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『オタク的翻訳論 日本漫画の中国語訳に見る翻訳の面白さ 巻九「ケロロ軍曹」』(明木茂夫) [読書(教養)]

 『オタク的中国学入門』で知られる明木茂夫先生の好評シリーズ『オタク的翻訳論』、その九巻が出ました。出版は2011年12月です。遅ればせながら中国関連書籍専門の東方書店で購入しました。

 さて、今巻のテーマは『ケロロ軍曹』(吉崎観音)。オマージュ、パロディ、流行ネタ、お約束など、読者に「教養」を要求するこの翻訳家泣かせの作品を各国の翻訳家はどのように訳したのでしょうか。

 これを多角的に検証するため、何と、英・独・仏・西・中・韓・タイという海外七カ国の『ケロロ軍曹』翻訳版を取り上げ、原本と比較するというおおわざ。これまでも英語版、中国大陸版、台湾版を比較するという企画はありましたが、今回は大幅にスケールアップしています。

 読めない言語の表記については、そこらで大学の先生や留学生をとっ捕まえて確認させたといいますから、巻き込まれた人数も含め、本シリーズこれまでの最大の企画といってよいでしょう。

 比較対象として取り上げている箇所は、例えば次のようなコマです。

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 「よくも我輩を山田隆夫(※)のようにこき使ってくれたなアァァァ・・・!!!」

                            ※笑点のざぶとん
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 見開き2ページに同じコマ(しかもゴゴゴゴゴゴという効果音をバックにケロロ軍曹が怒りのオーラ飛ばしまくってる迫力ある絵)の各国版が8枚、ずらりと並んでいる様は壮観。

 さあ、翻訳家にとってこれは面倒な問題。「山田隆夫」や「笑点」をそのまま固有名詞として訳しても海外の読者にとっては意味不明。しかも「※笑点のざぶとん」というのは注釈というよりそれ自体が(注釈記号であるべき「※」が、ざぶとんに見えるということも含めて)ネタになっていて、これも翻訳は困難でしょう。

 意味不明でもいいからそのまま直訳するか、丁寧な解説を入れるか、自国読者に理解できそうな別のギャグに差し替えてしまうか、それともギャグやネタを外して文意だけストレートに訳すか。

 各国の翻訳者が苦心して訳した結果やいかに。実は、七カ国版を並べてみると、何と上に挙げた方針が全て揃っているのには驚かされます。逆に言えば、こういうときどう訳すかには定石がなく、ひとりひとりの翻訳家がそれぞれ悩み工夫して自分なりの答えを見つけなければならない、ということが分かります。はたしてどの国の翻訳者がどの方針を採用したのか。それはどういう事情によるものなのか。詳しくは本書をお読みください。

 他にも、ミラーボール星からやって来たブッチャ毛宇宙人がFEVER!しながら「アイ・アム ダソヌ☆マソ」と自己紹介するシーンの脱力感をどのように表現するのかなど、大いなる試練に対する各国翻訳家の回答比較が楽しめます。


タグ:台湾
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