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『ひょうすべの嫁(「文藝」2012年冬号掲載)』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

 「どんなに権勢を揮い、次々と虫ケラのように殺し尽くしても、ひょうすべの嫁の心はけして安らがない。恐怖の中にいる。また絶望もしている。」(「文藝」2012年冬号p.220)

 シリーズ“笙野頼子を読む!”第64回。

 最新単行本『小説神変理層夢経 猫未来託宣本 猫ダンジョン荒神』のあとがき小説において、「変なお化け小説をどんどん書いて仕上げてしまって」(単行本p.218)と言及されていた短篇が、早くも「文藝」2012冬号に掲載されました。

 「ひょうすべにやくそくせしをびょたくされながきいのちのきりくちをみる、ぞーん、ぞーん、ぞーん、」(「文藝」2012年冬号p.228)

 恐ろしい妖怪に狙われる話です。自分以外の女をすべて出来るだけ残忍な方法で殺すしかないという呪われた妖怪、ひょうすべの嫁。もとは普通の人間だったのに、ひょうすべとの婚姻がゆえにこんな因業を背負わされ、しかも、例によって「自己責任」と云われ。

 「つまり心の内側とはこの世のものではないから、した事を見るしかないという地獄的な人間観に基づいて、ひょうすべの嫁は、ただその婚姻という行為だけを「評価される」のである。」(「文藝」2012年冬号p.221)

 夢の中で「ホテルひょうすべ」にいる語り手。そこで沢山の若い女性たち(集団見合いのイベント参加者らしい)が、ひょうすべの嫁にとり殺されるという恐ろしい光景を目撃する。

 「思い出せないのです。ただ、口から腸が百本出ていました。顔が可愛いのにその腸で人を、・・・・・・」(「文藝」2012年冬号p.226)

 うわーっ。

 で、何とか無事に脱出したものの、やがて身近にひょうすべの嫁が出没するようになるのです。

 「大丈夫今は今日のところはにこやかに帰るけど、これから順々にやってのけに来るから。」(「文藝」2012年冬号p.229)

 ・・・、怖っ。

 妖怪に襲われる話といえば、『東京妖怪浮遊』(笙野頼子)にもそういうエピソードが出てきたことが思い出されます。あのときは伴侶猫ドラが触感妖怪スリコとなって守ってくれたのですが、そのドラも今は亡く。あるいは、それが原因で、再び論敵、じゃなかった妖怪にからまれるようになったのかも知れません。

 「ほうや、決まっとうやろ、向こうには私の報告が行っとんや、そのための忠義面や。私のくっそアホ。とうとう戦争じゃ。私のくっそ人好し!」(「文藝」2012年冬号p.229)

 気持ちよい方言(おそらく三重弁)がぽんぽん飛び出す軽快さのおかげで楽しく読めますが、しかし、それにしても、ひょうすべの嫁、なんとおそろし。

 あちらこちらに核や放射能を想起させるイメージが練り込んであるので、何となくひょうすべの嫁が「放射能」や「原発利権」といったものを象徴しているようにも感じられ、そう考えると嫌さ倍増。というか、それだと最後の数行があんまりだ。ぞーん。


タグ:笙野頼子
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