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『流れのふしぎ  遊んでわかる流体力学のABC』(石綿良三、根本光正、日本機械学会編) [読書(サイエンス)]

 「流体には一般的な感覚とは違って、「えっ!?」と驚くようなふしぎな現象が起こることがあります。一見すると特異な現象のように見えることも多いのですが、実はきわめて自然の理にかなっているのです」

 お茶をかき回すと底に沈んでいる茶葉が中央に集まってくる理由。風が吹くと自動的に風上に向かって進む船を作る。ゴムホースと割り箸だけを使って室温で水を沸騰させる。家庭で出来る楽しい実験を通じて、流体力学の基礎法則を学ぶサイエンス本。新書版(講談社)出版は、2004年08月です。

 まえがきに「小学生でも楽しめる本になっていますが、同時に大学で流体力学を学ぶ学生のための副読本にもなり得るものです」(新書p.7)とある通り、まず家庭で簡単に出来る実験(あるいは遊び)を示し、その原理が工学的にどのように応用されているかを解説、さらに理論的説明を通じて流体力学の基本を教える、という三段階の構成になっています。

 粘性、圧縮性、圧力、浮力、渦、表面張力、乱流、キャビテーション、ベルヌーイの法則、ピトー管、流線曲率、コアンダ効果、はく離渦、境界層、揚力、マグナス効果、管摩擦損失、回転翼、といった具合に、流体力学の基礎を幅広くカバーしているのも嬉しいところ。

 茶葉が沈んでいるお茶をかき回すと、茶葉は中央に集まってきます。この現象をよく観察してみると、流体の回転運動が中心へ向かう流れ、「二次流れ」を引き起こしているということが分かります。本書には分かりやすい図解が載っており、なぜ「二次ながれ」が発生するのか、納得できるようになっているのです。

 ゴムホースと割り箸だけを使って水を沸騰させる、それも室温で。この不思議な実験を自分でやってみれば、二度と「キャビテーション」という現象を忘れることはないでしょう。さらにそれが潜水艦、揚水ポンプ、結石破砕治療など多くの分野に関わっていることを知ることで、流体力学が身近に感じられるようになります。

 ノートパソコンを落としたとき、落下を検知して自動的にハードディスクを停止させ損傷を防ぐ大切な加速度センサ。その大きさはわずか5mm四方、衝撃で壊れないよう可動部品を一切使ってないそうです。どうやってそんなものを作るのでしょうか。実は、この加速度センサ、ヒーターと温度計だけで構成されているのです。ヒーターと温度計で加速度を測定する、その動作原理は。

 他にも、一本のストローだけで作る流速計(ピトー管)、自動的に風上に向かって進む船の自作、ドライヤーで箱に風をあてると箱側面にたらしたティッシュペーパーが手前に(ドライヤーに近づく方向に)たなびく不思議な現象が、レーシングカーの形状とどのように関係しているのか、など。

 本書にはこんなわくわくするような話が詰め込まれています。すべてのページについて、面積の半分をイラストや写真が占めているため、非常に読みやすいのも特徴。文章を読むのが苦手な子供でも楽しめるでしょう。

 というわけで、うたい文句の通り、小学生でも直観を裏切る不思議な現象を目の当たりにする実験を楽しみ、あるいは夏休みの自由研究のネタ本として活用できますし、高校大学の学生なら流体力学の基礎を学ぶ参考書として使えるという、便利な一冊。

 あの重たい飛行機が飛ぶこと、流れる水道水に近づけたスプーンが引き寄せられること、電車が減速するとき車内に浮いている風船が他の物体とは反対方向に流れること、そういった日常的に体験することが不思議でならない方にお勧めします。


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