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『うきわねこ』(文:蜂飼耳、画:牧野千穂) [読書(小説・詩)]

 誕生日のプレゼントとしておじいちゃんが送ってくれたのは、不思議な浮輪。満月の夜に空気を入れたところ、浮輪はふわりと浮かび上がって空を飛んでゆく・・・。仔猫の「えびお」の一夜の冒険を描いた素敵な絵本。単行本(ブロンズ新社)出版は、2011年07月です。

 主人公は「えびお」という名前の子猫。誕生日のプレゼントとしておじいちゃんから送られてきたのは、何と浮輪でした。同封されていた手紙の指示に従って、誕生日の夜に空気を入れて膨らませてみると、その不思議な浮輪はふわりと舞い上がり、えびおを乗せて夜空を飛んで行くのです。その先でえびおを待っていた冒険とは・・・。

 牧野千穂さんによる、にじんだ感じの落ち着いたパステル画が幻想的な雰囲気を盛り上げます。ペンギンやステゴサウルスが飛んでいるシーン、人間より大きな魚を釣り上げて全部食べてしまうシーンなど、いかにもちょっと利発な仔猫が(子供も)夢に見そうな光景がありありと。

 空を飛ぶこと、恐竜、魚釣り、親や友達にも内緒の秘密、そしてドラエモンのようなおじさん(行動のみならず外見も)、子供が夢見るものがぎゅっと詰まった絵本です。この絵本自体が不思議な「浮輪」なので、誕生日のプレゼントとしてどうぞ。


タグ:絵本
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『のせ猫  かご猫シロと3匹の仲間たち』(SHIRONEKO) [読書(随筆)]

 あの「かご猫」シロちゃんが兄弟たちと共に帰ってきた。揃えた前足に何でも乗せてじっとしているユーモラスな写真を中心に、シロたち四匹の何とも可笑しく愛おしい姿をとらえた猫写真集。単行本(宝島社)出版は、2012年3月です。

 猫写真サイト数ある中で、個人的なイチオシといえば、何といっても『かご猫ブログ』です。一時期あちこち猫写真サイトを巡回していたこともあったのですが、今でも毎日覗くのは、ここの他には『くるねこ大和』さんのブログだけとなりました。

  かご猫ブログ
  http://kagonekoshiro.blog86.fc2.com/

 というわけで、かご猫ブログで活躍している四匹の写真集です。揃えた前足の上にミカンを三段重ねにして真剣な顔をしていたり、頭に巨大なナスビを乗せて眠そうな顔をしていたり、狭い箱に皆でぎうぎうに入ってたり。ときに森の中で野生動物ごっこしていたり。見ているだけで全身から力が抜けてリラックスできます。

 もちろん貫祿たっぷりのシロが最も「キャラが立ってる」主役なのは疑いようもありませんが、個人的に「寝るときはあおむけ」(本書p.41)茶トラ君が好き。本書のp.41からp.47を何度も見直しては、茶トラいいなあ、などとつぶやいております。

 かご猫ブログには山ほど写真が掲載されていますが、さすがに単行本にまとめるにあたって厳選したようで、印象的な写真ばかり掲載されています。これまでの「かご猫」の写真集と比べても、本書が一番のお気に入りです。

 通販生活(カタログハウス)ウェブページの看板猫が気になっていた方など、まずは上記の「かご猫ブログ」をご覧になり、気に入ったら購入することをお勧めします。


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『風に舞いあがるビニールシート』(森絵都) [読書(小説・詩)]

 「人の命も、尊厳も、ささやかな幸福も、ビニールシートみたいに簡単に舞いあがり、もみくしゃになって飛ばされてゆくんだ」 難民救済に奔走していた元夫を失ったとき、彼女は一つの決断を下す。彼の想いを受け止め、風に舞いあがるビニールシートを少しでも減らすために・・・。

 UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に勤務する女性の葛藤と決断を扱った表題作をはじめとする6篇を収録し、第135回直木賞を受賞した短篇集。単行本出版は2006年5月、私が読んだ文庫版は2009年04月に出版されています。

 誰にでも、自分にとって譲れない大切なものがある。しかし、そのために家族や社会生活を犠牲にすることが果たして正しいことだろうか。悩み苦しみながら、人生の決断を下す人々。その姿を活き活きと描いた短篇集です。

 どの作品も、読者を引き込む手口が素晴らしい。主人公が置かれている立場や特殊な職業をじっくり紹介しつつ読者の興味と共感を引き出し、主人公が抱えている切実な苦悩や葛藤に直面させる。

 自分ならどうするだろうか、と読者に考えさせておいて、不意に登場人物のイメージが一変するようなエピソードを投下。読者が、はっ、としている隙に事態を急スピードで進展させて心地よく翻弄。そして鮮やかな着地を決める。短篇のお手本のような見事な構成を堪能できます。

 仕事と結婚のどちらを選ぶか決断を迫られる『器を探して』、捨て犬保護のボランティア活動を続けるためにくたびれた酒場でホステスとして働く女性を描いた『犬の散歩』、国文のレポート作成を依頼するために伝説の代筆屋を探すうちに自分の本当の望みに気づく『守護神』。前半3篇も満足ゆく出来ばえなのですが、やはり素晴らしいのは後半。

 『鐘の音』では、仏像修復師の見習いである若者が、ある仏像に尋常でない執着心を抱く。この仏像を自分の思う完璧な姿に「復元」してやりたい。だが職人気質の親方は、不出来な部分も含めあくまで原状回復しか認めようとしない。思いつめた若者がとった行動とは。

 青春時代にありがちな傲慢さ、視野の狭さ、余裕のなさ、そういった青臭さを真正面から見つめた作品で、読者は息詰まるような緊迫感と、そして解放感を共に味わうことになります。

 『ジェネレーションX』では、主人公となる中年男性が、初対面の若者と一緒に顧客先に謝りにゆくことになる。移動中も携帯電話で私語を続ける若者の軽薄そうな態度に不快感を覚える主人公。だが、断片的に聞こえてくる会話に次第に惹かれてゆく。

 知らない人が携帯電話で会話しているのを聞いていると、一方の言葉しか聞こえないため会話の内容が微妙に分からず、妙に気になるということがありますが、これを巧みに使った作品です。事態が二転三転して、それまであくまで傍観者だった主人公が、若者に対して世代間の溝を超えた共感を持ち、事情に積極的に関わり合いになる腹を括る展開には胸が熱くなります。

 最後の『風に舞いあがるビニールシート』では、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に勤務する女性が、難民救済に奔走する男と結婚する。しかし次第に二人の心は擦れ違ってゆき、ついに結婚生活は破綻。やがて彼が現地で殺されたという知らせを聞いたとき、彼女は男のことを本当は何も知らなかったことに気づく。彼はどんな人だったのか、彼はなぜ報われない仕事に人生を捧げたのか。それを探し求める彼女の行く手には、大きな人生の岐路が待っていた。

 さすが、と唸るしかない感動作です。深刻化する難民問題を正面から扱いながら、切ない恋愛小説を紡ぎ出す。絵空事にしないで、あるいは単なる書き割り的な背景として使うのではなく、かといって必要以上に深刻ぶったりもせず、あくまで恋愛小説として完成度の高い作品にしてしまう。その筆力には感心させられます。

 というわけで、どの短篇をとっても思わず引き込まれるであろう魅力あふれる作品ばかり。誰もが満足できる良質の短篇集です。

[収録作]

『器を探して』
『犬の散歩』
『守護神』
『鐘の音』
『ジェネレーションX』
『風に舞いあがるビニールシート』


タグ:森絵都
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『台湾時刻表 2012.1』(日本鉄道研究団体連合会) [読書(教養)]

 「台湾時刻表がすごく読みづらいので、勝手に作った同人誌です」(表紙より)
 分かりにくい現地の時刻表を路線別、発着順に整理して見やすくした「日式」台湾時刻表。高鉄(新幹線)、台鉄(在来線)の全路線を網羅。中国関連書籍専門の東方書店で購入しました。 出版は2012年1月です。

 日本人が台湾へ観光に行くとき、鉄道を利用する人はそれほど多くないでしょう。台北を回るだけならMRT(地下鉄)とタクシーだけで済みますし、台北近郊に足を伸ばすときはバスを使います。

 しかし、高雄へは航空便があるとしても、例えば台中や台南といった都市に行こうとすると、長距離バスという手もありますが、普通は高鉄(新幹線)のお世話になるはず。さらに、市街地に辿り着くためには在来線に乗り換えなければなりません。

 このとき問題となるのが、時刻表です。慣れればどうってことはないのかも知れませんが、やはり日本人にとってハードルが高い。結局、「来た列車に乗ればいいのだ。行き先さえ正しければなんとかなる」ということになりがちですが、駅で待ち合わせる場合など、やはり時刻表を確認しないと不便です。さらに「ところで行き先は本当に正しいのか」という不安が生じたとき、どうやって確認するかという大問題が。

 というわけで、東方書店で見つけたのが本書。台湾の鉄道時刻表を「路線別・発着順に掲載した見やすい日本式時刻表」(表紙より)です。見た目の印象は「薄いJR時刻表」そのもの。「わかりやすい 使いやすい 日式 総天然色(オールカラー)」というのが表紙の売り文句。

 50ページほどの小冊子でありながら、高鉄(新幹線)、台鉄(在来線)の全路線、通年運転列車がすべて掲載されています。2011年12月28日のダイヤ改正に対応済。嬉しいことに、台湾の路線図を、あの「ゆがんだ地図」(表紙より)で表現しており、全ての駅と路線が見開き2ページにフルカラーで図示されています。

 さらに「台湾鉄路管理局 営業案内」として、切符に関する知識、ICカードの利用、手回り品の持ち込み、主な車両の列車編成と座席番号配置図が載っています。

 付録として、初心者のための券売機使用方法ガイド(ステップ毎に図解してあって分かりやすい)、空欄に必要事項を記入して窓口に見せるだけで乗車券を購入できる専用メモ、 意外に重宝する「台湾休日カレンダー」(もちろん曜日表記は“日月火水”と日式)などが付いています。裏表紙に台湾コミケの宣伝が載っているのもご愛嬌。

 完成度、実用性ともに問題なし。台湾島周遊の旅には必携の一冊といえるでしょう。ちなみに台湾に行かない方でも、時刻表マニアなら「鉄道だけを乗り継いで台湾を一周するのに必要な最短時間は?」というパズルに挑戦するなど、きっと私には分からない楽しみ方も出来ることと思います。

 購入方法などについては以下のページを参考にして下さい。

  日本鉄道研究団体連合会
  http://nittetsuren.jp/


タグ:台湾
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『オタク的翻訳論 日本漫画の中国語訳に見る翻訳の面白さ 巻九「ケロロ軍曹」』(明木茂夫) [読書(教養)]

 『オタク的中国学入門』で知られる明木茂夫先生の好評シリーズ『オタク的翻訳論』、その九巻が出ました。出版は2011年12月です。遅ればせながら中国関連書籍専門の東方書店で購入しました。

 さて、今巻のテーマは『ケロロ軍曹』(吉崎観音)。オマージュ、パロディ、流行ネタ、お約束など、読者に「教養」を要求するこの翻訳家泣かせの作品を各国の翻訳家はどのように訳したのでしょうか。

 これを多角的に検証するため、何と、英・独・仏・西・中・韓・タイという海外七カ国の『ケロロ軍曹』翻訳版を取り上げ、原本と比較するというおおわざ。これまでも英語版、中国大陸版、台湾版を比較するという企画はありましたが、今回は大幅にスケールアップしています。

 読めない言語の表記については、そこらで大学の先生や留学生をとっ捕まえて確認させたといいますから、巻き込まれた人数も含め、本シリーズこれまでの最大の企画といってよいでしょう。

 比較対象として取り上げている箇所は、例えば次のようなコマです。

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 「よくも我輩を山田隆夫(※)のようにこき使ってくれたなアァァァ・・・!!!」

                            ※笑点のざぶとん
--------

 見開き2ページに同じコマ(しかもゴゴゴゴゴゴという効果音をバックにケロロ軍曹が怒りのオーラ飛ばしまくってる迫力ある絵)の各国版が8枚、ずらりと並んでいる様は壮観。

 さあ、翻訳家にとってこれは面倒な問題。「山田隆夫」や「笑点」をそのまま固有名詞として訳しても海外の読者にとっては意味不明。しかも「※笑点のざぶとん」というのは注釈というよりそれ自体が(注釈記号であるべき「※」が、ざぶとんに見えるということも含めて)ネタになっていて、これも翻訳は困難でしょう。

 意味不明でもいいからそのまま直訳するか、丁寧な解説を入れるか、自国読者に理解できそうな別のギャグに差し替えてしまうか、それともギャグやネタを外して文意だけストレートに訳すか。

 各国の翻訳者が苦心して訳した結果やいかに。実は、七カ国版を並べてみると、何と上に挙げた方針が全て揃っているのには驚かされます。逆に言えば、こういうときどう訳すかには定石がなく、ひとりひとりの翻訳家がそれぞれ悩み工夫して自分なりの答えを見つけなければならない、ということが分かります。はたしてどの国の翻訳者がどの方針を採用したのか。それはどういう事情によるものなのか。詳しくは本書をお読みください。

 他にも、ミラーボール星からやって来たブッチャ毛宇宙人がFEVER!しながら「アイ・アム ダソヌ☆マソ」と自己紹介するシーンの脱力感をどのように表現するのかなど、大いなる試練に対する各国翻訳家の回答比較が楽しめます。


タグ:台湾
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