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『涙目コーデュロイ』(イデビアン・クルー、井手茂太、斉藤美音子) [舞台(コンテンポラリーダンス)]

 本日(2012年09月28日)は、夫婦で十六夜吉田町スタジオに行って、井手茂太さんひきいるコンテンポラリーダンスカンパニー、イデビアン・クルーの最新作を鑑賞しました。このスタジオのオープニング公演だそうで、最後に開店祝いの花が飾られるという演出もあり。

 定員35名という小さなスタジオを舞台とした、井手茂太さんを含む三名だけで踊られる小規模な公演です。中央にある柱のおかげで舞台全体を見渡すことが出来ないのが気になりますが、それを逆に利用する演出も見せ所の一つ。どの席に座っても一部が見えないため、終演後に席を変えてもう一度観たいという気になります。あと、客席は舞台上に椅子を並べただけなので、本当にすぐ目の前で出演者が踊ります。すごい臨場感です。

 作品としては、つるむ関係が次々と移っていったり、あうんの呼吸を期待してたのに外されて困ったり、いい大人が子どもじみた態度に固執したり、三人の様々な関係性で笑わせてくれます。

 出オチを含む様々な笑いが仕掛けられていて楽しいのですが、全体として見ると散漫な印象もあり、また個々のネタも発想としてはありふれているため、新鮮な印象に乏しいのは残念。小芝居ではなくダンスで勝負するシーンがもっと多ければいいのになあ、と思いました。

 とはいえ、いくつかあるダンスシーンは、さすが井手さんの振付だけあって、すっとんきょーでとぼけてるのに妙にかっこいい。手足の細かい動き、絶妙な繰り返し、緻密に組み立てられたコンタクト、うきうきさせる軽やかなステップ。わあーっ、と盛り上がり、終演後は気分爽快。やっぱりイデビアン・クルーの公演は気持ち良いのです。

[キャスト]

振付・演出: 井手茂太
出演: 斉藤美音子、中村達哉、井手茂太


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『SFマガジン2012年11月号  日本SFの夏』(宮内悠介) [読書(SF)]

 SFマガジン2012年11月号は「特集 日本SFの夏」ということで、最近の国内SFの話題作を中心に作家インタビューやレビューを掲載、さらに宮内悠介さんのシリーズ第三弾、そしてジェイ・レイクの『愚者の連鎖』(SFマガジン2010年06月号掲載)の続編を載せてくれました。

 『ジャララバードの兵士たち』(宮内悠介)は、南アフリカを舞台とした『ヨハネスブルグの天使たち』(SFマガジン2012年2月号掲載)、ニューヨークを舞台とした『ロワーサイドの幽霊たち』(SFマガジン2012年8月号掲載)に続くシリーズ第三弾。

 今作では、民族紛争が泥沼化したアフガニスタンが舞台となります。紛争地域で起きた奇妙な殺人事件、その背後には忌まわしい戦争犯罪が隠されていた。巻き込まれた二人は、地獄のような戦場から生きて脱出することが出来るのか。

 これまでの作品と同様にDX9と呼ばれるアンドロイドが登場しますが、今作ではそれほど落下しません(冒頭でパラシュート降下してきますが)。違法改造され、兵器として殺戮に使われるのです。少年兵のイメージがかぶることもあって、その陰惨さに気が滅入ります。

 前二作に比べると非常にシンプルな語りで、展開もまっすぐ。人間をうつす鏡のようなDX型アンドロイドという仕掛けを使って、想像力でこの世界の現実をえぐり出そうとする骨太な作風はこれまでと同じ。単行本にまとめられるのが待ち遠しい限りです。

 『星の鎖』(ジェイ・レイク)は、SFマガジン2010年06月号に掲載された『愚者の連鎖』の続篇。

 惑星が巨大な歯車として連動して動いている機械仕掛けの太陽系。地球の赤道上には大気圏外までそびえ立つ歯車の「歯」があり、その歯が太陽の周囲を回っている軌道環と呼ばれる構造物と噛み合って回転し続けることで、自転および公転が実現されている。

 腰を抜かすようなお馬鹿な設定ですが、作品の雰囲気はシリアスそのもの。前作は、その地球歯車にひっかけた鎖に沿って低地と高地の間を行き来するバケツ船の女船長の物語でしたが、今作では彼女は船長を引退して、宇宙飛行士を目指します。いや、マジ。

 別れた恋人の夢を受け継ぎ、宇宙を目指す彼女の周囲には、志を同じくする仲間が次々に集まってくる。地球歯車の先端近くにロケット発射基地を作り、軌道環と歯が噛み合ったタイミングで手作りロケットを発射。ロケット先端には接着剤を塗っておき、軌道環にぺたっと張り付ける。そうすれば軌道環によって宇宙船は自動的にエーテル空間まで運ばれるはず。そう、星々の世界へ手が届くのだ。

 大真面目にそんなことを云われても困りますが、読者が何を考えようとも、話はどんどん宇宙開発ものに突き進んでゆきます。立ちはだかる困難、打ち上げ失敗による犠牲。すべてを乗り越え、手作りの原始的なロケットに乗り込んで星々を目指すヒロインの姿に、SF者なら熱い感動を覚えることでしょう。いやまあ、そりゃバカですけど、それがSFの原点なんじゃないでしょうか。

[掲載作品]

『ジャララバードの兵士たち』(宮内悠介)
『星の鎖』(ジェイ・レイク)


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『プラスマイナス 136号』 [その他]

 『プラスマイナス』は、詩、短歌、小説、旅行記、身辺雑記など様々な文章を掲載する文芸同人誌です。配偶者が編集メンバーの一人ということで、宣伝を兼ねて最新号をご紹介いたします。

[プラスマイナス136号 目次]

巻頭詩 『船出』『仕組み』(深雪)、イラスト(D.Zon)
短歌 『晩い夏を漉す』(島野律子)
随筆 『宮原眼科の巧克力 2』(島野律子)
詩 『法則』(多亜若)
詩 『晴れ間』(島野律子)
詩 『増水』(島野律子)
詩 『お盆休み 1』(琴似景)
随筆 『一坪菜園生活 23』(山崎純)
随筆 『香港映画は面白いぞ 136』(やましたみか)
イラストエッセイ 『脇道の話 75』(D.Zon)
編集後記
「私のオススメ」 その2 島野律子


 盛りだくさんで定価300円の『プラスマイナス』、お問い合わせは以下のページにどうぞ。

目黒川には鯰が
http://shimanoritsuko.blog.so-net.ne.jp/


タグ:同人誌
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『機龍警察 暗黒市場』(月村了衛) [読書(SF)]

 武器密売ブラックマーケットを一網打尽にせよ。極めて危険な潜入捜査に挑むユーリ・オズノフ警部を待ち構えていたのは、自らの凄絶な過去、そして大いなる闇だった・・・。SF、ミステリ、警察小説、冒険活劇、どのジャンルの読者も満足させる傑作シリーズ、長編第三弾。単行本(早川書房)出版は、2012年9月です。

 凶悪化の一途をたどる機甲兵装(軍用パワードスーツ)犯罪に対抗するために特設された、刑事部・公安部などいずれの部局にも属さない専従捜査員と突入要員を擁する警視庁特捜部SIPD(ポリス・ドラグーン)。通称『機龍警察』。

 龍機兵(ドラグーン)と呼ばれる三体の次世代機を駆使するSIPDは、元テロリストやプロの傭兵など警察組織と馴染まないメンバーをも積極的に雇用し、もはや軍事作戦やテロと区別のなくなった凶悪犯罪に立ち向かう。だがそれゆえに既存の警察組織とは極端に折り合いが悪く、むしろ目の敵とされていた。

 龍機兵あるいはそれに匹敵する高性能な機甲兵装が武器密売ブラックマーケットに流れようとしているとの情報を得た特捜部は、それを阻止すべく元ロシア警察のユーリ・オズノフ警部を潜入捜査員として送り込む。ターゲットとなるロシアン・マフィアのボスは、ユーリのかつての友人だった。

 「俺は警官の息子だ。そして最も痩せた犬達の一員だ」(単行本p.392)

 心に深い屈託を抱えたユーリ、その過去にいったい何があったのか。裏切りと陥穽のどん底で絶体絶命の危機に陥った彼を、その魂を救うのは誰か。

 「何もかもが急速にぼやけて遠のいていく。駄目だ。前に出ろ。前に出てつかめ。希望を、誇りを、失ったすべてを」(単行本p.292)

 というわけで、予想通り、長編第三作の「主役」はユーリ・オズノフ警部。前作『自爆条項』が英国の冒険小説風(それに忍者小説のスパイス混入)だとすれば、今作『暗黒市場』は香港ノワール映画風。それも定番の潜入捜査官もの。当然ながら「男の友情」と「裏切り」があれこれする話です。

 もともとこのシリーズは基本的に警察小説ですが、それにしても本作は徹底しています。現在パート(日本警察の潜入捜査)の途中に過去パート(ロシア警察の囮捜査)がはさまるという構成で、裏切りと陥穽と汚辱に満ちた過去に決着をつけるため命をかける警官の熱い物語が展開します。

 最後の100ページ強はもうね、見せ場の連続。地下格闘戦、海上チェイス、屋内銃撃戦、雪山対決。舞台を次々と移しながら危機また危機、ひたすら定番と定石が続きますが、このシリーズを読むときそんなことは気になりません。背後で進行する政治的駆け引きも話のテンポを乱すことなく緊迫感を盛り上げており、常連キャラにそれぞれ出番を割り振りながら、話の焦点がぼやけないようきっちりまとめてくる。このあたりのストーリーテリングの巧みさには舌を巻きます。

 ついにドラグーン「バーゲスト」に搭乗したユーリが"DRAG-ON"の叫びとともに特殊戦闘モードにチェンジし、過去の因縁に決着をつけるべく最後の対決に挑むクライマックス。このシーンにたどり着くことは最初から分かりきっているのに、それまでに積み重ねてきた物語の力で、身体に震えが走りました。

 なお、『自爆条項』とはほとんど関連してないので、前作を読んでない方が手にしても大丈夫。ただ、第一作『機龍警察』とのつながりはけっこう深いので、こちらは事前に読んでおいた方がいいでしょう。

 というわけで、これで機龍警察の傭兵三名が順番に「主役」をつとめるファーストシーズンが終わったという感じ。次作ではさらに他の登場人物が主役になるのか、それとも主要キャラクター紹介は終わったのでいよいよ「敵」との総力戦がスタートするのか。いずれにせよ先が楽しみで楽しみで仕方ありません。


タグ:月村了衛
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インドネシア×日本 国際共同制作公演 『To Belong -dialogue-』(振付・演出:北村明子) [舞台(コンテンポラリーダンス)]

 昨日(2012年09月23日)は、夫婦で三軒茶屋シアタートラムに行って、北村明子さんの新作公演を鑑賞しました。インドネシアの伝統芸能に着想を得たというこの作品、北村明子さんを含む両国混成6名のダンサーたちが踊ります。

 さほど広くない舞台の周囲に掛け軸のように数枚の垂れ幕をおろし、そこに映像を投影する(またその隙間からダンサー達が出入りする)ほかは、特に大道具を使わないシンプルな舞台です。上演時間は1時間強。

 舞台の上で、ダンサーたちは様々な身体対話を試みます。インドネシア伝統武術を取り入れたしなやかで鋭い動き、中腰になって手首をひらめかせながら、「気」だか「オーラ」だか何だか分からないけど互いが発している何かに接触しようとするようなコミュニケーション。二人、ときに三人、組んだ相手との間に交わされる不思議な、目に見えない対話がどのように進んでゆくかが見どころです。

 太極拳めいた流れるような伸びやかな動き、迫力ある殺陣、互いの魂に触れようとする手探り、ときに人形になった相手に心を吹き込み、ときにはうまく通じない言葉をもぎこちなく使いながら、手首を旋回させ、交差させ、あるいは突き、受け、流し、同調し、そして離れ、蝶のように空気の流れに乗って舞う。この身体による「対話」は、おそらく緻密に構成された完璧な振付なのでしょうが、まるで今そこで即興で生まれつつあるかのような生き生きとした印象を与えてくれます。呼吸しているかのような照明効果も絶妙。

 しかし、やはり最も印象的なのは北村明子さん。すっと舞台に立つだけで、その佇まいに胸を突かれます。達人をおもわせるなめらかな身体の流れ、どきどきさせるオフバランス、スピリチュアルな雰囲気を身にまといつつも、何やら邪な企みでもしてそうな知的な顔つき、どれもぐっときます。インドネシア伝統武術の動きも見事で、あまりのかっこよさに鳥肌が立ちました。

[キャスト]

構成・振付・演出: 北村明子
ドラマトゥルグ: 石川慶、スラマット・グンドノ(Slamet Gundono)

出演: マルチナス・ミロト(Martinus Miroto)、今津雅晴、リアント(Rianto)、三東瑠璃、西山友貴、北村明子


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