SSブログ

『リス・ネズミハンドブック』(飯島正広、土屋公幸) [読書(サイエンス)]

「はじめに」より
--------
ネズミの仲間は哺乳類のなかで最も多い種類数にもかかわらず、人里知れぬ森や高山で暮らしている種類がいることを私たちは知らない。それは昼間活動しないことも起因するが、今までそんなネズミ達を一般に紹介する図鑑すらなかったことも大きい。
--------

 種の数にして、哺乳類の実に半分近くを占めているリス・ネズミの仲間。そのうち、日本に棲息しているものをすべて写真付きで詳しく紹介してくれるカラー図鑑。単行本(文一総合出版)出版は、2015年4月です。


--------
 世界には5,416種もの哺乳類が知られているが、そのうち41%、2,277種がリス・ネズミの仲間(ネズミ目もしくは齧歯類)で、日本には外来種も含めると31種が知られている。
--------
単行本p.2


 シマリス、ムササビ、モモンガ、ヤマネ、ヤチネズミ、ハタネズミ、カヤネズミ、アカネズミ、クロネズミ、ケナガネズミ、ハツカネズミ、ヌートリア、そしてドブネズミ。天井裏から山奥まで、様々な場所で活動している「ネズミの仲間」を調べるための図鑑です。

 日本に棲息している総ての齧歯類31種を網羅し、それぞれの種について、和名、学名、英名、全体写真、部分写真、頭骨写真、生態写真、生息環境や食痕を含む解説を付けた、実用的な図鑑となっています。新書サイズで、コンパクトかつ軽量なので、フィールドワークのときにポケットに入れておけば重宝しそう。

 生態や繁殖など解説が詳しいことに感心しますが、トクノシマトゲネズミ(日本固有種、絶滅危惧1B類)の項目に「まだ何もわかっていない」(単行本p.53)と明記されていたりして、馴染み深いような気がする齧歯類についてもまだまだ知らないことが多い、というか知られないまま絶滅してしまう恐れが高い、という事実を思い知らされます。

 予算や人手の他にも、齧歯類のフィールド調査には様々な困難があることも分かります。最も印象的なのはセスジネズミ(絶滅危惧1A類)。この種は「日本では琉球列島の尖閣諸島のみに生息している」(単行本p.65)ということで、サンプルが捕獲されたのは魚釣島だけ。しかも、その魚釣島では、「1978年に持ち込まれた2頭のヤギが繁殖を繰り返し、すでに300頭以上を超え、本種の生息地の草地を裸地化させ、セスジネズミの生存が危ぶまれる」とのこと。すぐにでも上陸して調査したいところでしょうが……。

 他にも、多くの種に「絶滅危惧」のマークが付けられていて、私たち人類の活動による環境改変がどれだけの広範囲な大量絶滅を引き起しつつあるか、じんわりと実感がわいてきます。まあ、人類絶滅後も、この図鑑に載っているいくつかの種は確実に生き延びることでしょうけど。

 というわけで、ネズミ嫌いの方には全くお勧めできませんが、シマリスやヤマネだけでなく、ネズミはみんな可愛いと思う人なら大喜びしそうな一冊です。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: