特異な現象のように見えることも多いのですが、実はきわめて自然の理にかなっているのです」

 お茶をかき回すと底に沈んでいる茶葉が中央に集まってくる理由。風が吹くと自動的に風上に向かって進む船を作る。ゴムホースと割り箸だけを使って室温で水を沸騰させる。家庭で出来る楽しい実験を通じて、流体力学の基礎法則を学ぶサイエンス本。新書版(講談社)出版は、2004年08月です。

 まえがきに「小学生でも楽しめる本になっていますが、同時に大学で流体力学を学ぶ学生のための副読本にもなり得るものです」(新書p.7)とある通り、まず家庭で簡単に出来る実験(あるいは遊び)を示し、その原理が工学的にどのように応用されているかを解説、さらに理論的説明を通じて流体力学の基本を教える、という三段階の構成になっています。

 粘性、圧縮性、圧力、浮力、渦、表面張力、乱流、キャビテーション、ベルヌーイの法則、ピトー管、流線曲率、コアンダ効果、はく離渦、境界層、揚力、マグナス効果、管摩擦損失、回転翼、といった具合に、流体力学の基礎を幅広くカバーしているのも嬉しいところ。

 茶葉が沈んでいるお茶をかき回すと、茶葉は中央に集まってきます。この現象をよく観察してみると、流体の回転運動が中心へ向かう流れ、「二次流れ」を引き起こしているということが分かります。本書には分かりやすい図解が載っており、なぜ「二次ながれ」が発生するのか、納得できるようになっているのです。

 ゴムホースと割り箸だけを使って水を沸騰させる、それも室温で。この不思議な実験を自分でやってみれば、二度と「キャビテーション」という現象を忘れることはないでしょう。さらにそれが潜水艦、揚水ポンプ、結石破砕治療など多くの分野に関わっていることを知ることで、流体力学が身近に感じられるようになります。

 ノートパソコンを落としたとき、落下を検知して自動的にハードディスクを停止させ損傷を防ぐ大切な加速度センサ。その大きさはわずか5mm四方、衝撃で壊れないよう可動部品を一切使ってないそうです。どうやってそんなものを作るのでしょうか。実は、この加速度センサ、ヒーターと温度計だけで構成されているのです。ヒーターと温度計で加速度を測定する、その動作原理は。

 他にも、一本のストローだけで作る流速計(ピトー管)、自動的に風上に向かって進む船の自作、ドライヤーで箱に風をあてると箱側面にたらしたティッシュペーパーが手前に(ドライヤーに近づく方向に)たなびく不思議な現象が、レーシングカーの形状とどのように関係しているのか、など。

 本書にはこんなわくわくするような話が詰め込まれています。すべてのページについて、面積の半分をイラストや写真が占めているため、非常に読みやすいのも特徴。文章を読むのが苦手な子供でも楽しめるでしょう。

 というわけで、うたい文句の通り、小学生でも直観を裏切る不思議な現象を目の当たりにする実験を楽しみ、あるいは夏休みの自由研究のネタ本として活用できますし、高校大学の学生なら流体力学の基礎を学ぶ参考書として使えるという、便利な一冊。

 あの重たい飛行機が飛ぶこと、流れる水道水に近づけたスプーンが引き寄せられること、電車が減速するとき車内に浮いている風船が他の物体とは反対方向に流れること、そういった日常的に体験することが不思議でならない方にお勧めします。


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