SSブログ

『眠れない…-L’insomnante』(振付・演出:クレール・リュファン) [ダンス]

 2015年5月4日は、夫婦で東京芸術劇場に行って、TACT/FESTIVAL 2015のダンス演目を二本鑑賞しました。

 最初の演目は、クレール・リュファンの2013年初演作品。タイトル通り、不眠体験を扱った60分の舞台です。

 舞台上に登場するは金属枠のシンプルなベッド。その上には、ふかふかの枕を64個正方形に敷きつめた「枕天井」(雲のようにも見える)が吊られています。ヒロインが布団を整えて、ベッドに横たわり、枕元の照明を消して、さあ、そこから、眠れないまま悶々とする一夜の体験が始まります。

 明かりを消すとたちまち始まる奇怪な叫び声やら足音、そしてチェロ演奏。明かりを灯すと消えてしまい、消すとまた始まります。遠くの犬の鳴き声やら誰かのイビキやら、いらつく騒音が耳について離れません。

 うるさくて眠れないので、明かりをつけると、何と頭上には巨大な拡声器が釣り下がって騒音を流しているではありませんか。ヒロインに見つかった拡声器は、するすると「枕天井」に消えてしまいます。妖怪、天井下りか。

 こうして安眠妨害の限りを尽くしてくる怪奇現象の数々にも負けず何とか眠ろうとするヒロイン。立てば、ベッドの下から現れた手が足首をつかんでベッドの下の暗がりに引きずり込んでくるし、横たわれば「天井」から色々なものが降ってくる。チェロ演奏も歌も神経に触るし、ベッドは生暖かくて、姿勢を変え続けないと寝苦しい。

 誰にでも覚えがある「寝苦しさ」があの手この手で表現されます。でも、さすがにこれだけを最後まで続けるのは無理があるだろう、と思いきや、何と、やってしまうのです、一時間の安眠妨害。

 個人的に好きなのは、横倒しになったベッドに無理やりに寝て、重力に逆らって手足だけで身体を支えながら、様々な「寝苦しさのポーズ」を取るシーンです。観客から見ると、まるで普通にベッドで寝返り打っているところを天井から眺めているような光景に見えるという演出ですが、ポルターガイスト現象かも知れません。

 後半になると天井が動き出したり、天井裏から手足が生えてきたり、大量の砂が降ってきたり、しまいには棍棒振り回して直接物理攻撃に出てきたりと、安眠妨害も壮絶になってきます。不眠の稲生物怪録。

 やがては「枕天井」に飲み込まれてしまうヒロイン。その運命やいかに。ていうかまあ、眠れないわけですけど。

 ヒロインは眠れませんが、観客はそうでもなく。舞台照明が薄暗いこともあって動きが少なくなる中盤では眠気に誘われます。次第にうとうとし始める観客もいて、私たちの隣席の客など早々に寝落ちしてしまい、イビキまでかいて安眠。この演目に限っては、眠れないヒロインの惨めさが引き立てられていい感じでしたが、もしや、そこまで含めて演出意図なのか。

 というわけで、不眠という馴染み深い体験に含まれる、不安感、焦燥感、恐怖感、そして他人事として眺めるときの滑稽さを、うっすら悪意と風刺でくるんだような、面白い公演でした。

『眠れない…-L’insomnante』

振付・演出: クレール・リュファン
美術・作補: カミーユ・ボワテル
出演: アンナ・カルシナ、カミーユ・ボワテル、
カトリーヌ・エクスブライヤ(チェロ演奏)


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇